第二十話 第四部一章完結 セシル先輩の予言
もう日が落ちようとしているのに、辺りは人だかりができてざわめいていた。
ジュリアスとイザベラに一体何があったんだろう?
そして、封印鏡は一体どこに消えたのだろう?
私はこの光景を傍観していたと思われる常緑樹の葉を一枚ちぎった。
そして、可視する。
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数分前のイザベラとジュリアスの、残留思念の半透明な映像が展開された。
この葉に残っている残留思念だ。
そこには、残留思念の私と澄恋もいる。
『きゃああああああああああ!』
『きゃはははははははははは!』
私が遠くに飛ばされたのを見て、封印鏡を向けたままイザベラが大笑いしている。
『香姫!? 可視編成!』
澄恋が壁に立て掛けてあったほうきを手に取った。
流れ星のような速さで私を追い掛けていく。
『ううっ』
その時、ジュリアスの眼に光が戻った。とんでもない光景を見て、正気に戻ったのだろうか。
『香姫さ……ん!? ハモンドさん、やめ……ろ!』
ジュリアス君……!
ジュリアスは全身に強い負荷がかかっていたが、イザベラを止めようとしてくれていた。
その事実に、イザベラは震えていた。
そして、イザベラは涙ながらに叫んだ。
『ジュリアス様!? どうしてですの! なんで私の方を見てくださらないの!』
そのとき、空が陰った。
何かがイザベラたちの前に降ってきた。流れ星というような綺麗なものではない。
それは、イザベラたちの前に、着地した。
『ゲヘヘヘヘへ! こんな所にあったのかぁ!』
イザベラはヒッと息を呑んだ。それは、禍々しい存在だった。獣のような顔に人体が付いている。しかし、魔物ではない。
『よ、妖魔!?』
イザベラは後ずさりする。そして、ジュリアスは自分とは違う意志に逆らうように、その場にひざを付いた。
『良く知っているじゃねーか。俺様の名前は『ハイエナのファナティル』! 俺様の封印鏡を返せ!』
『い、嫌ですわ!』
イザベラは、封印鏡を抱きしめたまま後ずさりしている。
『じゃあ、仕方ねぇな!』
そして、ハイエナのファナティルは、身動きが取れないジュリアスに牙をむいて襲い掛かった。
『いやああああああああああ!』
イザベラの悲鳴が響き渡った。そして、イザベラは失神したのだ。
そして、ハイエナのファナティルは封印鏡をイザベラから奪って、空へと飛翔した。
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「はぁ……! はぁ……!」
私はとんでもないものを見てしまいよろけた。
驚いた澄恋に支えられる。
「香姫、大丈夫か!?」
「う、うん」
零れてきた涙をぬぐうフリをして、私は可視するのを止めた。
澄恋が同情したように、嘆息した。
「見たんだな……?」
澄恋には私が可視したことなどお見通しだった。
「うん。ハイエナのファナティルっていう妖魔が、ジュリアス君を傷つけた後、封印鏡を奪って逃走したみたい。それで、イザベラさんはショックで気絶を……」
「やっぱり妖魔が来たのか……!」
ジュリアスは私の事を守ろうとしてくれていた。
その事実が、私の心を余計に苦しめた。
「香姫、セシル先輩が戻ってきた!」
その事に気づいた澄恋が私に声をかけた。
「鳥居さん! 景山君!」
セシル先輩と私たちは駆け寄っていく。
「セシル先輩! ジュリアス君は!?」
「シェイファーは病院の手術室ですか!?」
「いや、人体の損傷が激しいので、魂を取り出して魔法研究所で新しい身体を作ることになった。その事でサミュエル様にも許可を頂いた」
「魔法研究所……!?」
魔法研究所で人体を作るには、国家予算の一部ほどの大金がなければ作れない。
そして、アレクシスや権力者のゴーサインがなければ、許可されないのだ。
「アレクシスが許可したのか!?」澄恋も驚いている。
「鳥居さんたちは妖魔を沢山倒しているからね。サミュエル様たちも寛大なんだよ」
私が驚いたのはそこじゃない。
魔法研究所で体を作らなければ生き返らないという事実だ。
「それで、景山君はすぐに魔法研究所に戻って手伝ってほしいそうだ」
澄恋は、思案するように私の方を一瞥した。
「分かりました。香姫の事をよろしくお願いします」
「澄恋君……!」
私は心細くなって、澄恋に声をかけた。
澄恋は私を安心させるように微笑んだ。
「必ず、シェイファーを助けて戻ってくるから。香姫は、セシル先輩が守ってくれるから安心だからな」
そして、澄恋はほうきに乗って飛んで行ってしまった。
「東奔西走して疲れたよ。そろそろ、ディナーの時間だな」
「欲しくありません……」
「気持ちは分かるけど何か食べないと。一緒に食堂に行こう? 鳥居さ――」
私は力を無くして、その場にしゃがんだ。
セシル先輩は、ハッとして私の方を振り向いた。
私が声を殺して泣いていたからに他ならない。
「私、一人で寂しかったけど、澄恋君とジュリアス君が傍にいてくれたから平気だったんです! なのに……!」
セシル先輩は、泣いている私の傍にやってきた。
そして、うずくまって泣く私の肩をポンポンと叩いた。
「大丈夫。全てはうまく行くから。またしばらくしたら、元の日常に戻れるよ」
「本当ですか……?」
「本当だって。僕の予言は絶対なんだ」
私は、うなずいて涙をぬぐった。
セシル先輩の慰めの言葉は、薬のように良く効いた。
クリスタル先生の予言のように、良い未来を断言してくれたからだ。
今日、この場で、私は心に決めた。
ジュリアスと澄恋のためにできることを、私も頑張ろうと。
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┃第┃┃四┃┃部┃┃第┃┃一┃┃章┃┃完┃┃結┃┃!┃
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◆◇◆――……第四部二章に続く……!――◆◇◆




