第十四話 第四部最終章完結 学年末テスト*
翌朝、私とジュリアス、澄恋は、ベルナデット校長先生とシャード先生にこってりとしぼられた。
マリエル・クレイトンには、もうアレクシス王子に利用させられないように、願い事を使わせた。人間になって普通に生活できますように。そう、祈るように私は入れ知恵したのだ。これで、願い事をかなえても消えなくて済むというわけだ。私は、クレイトンからもベルナデット校長先生からも感謝された。一件落着だ。
でも、妖魔王グリードンの封印鏡が封印所に戻った後。アレクシス王子はそうとう気まずいのか、顔を見せようとはしなかった。
しかし、私の女子寮の自室が煌びやかに改装されていたのには驚いた。部屋の中には高そうな調度品の類が増えている。しかも、空間を弄ったのか、室内が広くなっていた。私の勉強もはかどることこの上なしだ。これは、アレクシス王子の罪滅ぼしなのだろうか。
でも、五十億ルビーの賞金首を捕まえたから、五十億ルビーが入って……来るはずがない! 絶対に、アレクシス王子にピンハネされる! 間違いない! そう思うと、悔しくなるのだが、私はそれどころではなかった。
妖魔王グリードンとひと悶着あった翌日は、学年末テストの日だったのだ。
妖魔王グリードンのせいで私は全く勉強ができてない。もしかしたら、一学年がダブるかもしれない。
翌日、私は憂鬱なため息を吐きながら、教室のドアを開けた。
「おはよう……」
「ジュリアス様!」
丁度、ジュリアスのもとにイザベラが駆けて行くところだった。
「ジュリアス様!」
「何かな、ハモンドさん?」
ジュリアスは黒い笑みで笑った。
あれ? 私は眼を瞬いた。
昨日まで、イザベラさんと言っていたのが元に戻っている……?
ジュリアスは、記憶喪失のはずなのに。
イザベラも、僅かにそれを感じ取って、目を三角にして私を睨んだ。
私言ってないよ? 私は首を横に振る。
「ハモンドさん、僕と貴方が付き合っているというのは嘘だよね?」
「香姫さん! 貴方やっぱりジュリアス様に言ったのね!」
「僕に言ってないって何かな?」
イザベラはハッとして、口元を押さえた。
「やっぱりね? 何となく変だと思ったんだ。僕はハモンドさんに全然恋愛感情を抱いてないような気がしてね?」
「じゅ、ジュリアス様!?」
「金輪際、僕に近付かないでくれないかな?」
ジュリアスはイザベラにブラックスマイルを放った。
イザベラには会心の一撃だったらしい。イザベラは泣きながらそこから走り去った。
私は唖然として、その光景を見ていた。ジュリアスが近寄ってきて、私にいつものように微笑んだ。
「ジュリアス君、記憶が戻ったの?」
「ううん。でも、僕は勘が鋭いからね? 何となく嘘は見抜けるんだ」
さすが、ジュリアスだ。どこまでも鋭い。
ジュリアスは、「そうだ」と言ってローブのポケットから、何かを取り出して私に手渡した。
「これ、プレルーノ・モンドだっけ? 昨日忘れて行ったでしょ?」
「あ、ありがとう……」
「香姫さんは、僕がいないとダメなんだからね?」
「えっ?」
私は、ジュリアスのその笑みの意味が全然解らなかった。
「そうそう、俺らが守ってあげないとダメなんだな香姫は」
傍観していた澄恋までがニヤリと笑った。
「ううっ、澄恋君まで……」
私は、素直に降参して、プレルーノ・モンドを受け取って、ポケットにしまった。
「試験を始める! 席に付け!」
シャード先生の声が響き渡った。テストの問題がデータキューブに表示される。
ああ、落第かもしれない。私は諦め半分で問題を解き始めた。
……ん?
おお!
なにこれ!? 解ける!
すッッッごく問題が解けるッッッ!
私って、天才だったのねッッッ! 私ってやればできる子ッッッ!
私は、嬉し泣きをしながら問題を全部解いていく。
今まさに、奇跡が起こった!
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それは、香姫が天才というわけでも、奇跡が起こったというわけでもなかった。
香姫が自画自賛して、問題を意気揚々と解いていた頃――。
宮殿では、サミュエル王子とアレクシス王子が、お茶をしながら優雅なひとときを過ごしていた。
「今頃、香姫はテストがはかどって、嬉し泣きしているだろうな」
「そうですね。お気楽な香姫さんはプレルーノ・モンドのせいだって全然気づいていないでしょうね」
サミュエル王子とアレクシス王子が影で笑っていたことに香姫は全く気づいてなかった。ジュリアスの記憶が少し戻ったような気がしたのと、テストが滅茶苦茶はかどったのが、プレルーノ・モンドのせいだということも、ニブい香姫はまったく勘付くこともなかったのだ。
「世界一硬い石であるが、『記憶力を極限までに高める石』でもあるからな。アレクシス、教えてやらないのか?」
「教えなくていいんですよ。あれでも、香姫さんは正義感が強いでしょう?」
「ああそうだな」
「私だけ不正はしません! 等と言って、進級できなくなりますからね」
「なるほどな!」
「知らない方が幸せなことだってあるのですよ。香姫さんは可愛いですから、私の手のひらで転がしててあげます」
アレクシス王子がにっこりと笑って、そんなことを言っていたということも香姫は全然知る由もなかった。後で聞かされて、脱力するのはまた別の話――。
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そう言えば――。
『この試験は恐ろしいぜぇ! なんてったって、途中が地獄だからな! 地獄のような猛勉強をこのテストにぶつけるとき、絶叫が学校内に響き渡るらしいってウワサだぜ!』
たしか、数日前にアミアン・ガーサイドがそんなことを言っていた。
テストの終わりの、古代魔法学の試験の時にその謎が解けた。
古代魔法学の発音のテストだ。低音・中音・高音を一気に出すというものだ。
できるか! と突っ込みたくなるこのテストが曲者だった。
「ぼえぇぇええええ!」
「くぇええええええ!」
「くぁわあああああ!」
奇妙な絶叫が学校内に響き渡った。
ガーサイドが言っていたのは、この事かと私はほっと胸をなでおろした。
しかし、ビートン先生は恐ろしかった。発音が完ぺきにできるまで帰してくれなかったのだ。
翌日、喉がかれて声が出なくなった。ある意味、恐ろしい試験だった。
そして、私たちクラスメイトは苦労の末、無事進級できたのだ。
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余談ではあるが――。
一学年の冬休みの頃。ジュリアスにフラれまくっていたイザベラに超イケメンの彼氏ができた。
その彼氏は、討伐隊のティアニー・カークという年上の青年だ。彼は滅茶苦茶正義感が強いので、悪女だったイザベラの性格まで、幸せのせいか、彼氏の影響か、正義感溢れるいい子に変身したという。
悲恋街道まっしぐらなイザベラが運命の人に出会って、幸せに暮らしたというのは、また別の話だ。
私、鳥居香姫はどうしたかというと……?
私も、ジュリアスと澄恋、それに良い人たちに囲まれているから、それなりにハッピーエンドなのである。
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┃第┃┃四┃┃部┃┃最┃┃終┃┃章┃┃完┃┃結┃┃!┃
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◆◇◆――……お付き合いくださいましてありがとうございました……!――◆◇◆




