第二十話 魔法演習と試験2*
「可視編成!」
私の発音は低音と高音の二重音にはならず、普通の単調な声だった。奇跡など起きるはずもなく、ついに私は魔法を使うことができなかった。
「不合格! もっと練習をしておくように!」
「……はい」
私は、嘆息して列に戻って行った。
クラスメイトは、驚天動地のようにざわめいている。
ちょうど、チャイムが鳴り終わった。
「それでは、授業を終わる!」
アリヴィナは私の試験を見守っていた。リリーシャは記憶喪失だが、どこまでできるだろうか。そんなことを考えて、自分のライバルを応援していたという。
クェンティンも私のことを見守っていたようだ。以前のリリーシャならこんなこと訳もない。みんなをアッと言わせるような、魔法を使うに違いない。それが、俺の好きなリリーシャだから。そう思っていたようだ。
だが――。
アリヴィナとクェンティン、果てはガーザイドまで立ち上がり、私の方を向いて呆然としている。クェンティンも、私を見たまま放心していた。
私は、その視線をそらしてジュリアスのもとに走って行った。
クェンティンが見ているのは、私ではなくリリーシャだ。彼は、何を見ていたのだろうか。
きっと、本物のリリーシャの残像と、リリーシャの姿をした私が重ならなくて、戸惑っていたんだろうけれど。
・*:..。o○☆*゜¨゜゜・*:..。o○☆*゜¨゜゜・*:..。o○☆*゜¨゜
この時、アリヴィナはついに変だと思った。
こんなの、リリーシャじゃない! 魔法の使えないリリーシャなんて、リリーシャじゃない!
授業が終わり、クラスメイトが帰って行く中、アリヴィナはあることを決意していた。
「アミアン!」
「な、なんだよ、アリヴィナ!」
「ちょっと顔貸しな!」
アリヴィナは、ガーサイドを引っ張って行き、隅でこそこそと話し始めた。
その日の夕刻。香姫はその予兆にも気づいていなかった。アリヴィナとガーサイドは校舎の中庭にある銅像の前に立っていた。
「アリヴィナ……なんだよ、こんなところに呼び出して……」
「アミアン、聞いて! この像はこの魔法学校の願いを叶える魔人だと言われているよな!」
「ああ、知ってる。だから、それが何? その魔人はもう願いをかなえられなくなって、この姿になったんだろ」
「だから、可視編成をこの銅像にかけるんだよ!」
「ええっ?」
「今日の試験のマクファーソン先生の可視編成は、魔物の姿を幻影として再現したものだろ。だから、それと同じ可視編成をするんだよ!」
「それで、うまく行けば魔人がリリーシャの記憶を戻してくれるかもしれないってことか!」
アリヴィナとガーサイドは、ニヤリと笑った。そして、一緒に銅像に手を翳す。
『可視編成!』
銅像は黄色く発光した。
「おおお!」
アリヴィナとガーサイドの目が期待で輝く。けれども、黄色の光は消え失せて、ただの銅像に戻ってしまった。
「お?」
何も起こる気配もない。夕暮れの虫の鳴き声だけが、平和に聞こえている。
「なんか、肩透かし食らった気分だ……」
「やっぱり、俺たちの可視編成じゃ、魔力が足りないんだよ」
「あ~あ、良い考えだと思ったんだけどなぁあああアミアンんんん!」
「酔っぱらいかよ! 絡んでくんじゃねぇ!」
「友よッッッ!」
アリヴィナは意気消沈して、ガーサイドと一緒にその場から去っていく。
その様子を、クェンティンが見ていた。
彼は、銅像を見上げて、しばらくその場に佇んでいたのだった。
・*:..。o○☆*゜¨゜゜・*:..。o○☆*゜¨゜゜・*:..。o○☆*゜¨゜
その日の夜中。当然のことながら、私はベッドの中で眠っていた。
遠くから小さな鈴の音が段々と近づいてくる。その鈴の音のせいで深い眠りから現実に呼び戻された。
「ん……? なに……?」
まぶたを開けると、私を見下ろしている顔が目前にあった。若い男だ。目の前の男が銅像そっくりであることも、恐怖心が先行して気付かなかった。
私は、びっくりして悲鳴を上げようと思った。だが、寸前で口を手でふさがれた。私は巻き起こった風に目を閉じてしまう。
風が治まった次の瞬間、目を開けるとそこは夜空の下だった。




