第十九話 クリスタル先生の予言2*
私と澄恋は、可視編成をかけて蘇生を行っているセシル先輩に駆け寄った。
「セシル先輩!」
前に回り込むと、見える角度が変わる。その光景に私は息が止まりそうになった。
セシル先輩が私たちに気づいて顔を上げた。
「鳥居さんと景山君か! 悲鳴が聞こえて駆け付けたんだ! この娘は気を失っているだけだが、シェイファー君が!」
「そんな!?」
私の目の前には、満身創痍のジュリアスが倒れていた。そして、セシル先輩がいて、可視編成で蘇生を試みていた。
ショックな光景に視界が揺れる。
私の脳裏に、クリスタル先生の予言がよみがえった。
『ジュリアス・シェイファー! お前は、もうすぐ死ぬ! だから、せいぜい気を付けることだ!』
「まさか、私がクリスタル先生の依頼を断ったから……!?」
クリスタル先生には未来を思いのままにできる力でもあるのだろうか。
放心している私に、澄恋が声をかけた。
「クリスタル先生にそんな力はないし、香姫のせいじゃない! 気をしっかり持つんだ! まだ、シェイファーが死んだわけじゃない!」
希望を打ち砕くように、セシル先輩は頭を振った。
「いや、シェイファー君は、さっきから息をしてない……!」
セシル先輩の言葉に、私は息を呑んだ。
「う、嘘でしょ……!? セシル先輩! 何とかならないんですか!」
「何とかする! 可視編成! 可視編成! 可視編成!」
「古代魔法を使えないんですか!」と、澄恋が叫んだ。
「長々しい古代魔法を唱えているより、可視編成を数回行った方が効果的なんだ。それに、そんな高度な治癒の魔法は賢者ぐらいしか使えない!」
「そんな……!」
「内臓の損傷が激しすぎる! 僕一人では手に負えない! 瞬間移動で病院に搬送する!」
「えっ!?」
「可視編成!」
セシル先輩は満身創痍のジュリアスを連れて瞬間移動した。
どうやら、本当に病院に搬送したらしい。
辺りに緑の風が舞った。
「何があったんだろうね?」
「うん、何か悲鳴が聞こえたけど」
「高等部の女子が倒れてるよ」
二人が居なくなった後、気付けば周りには人だかりができていた。
このまま、気を失っているイザベラをそのままにしておけない。私はイザベラを揺すって起こすことにした。
「イザベラさん! イザベラさん!」
「ううっ……」
「イザベラさん!」
「香姫さん……?」
イザベラはやっと目を覚ました。
「なんだか、すごく怖い夢を見ていたような気が……?」
イザベラは朝の目覚めのように、のんきに目をこすっている。
「ハモンド、封印鏡は!?」と、澄恋。
「封印鏡……? なんですの、それは……?」
イザベラは、目をぱちくりさせた。
「イザベラさんが自慢していた青銅鏡の事だよ!」
私は思わず怒鳴っていた。
だが焦燥している私に対して、イザベラは間が抜けたようにゆっくりと構えていた。
「青銅鏡……? なんですのそれ? ここ数日のことがぼんやりしてて……」
「っ!?」
私は思わず自分の下唇を噛んだ。
こんなに、イザベラに悪感情を抱いたのは初めてだった。
「イザベラさんが青銅鏡なんて持ち出さなかったら、ジュリアス君はあんな目に遭わなかったのに……!」
「香姫、落ち着いて! もしかすると、ハモンドも操られていたのかもしれない!」
澄恋はそう言ったが、私はイザベラを許せなかった。
以前、私はイザベラに引っぱたかれたことがあるが、私もそうしてやりたい気分だった。
怒りで震える私に、後ろから声がかかった。
「香姫殿、澄恋殿、お嬢さん」
毛色の違う声に振り返って驚いた。
いつの間にか、やじ馬の人だかりは、軍警官たちに取って代わっていた。
その真ん中にいるのは、私と同い年くらいの一際エラソーな軍警特別第二官のラザラス・アトリーだった。
「あ、アトリーさん」
私は、唖然となった。澄恋がアトリーに会ったと言っていたが、本当に捜査していたのか。
イザベラは眼をぱちくりさせた。
「貴方は誰ですの……?」
「お嬢さん、署の方で少しお話をお聞かせ願いませんか?」
アトリー軍警特別第二官はイザベラには名乗らなかった。だが、そのセリフで十分だったらしい。イザベラは狼狽し始めた。
そのままアトリーは、有無を言わせず周りの軍警官を使ってイザベラを連行して行った。イザベラは狐につままれたような面持ちだったが、抵抗はしなかった。