第七話 クレイトンとアレクシス*
アレクシス王子に呼び出されたのか。けれど、私はクレイトンの顔を見て驚いた。彼女は涙を流していた。
クレイトンは気丈に涙をぬぐった。彼女の微笑を見た瞬間、再び私は吃驚した。いつもは決して表情をあらわにしない彼女だからだ。
「鳥居さん、今までありがとう。ちょっとの間だけど、貴方と同じクラスメイトに……ううん、友達になれてうれしかったわ。貴方の事はばらさないから安心して。じゃあ、さようなら」
「えっ……」
私は何が起きたのか分からずに、立ち尽くしていた。
再び第二医務室のドアが開いた。廊下に出てきたのは、カーティス・セシルだった。
「鳥居さん、こんな所にいたのかい。まさか避けられるとは思わなかったけど」
「すみません……」
相当気まずいが、それよりもクレイトンの事が気に懸る。
「鳥居さん、アレクシス様がお呼びだよ。さあ、クレイトンさん、行こうか」
「はい」
「行くってどこへですか?」
なんだか嫌な予感がする。セシル先輩が顔を強張らせた。そして、目を微かに逸らす。
「アレクシス様が全部説明してくださるから」
そして、セシル先輩はクレイトンを連れて、どこかに行ってしまった。
私の胸がざわめいた。私は、とんでもない計算間違いをしてしまったんじゃないのか。
私は慌てて、第二医務室に飛び込んだ。
「アレクシス様!」
「香姫さん、ごきげんよう」
アレクシス王子はセンベイを食べてくつろいではなかった。
立ち去る直前といった予感を身にまとい、第二医務室の中央にウィンザーとアシュレイと共に集まっていた。
「全て丸く収まりそうです。香姫さんのお蔭ですね」
「えっ、それはどういうことですか?」
「……マリエルさんがこの手紙をベルナデット校長先生にお渡ししてほしいそうです」
それは変哲もない白い封筒だった。けれど、アレクシス王子が私の問いに答えなかった事に嫌な予感を禁じ得ない。
「そ、そうですか……。分かりました。でも、アレクシス様! 私の条件はのんでくださったんですよね!」
アレクシス王子の顔が強張った。
「……それは、香姫さんが可視すればいいのでは? 可視使いなんですから」
「そ、そうですけど」
「恨まないでください。こうするしかなかったのです」
「えっ!?」
ど、どういうこと!?
「帰りますよ、ウィンザーアシュレイ」
「はっ! 可視編成!」
私が問いただす前に、アレクシス王子はウィンザーに瞬間移動の呪文を唱えさせて、とんずらしてしまった。
どういうこと? やっぱり、私はとんでもない計算間違いを仕出かしたの?
嫌な予感がして、私はすぐに第二医務室の中を可視した。そこには、クレイトンとアレクシスの一部始終が展開された。
「えっ!? クレイトンさんって……!?」
そして、私は、マリエル・クレイトンの正体を知ったのだ。




