第十五話 プレルーノ・モンド*
「それをやろう」
「は、はぁ……」
初っ端から、サミュエル王子にわけの分からないものを頂いてしまった。
この黒曜石のような石ころは一体なんなのだろう?
隕石か? はたまた道ばたで拾った綺麗な石ころか?
でも、道に転がっている石ころをわざわざ私に渡すだろうか?
石ころの収集の趣味でも持っているのか?
いつの間にか、私の眼は可視状態になって、その黒曜石のような艶やかな丸い石ころの残留思念を視ていた。
「っ!?」
すると、この石ころの残留思念が見えない代わりに、ボワーンとした振動が頭に伝わってきて、私はくらくらして可視するのを止めた。まるで、お寺の鐘の中に頭を突っ込んで打ち鳴らしたかのような激烈さだ。
「な、なにこれ……? 可視できない……!」
以前、可視できない石や砂の残留思念を視て、気を失ったことがあった。でも、そんなヒドイ感じではないけど。
「そ・れ・は・な、『プレルーノ・モンド』という石だ。『満月の世界』という意味を持つ。香姫の名前は、元居た世界では『月に帰ってしまう姫』の名前なんだろう?」
「漢字は違いますけど……そんな感じのお姫様の名前です……」
「そ・れ・で、こないだの礼として、何がいいかと思ったんだが、これがお前の名前にピッタリだろ? 勿論、国宝級の値段の付かない高価な石だ。こないだは、高価そうだからトラブルになったので、安物に見えるものを用意したってわけだ! 私の見立てに間違いはない!」
ただの石ころにしか見えないのに、そんなにいいものだったのか!
でも、可視できないから、ただの石ころではないことは確かだろうけれど。
「へええ、それでこれって何ができるんですか?」
期待を込めて訊いたが、サミュエル王子からは沈黙が返ってきた。隣のアレクシス王子を見ても、微笑みしか返ってこない。
「何だったっけな……? おい、エン! 何だったか答えろ!」
唐突に、問いを投げつけられて、エンは飛び上がった。
「サミュエル様!? 知らないであげたりしたんですかっ!?」
「十秒以内に答えろ! でないと魔法研究所で合格にすっぞ!」
私は唖然として、言葉も出てこない。
エンは、いきなり見つかった野兎のようになって、大慌てしている。
「ええええっ!? た、確か……っ」
「一、二、三、四、五、六、七、八!」
サミュエル王子は問答無用でカウントダウンしている。
お、鬼か……っ!
エンは汗ダラダラになりながら考えていたが、ハッとして手をポンと打った。
「ベルカ王国一硬い石ですっ!」
「ああ、そうだったな。エン、ご苦労」
「……馬鹿王子が……っ」
エンがぼそりと呟いた。
「あん? 何か言ったか?」
「あはは、何も言ってませんっ!」
サミュエル王子は傍若無人もいいところだが、エンはケロッとしてそれをいなしている。サミュエル王子とエンは、良い侍従関係を築いているのかもしれない。
「ベルカ王国一硬い石……?それって、ダイヤモンドと同じ様なものですか?」と、私。
「いや、ダイヤモンドは熱に弱いが、プレルーノ・モンドは、熱にも強い。硬過ぎるから、ダイヤのように加工もできない。だから、そんな石ころにしか見えない」
「なるほど、硬い石……!」
プレルーノ・モンドがようやく価値のあるものに見えてきた。何もできない石だったら、売り飛ばしてお金にして好きな物を買おうと思っていた。でも、これなら、もし妖魔に狙われて攻撃されても、これを使えば跳ね返すこともできるんじゃないか。
「嬉しいです! ありがたく、頂戴します!」
私はローブのポケットの中に入れた。
それまで、黙視していたアレクシス王子がようやく口を開いた。
「喜んでくださって光栄です。実は私もそれをサミュエル兄上と一緒に選んだのです」
「そ、そうですか……!」
どことなくトラブルのニオイがして、私の心臓が反応して不穏な音を奏でている。なかなか言い出そうとしないアレクシス王子がことさら不気味だ。
しびれを切らした澄恋があからさまにため息を吐いた。
「回りくどいんだけど。香姫に言いたいことがあるんなら単刀直入に言えば?」
「澄恋、アレクシス様になんてことを……!」
ウィンザーは澄恋に噛みついている。
「私も澄恋君と同じ気持ちです。言いたいことがあるなら早く言ってください。このままじゃ、蛇の生殺しです!」
「では単刀直入に言いましょう」
アレクシス王子の笑みが消えて、真剣な面持ちになった。
「封印所から、五十億ルビーの妖魔が逃げました。だから、香姫さんにご協力いただきたいのです」
「えっ……ご……五十億ルビー!? って賞金首ですか!?」
「そうです」
桁が違う! ご協力って一体何を……?
