第二話 アレクシス王子のお願い6*
第二医務室では、アレクシス王子が突っ立って待っていた。今日は、サミュエル王子はいないようだ。居るのはアレクシス王子とウィンザーだけだ。
私は辺りを見回した。第二医務室には、ベッドやキャビネットが増えている。殺風景な以前に比べて、物が充実してきて医務室らしくなっていた。
ただ、アレクシス王子がここに来訪することは極秘事項らしいので、窓だけは擦りガラスでしかも遮光カーテンが引かれているという徹底ぶりだ。
空調の音だけが天井からしており、四角いプレートの魔法灯の明かりだけが、青白い光で辺りを照らしていた。
第二医務室の内装に気を取られていると、靴音が聞こえて私はハッと我に返る。
いつのまにかアレクシス王子が傍に来ていた。
薔薇のような芳香がふんわりと辺りを支配する。
「アレクシス様、話したいことって何ですか?」
どうやら待ちくたびれていたらしい。
アレクシス王子は疲れたように嘆息して言った。
「愛の告白……」
「え゛……」
私は瞬間凍結した。
「ではありません、残念ながら」
「そ、そうですか……!」
私は胸をなでおろした。アレクシス王子がそんな私に釘を刺すようににっこりと笑った。
「物凄く安心したように見えるのは気のせいでしょうか」
「そ、それよりも。ご用って何ですか?」
「……澄恋君から、事情はお聞きしました。現在、封印鏡を奪った妖魔『ハイエナのファナティル』を軍警が追っています。でも、妖魔の手に渡った今、封印が解けるのは時間の問題でしょう」
「そ、そんな!」
「ですから、香姫さんには、一刻も早く『星屑の水晶』を見つけていただきたいのです」
「賢者ディオマンドさんでも敵わないんですか!?」
アレクシス王子の目玉が右から左に泳いだ。
「……。……。ええ、その通りです」
「なんですか、その物凄い間は……」
「サミュエル兄上に相談すると代役を立てようということになったんです。つまり、敵わない相手ではないかと思われます」
アレクシス王子は百万ボルトのスマイルを放った。
「ううっ……! わ、分かりました!」
上手く言い包められた気がするけれど……。
賢者ディオマンドが敵わないのなら、星屑の水晶に頼らなければ仕方がない。
でも、ひとつ気になることがある。
「妖魔王のグリードンの封印が解けたらどうなるんですか?」
「世界が終わるかもしれません」
「っ!? そ、そりゃそうですよね。けた違いですもんね……!」
自分のお気楽な想像とは全然違う。
「分かりました。なんとかしてみます!」
「頼りにしてますよ。香姫さん」
「それで、星屑の水晶ってどんなものなんですか?」
アレクシス王子がウィンザーに目くばせすると、ウィンザーはデータキューブを開いて見せてくれた。
「香姫様。これが、星屑の水晶の写真でございます」
「っ!?」
私は瞠目した。クリスタル先生が所有していた占い学の準備室にあった水晶であり、マリエル・クレイトンが奪ったという水晶だったからだ。
「どうかされましたか?」
「いえ、何でもないです。見つけ次第連絡します」
「……そうですか。よろしくお願いしますね」
「はい!」
とにかく、クレイトンを説得する他にない。
でも、説得できなかったら、その時は……どうしようか。自然にため息が出る。
私はアレクシス王子に別れを告げて、第二医務室を退室した。
すぐに疑問を浮かべると私の眼は可視状態になる。
そして、マリエル・クレイトンの足跡を追い始めた。




