第四話 アレクシス王子との駆け引き*
「失礼します……」
第二医務室のドアを開けた。
そこにはアレクシス王子と、護衛人のウィンザーとアシュレイが、センベイらしきモノをかじってソファでくつろいでいた。おもわず私は転がりそうになった。
をい……!
「ああ、香姫さん。異世界のお菓子の『お煎餅』を宮殿のパティシエに再現させたのですが、香姫さんもおひとつどうですか? 今、宮殿で最高級のお菓子ですよ」
やっぱり、センベイなのか……! い、いや、それよりも!
「そんなにくつろいでいても良いのかな!? 妖魔王のグリードンはどうしたのかな!?」
私は指をやきもきさせて、思いっきり突っ込んだ。
「香姫さんこそ第二医務室にいらっしゃるだなんて、星屑の水晶を見つけてくださったんですか」
アレクシス王子は、満面の笑みを返してきた。
「ううっ……」
私は迷ったのち、神妙に頷いた。
「……はい」
「では、渡してくれますね?」
「ここにはありません」
アレクシス王子は、「おや?」という表情になった。
私は、アレクシス王子に微笑み返した。
「渡してもかまいませんが、条件があります!」
無い知恵を絞って考えたのだ。絶対にこの条件を飲んでもらわなければならない。
本気だと思ったらしいアレクシス王子は、諦めたように微笑んだ。
「おねだりですか? 構いませんよ。何でも聞いて差し上げます。それで、条件って何でしょう?」
「まだ、封印鏡の封印は解けてないですよね? だったら、今はそれを盗んだ人の罪も軽いはずですよね?」
「まあ、そうですよね。間に合えばいいんですから」
「出来心だったと思うんです! だから、その人の罪も帳消しにしてもらえませんか!」
アレクシス王子は、仕方なさ気に笑った。
「どうやら、その人というのは、香姫さんのクラスメイトの誰かさんのようですね? それも、香姫さんと仲が良いどなたか……」
「っ!」
流石、腐ってもアレクシス王子だ。でも、まだ誰かは分かってないはず。
「条件を飲んでくれないと教えないし、今後私は一切アレクシス王子に協力しません!」
アレクシス王子は、嘆息した。
「良いでしょう。その条件を飲んで差し上げます。香姫さんが今後一切協力してくれないとなると、私も困りますからね」
私は、胸をなでおろした。
「じゃあ、白状します。私のクラスメイトの、マリエル・クレイトンが持っています」
「マルエル・クレイトン? ウィンザー」
「心得ております。香姫様、クラスメイトの写真の中でどの人がマリエル様か選んで頂けますか?」
ウィンザーはデータキューブを開いて、操作して写真を見せた。
私はそれを指でめくっていく。
「彼女が、マリエル・クレイトンです」
「そう、ですか……!」
私は、アレクシス王子の表情が一瞬驚いて、すぐに笑みに取って代わるのを目撃した。
「え……?」
さっきのアレクシス王子の表情の意味って一体何……?
「アレクシス様?」
「香姫さん、ありがとうございました。ウィンザー、アシュレイ」
「かしこまりました。行くぞ、アシュレイ」
「は、はい……!」
私の横を風のようにウィンザーとアシュレイが通り抜けて行く。彼らはそのまま、第二医務室を飛び出して行った。マリエル・クレイトンから星屑の水晶を取り返すためだろう。
この胸騒ぎはなんだろう。私は何か間違った……?
私は、瞳を揺らしながらドアの方を見つめていた。
「香姫さん、医務室の方には立ち寄られましたか?」
「えっ……? まだです……何かあるんですか?」
「ジュリアス君が魔法研究所からお戻りですよ」
「本当ですか! じゃあ、失礼します!」
あっという間に元気になるなんて、私の気分はなんてお手軽なんだろう!
ジュリアスが元気になって魔法学校に帰ってきた! ジュリアスが、帰ってきたんだ!
そのまま第二医務室を出て行こうとすると、出会いがしらに誰かにぶつかった。
「わっ……!」
「おっと! 大丈夫か、香姫」
それは、景山澄恋だった。
そうか、ジュリアスが帰ってきたということは、澄恋も帰って来ることに等しい。
澄恋とまた魔法学校で生活できる!
それに、私はもう一人じゃないんだ!
「澄恋君! おかえり!」
「香姫、ただいま」
しばしの間、私と澄恋は再会を喜び合ったのだった。