第一話 アレクシス王子のメッセージ*
ジュリアスが倒れて、澄恋が魔法研究所に呼ばれた後、私はシャード先生にお小言を嫌というほど聞かされた。シャード先生は自分に相談しなかった私に怒っていた。
「もう好きにしなさい。アレクシス王子にも『責任は自分が取るし、鳥居を死なせたりしない』と言われたからな」
と、シャード先生は呆れ気味だった。娘のリリーシャのせいで慣れているのかもしれない。
「でも、困ったことがあったら、頼ってきなさい」
と、シャード先生は微笑んだ。私は、シャード先生の心遣いが嬉しかった。
「ハモンドさんの事聞いた? シェイファー君が重傷を負ったのって、イザベラさんのせいらしいよ」
「妖魔と手を組んで、シェイファー君を操っていたんだって!」
「ええ~っ」
イザベラの事は、すぐにクラス中で話題になった。けれど、二、三日すると、風化されて、その話題もなくなった。
そして、カーティス・セシルが傍についていてくれるらしいが、彼は学年も教室も違うので、いつも一緒というわけにもいかない。それに、私はセシル先輩に一緒にいてほしいとも思っていなかった。むしろ、アリヴィナに悪いので、毎日のように、私を守る使命感に燃えている彼から逃げていた。
一人でも、割と平気だった。イザベラがいないから、突っかかって来られる心配もない。イザベラの友達のカヴァドールは、彼女に合わせていただけだったようだった。イザベラが居なくなった後、新しい友達を作って学年末テストの話題で場を盛り上げていた。
それに、試験が近いせいか、私もあれこれ考える暇がなかった。休み時間もテスト勉強をしていたし、授業はみんなで問題を解いていた。しかし、ジュリアスと澄恋がいないと時間が流れるスピードが物凄く遅い。同じ時計なのかと思うほど、時の流れがゆっくりに感じた。
やっと放課後になった。私は、データキューブにメッセージが来ていることに気づいて、それを開いた。
それはアレクシス王子からだった。
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香姫さんへ
放課後、第二医務室に来てくださいね。
例の事で話したいことがあります。
アレクシス
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通常なら、断るか、行かないかだった。
けれども、断ろうにも私はデータキューブの通信の対象が近くにいないと送信できない。
それに、断る理由も行かない理由も見当たらない。ジュリアスがああなってしまった今、私は捜査に尽力する気でいたからだ。だから、アレクシスは私が逃げないと分かっているから、メッセージを寄越して来たのだろう。
私は、すぐさま第二医務室に向かう。教室からすぐに出て、可視の力を使った。セシル先輩を避けるためだ。セシル先輩の残留思念が近くに無い廊下を通って行く。
可視しながら行くと、第二医務室の手前でシャード先生とベルナデット校長先生が喋っている残留思念が視えた。
『そうですか。それで、シェイファー君は助かるの?』
『はい。手を貸してくださる方がいたので』
『そうですか! それは良かった! これ以上、私の生徒たちに被害が及ばないことを祈るばかりです! それでないと、私は昔の出来事を思い出してしまって』
昔の出来事……?
シャード先生は頷いていた。
『そうでしたね。ベルナデット校長先生は、昔にお子さんを病気で亡くされたんですよね』
『ええ、遥か遠い昔の事です』
ベルナデット校長先生が、自分の子供を病気で亡くしていた……?
「香姫様」
私はハッとして、可視するのを止めて、振り返った。
「あ、ウィンザーさん!」
いつの間にか、ウィンザーが後ろに立っていた。集中していたので気付かなかった。
ウィンザーは温かい笑顔を浮かべて私を出迎えてくれた。
「アレクシス様がお待ちです。さあ、どうぞ」
「あ、はい」
私は、ウィンザーの後に続いて、第二医務室に入ってドアを閉めた。