とんでもない依頼を持ちかけられて、私はめまいを覚えるのだった。第十五話 プレルーノ・モンド*
「それをやろう」
「は、はぁ……」
初っ端から、サミュエル王子にわけの分からないものを頂いてしまった。
この黒曜石のような石ころは一体なんなのだろう?
隕石か? はたまた道ばたで拾った綺麗な石ころか?
でも、道に転がっている石ころをわざわざ私に渡すだろうか?
石ころの収集の趣味でも持っているのか?
いつの間にか、私の眼は可視状態になって、その黒曜石のような艶やかな丸い石ころの残留思念を視ていた。
「っ!?」
すると、この石ころの残留思念が見えない代わりに、ボワーンとした振動が頭に伝わってきて、私はくらくらして可視するのを止めた。まるで、お寺の鐘の中に頭を突っ込んで打ち鳴らしたかのような激烈さだ。
「な、なにこれ……? 可視できない……!」
以前、可視できない石や砂の残留思念を視て、気を失ったことがあった。でも、そんなヒドイ感じではないけど。
「そ・れ・は・な、『プレルーノ・モンド』という石だ。『満月の世界』という意味を持つ。香姫の名前は、元居た世界では『月に帰ってしまう姫』の名前なんだろう?」
「漢字は違いますけど……そんな感じのお姫様の名前です……」
「そ・れ・で、こないだの礼として、何がいいかと思ったんだが、これがお前の名前にピッタリだろ? 勿論、国宝級の値段の付かない高価な石だ。こないだは、高価そうだからトラブルになったので、安物に見えるものを用意したってわけだ! 私の見立てに間違いはない!」
ただの石ころにしか見えないのに、そんなにいいものだったのか!
でも、可視できないから、ただの石ころではないことは確かだろうけれど。
「へええ、それでこれって何ができるんですか?」
期待を込めて訊いたが、サミュエル王子からは沈黙が返ってきた。隣のアレクシス王子を見ても、微笑みしか返ってこない。
「何だったっけな……? おい、エン! 何だったか答えろ!」
唐突に、問いを投げつけられて、エンは飛び上がった。
「サミュエル様!? 知らないであげたりしたんですかっ!?」
「十秒以内に答えろ! でないと魔法研究所で合格にすっぞ!」
私は唖然として、言葉も出てこない。
エンは、いきなり見つかった野兎のようになって、大慌てしている。
「ええええっ!? た、確か……っ」
「一、二、三、四、五、六、七、八!」
サミュエル王子は問答無用でカウントダウンしている。
お、鬼か……っ!
エンは汗ダラダラになりながら考えていたが、ハッとして手をポンと打った。
「ベルカ王国一硬い石ですっ!」
「ああ、そうだったな。エン、ご苦労」
「……馬鹿王子が……っ」
エンがぼそりと呟いた。
「あん? 何か言ったか?」
「あはは、何も言ってませんっ!」
サミュエル王子は傍若無人もいいところだが、エンはケロッとしてそれをいなしている。サミュエル王子とエンは、良い侍従関係を築いているのかもしれない。
「ベルカ王国一硬い石……?それって、ダイヤモンドと同じ様なものですか?」と、私。
「いや、ダイヤモンドは熱に弱いが、プレルーノ・モンドは、熱にも強い。硬過ぎるから、ダイヤのように加工もできない。だから、そんな石ころにしか見えない」
「なるほど、硬い石……!」
プレルーノ・モンドがようやく価値のあるものに見えてきた。何もできない石だったら、売り飛ばしてお金にして好きな物を買おうと思っていた。でも、これなら、もし妖魔に狙われて攻撃されても、これを使えば跳ね返すこともできるんじゃないか。
「嬉しいです! ありがたく、頂戴します!」
私はローブのポケットの中に入れた。
それまで、黙視していたアレクシス王子がようやく口を開いた。
「喜んでくださって光栄です。実は私もそれをサミュエル兄上と一緒に選んだのです」
「そ、そうですか……!」
どことなくトラブルのニオイがして、私の心臓が反応して不穏な音を奏でている。なかなか言い出そうとしないアレクシス王子がことさら不気味だ。
しびれを切らした澄恋があからさまにため息を吐いた。
「回りくどいんだけど。香姫に言いたいことがあるんなら単刀直入に言えば?」
「澄恋、アレクシス様になんてことを……!」
ウィンザーは澄恋に噛みついている。
「私も澄恋君と同じ気持ちです。言いたいことがあるなら早く言ってください。このままじゃ、蛇の生殺しです!」
「では単刀直入に言いましょう」
アレクシス王子の笑みが消えて、真剣な面持ちになった。
「封印所から、五十億ルビーの妖魔が逃げました。だから、香姫さんにご協力いただきたいのです」
「えっ……ご……五十億ルビー!? って賞金首ですか!?」
「そうです」
桁が違う! ご協力って一体何を……?
とんでもない依頼を持ちかけられて、私はめまいを覚えるのだった。