第十一話 妖魔王グリードンと香姫
私はとっさにローブのポケットに手を突っ込んで、『それ』を引っ掴むと、空高く投げた。『それ』は、妖魔王グリードンの石化の魔法をはじいて、また地に落ちてきた。
私は走って、それを再び拾い上げた。
妖魔王グリードンは納得したようにうなずいた。
「プレルーノ・モンドか……なるほどな……」
私が投げたのは、アレクシス王子とサミュエル王子から貰った世界一硬い石だ。ダイヤモンドより硬いし、火にも強い。
咄嗟に私の脳裏に浮かんできた策がこれだったのだ。
「これなら何とかなると思ったの!」
「流石、香姫さんだね」
記憶のなくなったジュリアスにも褒めてもらえた。私の唇の両端が自然と上がる。
「アレクシスもたまには役に立つのか」
澄恋がひとりごちて、空に呪文を放った。
「可視編成!」
ジュリアスも続いて、呪文を放つ。
「可視編成!」
可視編成が作り出した『雷』は、滞空している妖魔王グリードンに直撃した。
「雷の可視編成だね! そっか、雷は一番高いところに落ちるから! 流石、澄恋君とジュリアス君だね!」
「褒めるのはまだ早いよ」
ジュリアスと澄恋は上空を睨んでいる。
「えっ……?」
「その通りだ……余には全く効いてない……」
妖魔王グリードンは、顔をしかめることすらせずに、面白そうにフッと笑って見せた。
「な、何で!? 全然効いてないだなんて!」
まるで、見えないバリアでコーティングされているような強固な体だ。もしかしたら、プレルーノ・モンドよりも硬いのではないかと錯覚しそうになるぐらいの――。
「討伐隊より、お前たちの方が強そうだが……」
「それは身に余る光栄ですが……! 可視編成!」
ジュリアスは再び、雷の可視編成を放った。
「こっちだよ!」
「えっ?」
「行こう! まともに戦ったんじゃ勝ち目がない! 時間稼ぎだ!」
「う、うん!」
私たちは、森の中に足を踏み入れた。森は木の根を張り巡らしていたが、森全体が澄恋の呪文で発光しているので、つまずくこともない。
「よし、二手に別れるか。僕は、左の道を行って引き付ける。シェイファー、香姫を頼む」
「分かった!」
「澄恋君……!?」
「捕まったって、石碑になるぐらいだ。人間に戻れるかどうかは分からないけどな。でも、香姫が何とかしてくれるって信じてるから」
「っ……!」
澄恋は、派手に可視編成の衝撃波を放ちながら、左の道を進んで行く。
私は澄恋の姿を目で追っていたが、ジュリアスに手を引かれた。
「香姫さん、行こう!」




