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不可思議少女は今日も可視する  作者: 幻想桃瑠
◆第二章◆【鳥居香姫は不可思議な黒幕とクェンティンに動揺する】
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第十一話 香姫(かぐや)VS黒幕

「良いわよ! その勝負、受けて立つ!」


 もともと、この命だって有って無かった様なものだ。一度死ぬも二度死ぬも同じこと。そう思って、勇気を奮い立たせた。なんとしても、クェンティンを元に戻してみせる。

 クェンティンの姿をした黒幕は、クェンティンが絶対しないような顔のゆがめ方をして口元を釣り上げた。


「それでは、これを見てください」


 黒幕は、制服のポケットからキーホルダーを取り出した。


「それって!?」


 私は驚愕した。このキーホルダーが、データキューブの格好をしていたからだ。リリーシャの引き出しから出てきた、あのキーホルダー瓜二つだったのだ。


 なんで、このキーホルダーを黒幕が持っているのだろう。リリーシャのキーホルダーはジュリアスが持っているはずだが。まさか、本当に、ジュリアスが……?


「このキーホルダーにクェンティンの魂を閉じ込めてあります」


 私は、黒幕の言葉にハッと我に返った。


「このキーホルダーを開けることができたら、クェンティンの魂は勝手に元の身体に戻って、私はこの身体から追い出されます。つまり、このキーホルダーを開けることができれば、クェンティンは元に戻るというわけです」


 ジュリアスの事を考えるのは後だ。踊らされてしまっては、黒幕の思うつぼだ。


「ちょうだい!」


 私は、背伸びしてクエンティンの手からキーホルダーを奪い取ろうとした。


「いいですよ」


 黒幕はあっさりとそれを私に寄越した。手に入れることができて、ホッと息を吐く。

 なんとか力任せに手でこじ開けようとした。しかし、引いても押しても、足で踏んで壊そうとしても、びくともしないのだ。

 黒幕は必死な私が面白いのか、クククと笑っている。


「そんなことをしても開きません。ロックがかかってますから」

「ロック……」


 手がかりを求め、キーホルダーを可視した。けれど、何も見えない。可視使いでも可視することができないというのか。もしかすると黒幕は、可視使いの事を研究し尽くしているのかもしれない。


「ロックは、クェンティンが決めたパスワードを言うと開きます」

「パスワード……?」


 そういえば、以前私と話した時に、クェンティンはそれらしい出来事を呟いていた。もしかするとそれかもしれない。

 顎に手を当てて考えている私を見て、黒幕は鼻で笑った。


「制限時間は五分です」


 驚いて、私の心臓がドクンと鳴った。


「そんなの聞いてない!」


 黒幕は可視編成と呟いて、砂時計を出した。


「文句は受け付けませんよ。それでは、スタート!」


 黒幕は、早々と砂時計をひっくり返す。

 ピンク色の砂がガラスの管の下部に少しずつ落ち始めた。

 私は、心臓が早鐘のように鳴るのを落ち着けようとした。


『リリーシャ……『夕陽が見える高台』で俺たちは愛を誓ったよな『生涯、愛しぬく』って』


 クェンティンは確かそんなことを訴えていた。


「ええと! 『夕陽が見える高台』!」


 無反応。


「『リリーシャを生涯、愛しぬく』!」


 これも無反応だ。


「あと、二分くらいですよ」


 黒幕は、耳障りな笑い声を立てて、私を急かそうとする。黒幕のペースに陥りたくないのに、確実にその中に落ちて行く。

 私は、頭を掻きむしった。確か、屋上で彼はこう言っていた。


『この場所、リリーシャとよく来たなぁ……それで、リリーシャと結婚式ごっこしたっけ』

「『結婚式ごっこ』!」


 やはり無反応だ。これ以上のヒントはない。


「あと一分くらいです」


 焦りで私の手足が震える。


「『リリーシャ、愛してる!』 これも違うの!?」

「ああ、もうあと残りわずかだ」

「こうなったら……!」


 最後の奥の手で、クェンティンを可視しようとした。けれども、彼の裸が見えるだけだ。やはり、人間を可視することはできないらしい。

 さもすると、クェンティンが持っている小瓶が見えそうになって、私は慌てて可視することを止めた。


「ダメだ! どうしたら!」

「ブー! 終わりです!」


 クェンティンの姿をした黒幕は、立ち上がった。


「……さて、約束です。香姫さんの魂を食べさせてもらいましょうか?」


 黒幕は手を上げてそれをサッと躍らせた。


「不可視編成!」


 黒幕の声が高らかに響き渡る。すると、アウルベアの檻が消えてしまったではないか。


「素晴らしいですね。ボール先生の檻を消せるだなんて、クェンティン君はとても魔力が高いらしい!」


 クェンティンの事を悠長に褒めているが、私はそれどころではない。


「グルルルル……」


 目覚めてしまったアウルベアは、眠っていたときと比べると印象がまるっきり違う。恐怖の伝道師のような殺気を辺りにまき散らしていた。しかも、高い天井に届きそうなほどの巨体だ。

 逃げればいいのに、腰が抜けてしまったので動けなくなった。


「あ……あ……!」

「アウルベア! 香姫さんを動けなくしてください!」


 黒幕の声が辺りに響き渡った。それに応える様に、アウルベアが手を振りかぶって振り下ろしてきた。


「ギャオオオオオオオ!」

「きゃあああああああ!」


 私はその場に頭を抱えてうずくまった。

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