第二話 ジュリアスの目的
二人は死角でにらみ合っていたので、当の私が険悪な空気に気づくわけもない。その火花の元を断ち切るように切り出したのはジュリアスだった。
「ちょっと、ノースブルッグに話があるんだけどいいか?」
「別にかまわないよ?」
「外で話そう」
「ああ」
「私も行って良い?」
二人が行くなら私も付いて行くのが当然と思っていた。だから、許可をくれることを前提で訊いたのだが。
『ダメだ!』
二人は断固として私を拒否したのだ。彼らの顔が般若にそっくりになり、背後にに稲光まで見えた。険悪な空気がこちらに向いていると錯覚して、私は臆してしまった。
「えっ……! ど、どうして!?」
「ノースブルッグに大事な話があるからだよ」
「そういうわけだから」
「ええ~っ!」
声を上げる私を無視して、二人は医務室から退室した。
話とは何だろう。純粋に興味がある。しかし、二人が行くなら私も同伴するのが当然とばかりに思っていたのに、拒否されてしまったのだった。
・*:..。o○☆*゜¨゜゜・*:..。o○☆*゜¨゜゜・*:..。o○☆*゜¨゜
廊下を生徒たちが追い駆けっこしながら通り過ぎていく。ジュリアスはそれを一瞥して、クェンティンの方に視線を戻していた。その廊下の窓枠にクェンティンは腰かけている。ジュリアスが言葉を選んでいる内に、生徒たちはいなくなっていた。
「……何時の間にリリーシャと友達になったんだ?」
クェンティンは苦笑した。
「そんなことをわざわざ言いに呼び出したのかよ?」
目的は他にあるんじゃないのかと、クェンティンの目が探っている。勿論、ジュリアスの目的はそれではない。
「答えろよ」
命令するが、クェンティンは以前のように激怒した様子もない。リリーシャと仲良くなったことで、心に余裕ができたのかもしれなかった。
「そうだよ。リリーシャの事は失った今でも忘れられない。でも、リリーシャの姿をしている香姫を見ていると、心が安らぐんだ。以前のようにリリーシャと話しているような気分になってさ」
どうやらクェンティンは、ジュリアスもリリーシャの秘密を知っていると思っているらしい。さらりと『香姫』という固有名詞が出てきた。
「……リリーシャの代わりってわけか? 『鳥居香姫』が?」
「ああ。今はそうだよ。でも、香姫は良い子だから、これから恋に発展するかもしれないし、しないかもしれない」
ジュリアスが黙っているので、クェンティンは用が済んだと感じたようだ。
おそらくクェンティンは、自分の感情が大したものじゃないと知って、ジュリアスが安心したと思っているのだろう。
「話ってそれだけか?」
「ああ、手間取らせたな」
「俺、先に夕食済ませるから。香姫……いや、リリーシャに言っておいてくれ」
「ああ」
「じゃあな」
クェンティンは、穏やかに去っていった。一方で、ジュリアスは満足している。クェンティンから情報を聞き出せたからだ。
「香姫……。鳥居香姫か……」
やはり、あのリリーシャは鳥居香姫だった。以前、香姫にその事を告白させようとして困らせてしまったから、一時期は訊くことを諦めたのだ。ジュリアスは、嬉しくなって頬を緩めた。
しかし、その事を香姫に確認するには、一つ問題がある。自分の事を話さなければならないからだ。例え言っても信じてもらえないに違いない。
「どうすればいい……?」
ジュリアスが考えあぐねていると、後ろから誰かが駆けてきた。
振り返ると、アリヴィナ・ロイドが息を切らしていた。何かあったのだろうか。
「ちょっと、ジュリアス!」
「どうした、ロイド?」
「リリーシャが落ち込んでいるよ!」
「えっ?」




