第二十二話 願いをかなえる者
私の目は変調をきたしていた。ジュリアスと炎に巻き込まれた魔人が、四重に見えるのだ。
「不可視編成!」
ジュリアスは魔人を消そうとしたらしい。けれども、全然消える気配がない。
魔人は不敵に笑う。
ジュリアスは舌打ちした。そして、新たに呪文を編成する。
「可視編成!」
ジュリアスは必死に戦っているが、魔人は無傷だった。立ち上がろうとした私は、視界が定まらずによろけて壁にもたれかかった。
「小僧、お前の力はそんなものか?」
「リリーシャ!」
唐突に、ジュリアスが私の名前を呼んだ。
「な、何、ジュリアス君」
「助けを呼んでも無駄だ。その小娘は魔法を使えない。それに、辺りには眠りの魔法をかけてある。助けはこない」
ジュリアスは魔人のセリフを無視した。そして、ジュリアスはそれと対峙したまま、背中を向けて私に語る。
「……さっき、リリーシャの手に僕の腕輪を通した」
「えっ、これ……?」
いつの間にか、私の手にはジュリアスがしていた腕輪がはめられていた。ジュリアスと初めて出会った時に、女っぽい腕輪だなと思っていたあの腕輪だ。
「リリーシャ。その腕輪に宿っている『残留思念』が読み取れないか?」
「残留思念……?」
「もしリリーシャが、『可視使い』なら『本当の腕輪の持ち主』の残留思念を読み取ることが可能だ」
四つに見えていた腕輪が照明の光で鈍く光る。私は腕輪を触りながら、それを凝視した。
すると四つに見えていた腕輪の絵が、目に吸い込まれるようになって思念が頭に入ってきた。
「あ……人影が見える……」
リリーシャと同い年くらいの腕輪をしている人影が見えた。顔はよく分からないけれど……。初めて腕輪をして喜んでいる姿が脳裏に浮かんだ。これが残留思念なんだろう。
「その子は、どうやって『可視使い』を制御していた?」
ジュリアスの諭すような声を受けて、腕輪の中に残っている『残留思念』を辿っていく。腕輪の記憶の中にいる人影がしていた通りにしてみると、眩暈が治まり四つに見えていた視界も元に戻った。
「あ、元に戻った! 普通の視界になってる!」
何気なく私は魔人の方に目を向けた。
魔人と目が合う。すると、魔人の過去の映像が吸い込まれるように目に飛び込んできた。それは何年か昔に、魔人が何者かに倒される姿があった。魔人の弱点となった物が、確かにその映像に残っていた。
私は我に返って、ジュリアスに声を張り上げる。
「ジュリアス君! 魔人の弱点は鈴だよ! その鈴を狙って!」
ジュリアスは、手を魔人に翳す。
「可視編成!」
彼が奏でる呪文の二重音が辺りに響いた。現れた無数の矢が、願いを叶える魔人の鈴に吸い付くように突き刺さる。破裂音がして鈴が破壊されると、魔人は霧が消える様に薄くなり消滅した。