第二十三話 第一章完結 目覚め
「やった、ジュリアス君のお蔭だね!」
私は座り込んだまま、彼の勝利を喜んだ。少し離れた場所で、ジュリアスが振り返り微笑む。
「いや、リリーシャのお蔭だよ」
「ううん、ジュリアス君の……あれ?」
「どうかした? 魔人は倒したみたいだけど……」
ジュリアスが不思議そうにしている姿が、私の目に映り込んだ。しかし、それだけではないのだ。
驚いたことに、ジュリアスの素っ裸が見えたのだ。下はトランクス姿だが、それでも、ジュリアスの上服が透けている。細身ながら無駄のない筋肉が付いた男らしい上半身が見えた。つまり私の目は、勝手にジュリアスの服の下を『可視』したらしい。
それだけではなく、周りの建物の中も透けて見えている。建物の中では、ベッドで眠っている人の姿が、透明のケースの中で観察していたアリの巣のように良く見える。
くらりと眩暈がした。目の変調が激しくなっている。今の私では制御不能だ。
ジュリアスは、何が起きているのか分かってない。不思議そうな顔をしたまま、私に近づいてきた。
「こ、来ないで……!」
「どうしたんだよ?」
顔を赤らめて、あたふたしている私が面白かったのだろう。ジュリアスはニヤッと笑って、構わずこちらに歩いてくる。
グラウンドのライトの下で、ジュリアスの肌を伝う汗がキラキラと輝いていて。
「す……素っ裸……っ! ふ……!」
私にとってはよほど衝撃が大きかったのだろう。そのまま、鼻血を出して気を失ってしまったのだった。
「リリーシャ!?」
驚いて駆け寄るジュリアスの声が遠くに聞こえた。
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私は再び、医務室に舞い戻ってしまったようだ。目覚めたのはそんなに遅くない。怒鳴り声が響いていて、とても快眠していられるような状態ではなかったからだ。
アリヴィナとガーサイドは、軍警とベルナデット校長先生に厳重に注意されたらしい。そしてその後、彼らはクレア先生に捕まったようだ。
「もう、こんなことは二度としないで! 今回は、何事もなくてよかったけれど、下手をしたらみんな巻き添えを食らって死ぬかもしれなかったのよ!」
アリヴィナとガーサイドは、鬼のようになったクレア先生にこってりとしぼられていた。私の目はもう普通の状態に戻っている。あの出来事が嘘だったかのように。
「すみません、クレア先生……」
「すみません……」
あのアリヴィナとガーサイドがしょげ返っている。珍しい光景もあったもんだ。私はそんなことを想いながら、離れたベッドで見ていた。
「貴方たちに何かあったら、私は……!」
「先生……!」
クレア先生は泣きながらアリヴィナとガーサイドをがっしりと抱きしめていた。
感動的だ。私の涙腺が緩んだ。
クレア先生は、やはり良い先生だった。こんなに生徒たちの事を想っている情に熱い先生だ。アリヴィナもガーサイドも、私のために駆け付けてくれたみたいだし。私の周りは敵ばかりだと思っていたけれど、そうではないのかもしれない。
「でも、先生! 私たちは、リリーシャの『記憶を取り戻せるように』願ったんです! 魔人は『能力を目覚めさせる』って言っていませんでしたか? それに、私たちの魔法では何の反応もなかったのに……!」
「それに、シェイファーが倒したあの銅像は元の場所にあったし……」
「とにかく、銅像は軍警に引き渡しました。あちらで調べてくださるでしょう。それにしても、願いを叶える魔人はこの魔法学校の守り神なのに……変なこともあるのね」
医務室のドアの背に、クェンティンが凭れてそれを聴いていた。私が目覚めたことは気付いていないらしい。
そこに、ジュリアスが入ってきた。
「リリーシャ、気が付いたんだな!」
「うん、私も無事みたい」
ジュリアスは私の信用を勝ち得ていた。
ジュリアスが助けてくれなければ、
彼の腕輪がなければ、
私は今頃――。
「えっ!? リリーシャの目が覚めたのか!?」
「リリーシャ! ほんっと、ごめんね!」
アリヴィナとガーサイドが駆け足で、私がいるベッドの方にやってきた。お祝いムードの医務室には自然と会話に花が咲く。
それに交らずに、クェンティンは医務室を後にした。
ジュリアスを、嫉妬に満ちた目で一瞥して。
彼の靴音が廊下に響いていた。石の床に冷たい音を響かせて――。
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┃一┃┃章┃┃完┃┃結┃┃!┃
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◆◇◆――……第二章に続く……!――◆◇◆