第三話 真犯人……?
私は、クレアに恐怖していた。
最初はこんな状況の中だが、クレアのことは明るくて優しそうな人だと好感を持った。ミディアムな内側にくるんとしたヘアスタイルも良く似合っている。元気で明るくて自然にひとを和ませてしまうような雰囲気を持っている。こんな人当たりのよさそうな人に、悪感情を抱く人なんていないだろう。
けれどもクレアは、私がどうしてリリーシャ・ローランドに転生したのか、その経緯を知っているのだ。それはつまり、彼女が事件に関わっていることを意味しているからではないのか。
「ローランド、どうしたの?」
私は身を固くして、後ずさりした。
キャビネットに背中をぶつけてしまったが、構わず後ろに下がる。
「本当にどうしたの?」
クレアは、不可解な態度の私に苦笑していたが、納得したように笑った。
「ああ、そういうこと? 鳥居だけど、私は貴方をローランドと呼ぶから。貴方はもう、リリーシャ・ローランドとして転生したから。郷に入っては郷に従え、よ」
「ち、違います! そんなことは重要じゃないんです!」
私の怒鳴り声に、クレアは唖然としている。知らないふりを続けるつもりか。私の顔がいらだちで染まるようだ。
「ローランド、どうしたの? ああ、まだこっちの世界に慣れてないから……」
「クレアさんもシャードさんも、私がどうしてこうなったのか知っているんですよね? 私をこの世界に転生させたのも、それはつまり……」
私は躊躇したが、覚悟を決めて言い及ぼした。
「それはつまり、クレアさんやシャードさんが、私を『殺したから』じゃないんですか!」
「えっ……? ええっ!?」
クレアは明らかに戸惑っている。
私が、どうしてリリーシャ・ローランドとして、ここに存在するのか。
嘘だと決めつけていたが、これは本当に転生なのかもしれない。
何故なら『鳥居香姫』は、すでに黒いもやに『殺されてしまった』からだ。
『鳥居香姫』、享年十六歳。
『リリーシャ・ローランド』は絶世の美少女だが、私『鳥居香姫』は普通の特に可も不可もない一般市民だった。
他人と際立って違うところと言えば、生前の私は非常に霊感が強かった。
そのため、常に幽霊に怯える生活をしていたのだ。
けれども、リリーシャ・ローランドになってからは、全く見えない。体質が違っているからだろうか。
生前は数珠や十字架のペンダントは必須で、それでも頼りなかった私は霊感の強い初恋の人に守ってもらっていた。
けれども、彼のいなくなった隙を突いて、私は黒いもやに取り殺されてしまったんだ。
その黒いもやは人語を話した。
『この魂は私のものだ! 他の誰にも渡さない!』
そう叫んだ黒いもやは、よりによって私の首に取り巻いて窒息死させたのだ。
何故、私が殺されたのか目的も理由も分からない。
私は、私を殺した犯人を絶対に許したくない。
クレアやシャードは、私がどうしてこの異世界に来たのかも熟知しているようだった。私たちの味方でいれば、悪いようにはしないとも。
それはつまり……クレアとシャードが共謀して、私を殺した事を意味している。
歯止めが利かなくて、私は怒鳴ってしまった。
「許さないから! クレアさんの事をずっと恨んでやる!」
私は、やたらめったらと、手近にあったものをクレアに投げつけた。
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
「うわあああああああああああ!」
「話を聞いて! 待っ――!?」
泣きながら投げた枕が、クレアの顔に命中した。
「あ」
「……」
枕は、クレアの顔にめり込むように張り付いていた。
だが。
役目を終えたように、ぼとりと落ちた。
「……」
「……」
クレアは、無表情で私を見ていた。
枕が張り付いていたところが、少し赤くなっている。
罪悪感を感じていると、クレアが急に笑い出した。
「ウフフフフ」
「……っ!?」
「可視編成!」
私に手を翳して、クレアはドスの利いた声で叫んだ。
『可視編成』の呪文は、低音と高音が一緒になって膨張したような特殊な発音だった。どこから声を出しているのだろう。
そう思うより早く、どこからともなく出てきた縄で私はぐるぐる巻きにされてしまった。
「……っ!?」
私は恐怖して震えた。クレアは、落ちていた縄を拾い上げる。
そして、ピシッと鞭のように引き延ばした。
「もう一回、死にたいのかな?」
諭すような優しい声と笑顔は、その恐怖のセリフを引き立てている。
私は、恐怖でガタガタと震えた。
「い、いえ……!」
「じゃあ……大人しく、私の話を聞くわよね?」
「はい、聞きますっ! もちろんですっ! 綺麗なクレアお姉さまっ!」
「よろしい」
そして、クレアは事のいきさつを話し始めた。