第三話 香姫VSクレイトン
マリエル・クレイトンは、魔法学校の中庭に居た。
「クレイトンさん」
クレイトンに駆け寄ると、彼女の影から老齢の女の人が顔を出した。手にはスコップを持っている。
「あら、香姫さん」
誰かと思えば、ベルナデット・バーンズ校長先生だ。
「あ、ベルナデット校長先生。中庭の手入れをしているんですか?」
花壇には、色とりどりの花々が綺麗に植えられてある。
ベルナデット校長先生はにっこりと微笑んで、マリエル・クレイトンの横に立った。
「ええ。この花たちは、マリエルさんと一緒に植えたのよ」
「そうなんですか……」
クレイトンは、孤独を愛しているようなイメージを持っていた。なんで、ベルナデット校長先生は、クレイトンと一緒に花の手入れなんてしているんだろう。
私は、花壇の花を可視しようとした。花々に近付こうとした私だったが、視界を遮るように、クレイトンに邪魔をされた。
クレイトンは、可視しようとした私に怒っているようだった。
「鳥居さん。用があるのは私になんでしょう?」
「う、うん……。じゃあ、廊下で聞いてくれるかな?」
「分かりました。では、参りましょう。では、ベルナデット校長先生、失礼します」
「またね、マリエルさん」
クレイトンは私の背中を押してずんずんと進んでいく。あっという間に廊下の片隅に連れてこられた。クレイトンは私が何を言い出すのか、察しているらしい。だから、非常に警戒している。
「話って何でしょうか?」
クレイトンは腕を組んで、忙しなく言った。拍を取るように動いている人差し指が、彼女の苛立ちを物語っている。
「水晶の事なんだけど……!」
「水晶? 何のことでしょうか」
私は、彼女の威圧感に負けそうになったが、ギュッと手を握りしめた。ジュリアスのためにできることをするって決めたんだ。
「私、アレクシス様に言われて、星屑の水晶を探しているの!」
「えっ!? 鳥居さん、あの男と知り合いなんですか!?」
「もう一度言うけど、あの水晶を渡してほしいの」
「……嫌です」
目に見えて動揺しているのが分かる。しかし、アレクシス王子をあの男呼ばわりとは。
「このまま、封印鏡の封印が解けたら、クレイトンさんは処刑されるかもしれないんだよ!」
「……同じことだわ……」
「えっ、同じこと……?」
「とにかく、お返事は同じです。私は、星屑の水晶を渡しません」
「でも、私は、ジュリアス君のために何かするって決めたの! クレイトンさんが何と言っても、私はアレクシス様にこのことを言うから!」
クレイトンは震えていた。それでも、笑みを浮かべて見せた。
「鳥居さん、貴方、自分の立場を分かっているのかしら。喋ったら私も貴方の秘密をバラすわ!」
「そう言うと思った。でも、私はそんな力なんてないし、脅しなんかに屈しないって決めたの!」
私は、踵を返して、医務室までひた走った。あれで良かったんだろうか。私の選択は間違っていなかったんだろうか。
医務室の前で立ち止まって、恐る恐る後ろを振り返った。
私を追い掛けてこなかったようだ。クレイトンの姿はそこにはなかった。