第十三話 二章完結 和解
丁度その時、シャッターが開いて太陽の光が入ってきた。もう、夕暮れ時になっていた。日の光が赤く染まっている。
倉庫を開けたのは、マクファーソン先生だった。ダルそうに欠伸をしている。
「ジュリアス・シェイファー。忘れ物はあったのか? ……おい、どうして、リリーシャ・ローランドとクェンティン・ノースブルッグがいるんだ!?」
「忘れ物はこの二人です! すみません! ……行こう、リリーシャ!」
ジュリアスが小声でささめく。
「えっ、ちょっと、どうなってるの?」
「いいから!」
ジュリアスはクェンティンを背負って、私と一緒に駆けだした。
「倉庫で遊ぶなどと、全くもってけしからん!」
マクファーソン先生の怒鳴り声が背中の向こうで響く。
そして、私たちは、医務室に駆け込んだ。
「ノースブルッグの気分が悪いので、クレア先生、診てください!」
「良いわよ~」
クレア先生ののんきそうな声が返ってきた。クレア先生は、クェンティンに可視編成をかけて治癒している。私は、傍観しているジュリアスの袖を引っ張った。
「どうなってるの?」
「ああ、マクファーソン先生の事だね。マクファーソン先生に手っ取り早く、『忘れ物をした』って言って、瞬間移動の魔法をかけてもらったんだ」
そういえば、マクファーソン先生は空間転移の魔法が使えたんだった。私も一度かけられたことがあるのを思い出していた。あの魔法は熟練した魔導師でなければ使えないのだから、マクファーソン先生は相当熟練した魔導師なのだろう。
「でも、間に合ってよかったよ」
「うん、助けてくれてありがとう」
私とジュリアスは微笑み合った。
「あら、こそこそと、何の話?」
クレア先生は興味津々だ。クレア先生に相談した方が良いのだろうか。口を開いた途端、ジュリアスが遮った。
「課題を手伝ってあげたんで、お礼を言われただけです」
「あら、そう? ノースブルッグは元気になったわよ」
「ありがとうございます!」
「私は先に食堂でご飯食べてくるわね~」
クレア先生は、鼻歌を歌いながら、楽しそうに医務室から出て行った。
「それにしても、このキーホルダーにあんなからくりがあったなんて……」
ジュリアスがキーホルダーを取り出して呟いた。やはり、キーホルダーは二つあったのだ。ジュリアスが犯人だと一時は疑ってしまったが、彼は無実だった。私は、心の底から安堵したのだった。
「リリーシャ」
ベッドから、クェンティンの声がした。私とジュリアスは、ベッドのカーテンを引いた。ベッドの上で上体を起こしたクェンティンが、穏やかに微笑んでいた。
「クェンティン君……!」
それはいつも通りのクェンティンだった。雰囲気が彼のものだと物語っている。
「シェイファー、迷惑をかけたな。でも、少し席を外してくれないか?」
「分かった」
今日のクェンティンはいつものような喧嘩腰ではなかった。かと言ってもいつもは、ジュリアスが挑発しているのだけれど。今回は、ジュリアスも少し責任を感じているのかもしれない。ジュリアスはため息を吐いて、大人しく医務室から退室した。
「リリーシャ……」
「クェンティン君、何?」
「香姫って呼んだ方が良い?」
「えっ!? なんでその事を知ってるの!?」
クェンティンは穏やかに微笑んだ。けれども、私は驚愕することしかできない。
「キーホルダーの中で聞いていたんだよ」
「じゃあ、私の秘密も全部知って……!?」
「うん、知ってる」
青ざめている私にクェンティンは即答した。クェンティンは、切なそうな顔で私を見ていた。空気が気まずくなってしまった。
「動いている君を見ていると、リリーシャが殺されただなんて信じられないけど……」
「う、うん……でも、本当なの。ごめん……」
「でも、リリーシャを殺した黒幕は絶対に許せない! 香姫、俺も、黒幕を倒す手伝いをさせてくれないか?」
「うん、分かった」
クェンティンが笑顔になったので、私も釣られて頬を緩めた。
「でも、普段はリリーシャって呼んで? クラスだと差し障りがあるし、それに可視使いの事も命に係わるから」
「分かってる。でも、二人でいるときは香姫で良いんだよな?」
「うん」
「じゃあ、俺と友達になってくれないか、香姫」
「うん! 友達になろう!」
私とクェンティンは仲良く微笑み合った。ジュリアスの他にも、心を許せる友達ができて嬉しかった。
「……ところで、俺の腕にいつの間にか高そうな腕輪がはまっているんだけど」
「えっ……どれ?」
「これ」
クェンティンは腕輪を外して、私に見せた。これは、黒幕の残して行った証拠なのだろうか。しばらくの間、私はその腕輪を見つめていた。
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┃二┃┃章┃┃完┃┃結┃┃!┃
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◆◇◆――……第三章に続く……!――◆◇◆




