第十三話 放課後の勉強会
私と澄恋はすぐに『自習室B』に向かった。『自習室B』とは、AからZある中にある自習室という教室の一つの事だ。自習室は、生徒たちが自主学習に励むことを目的に設けられた教室で、放課後の多目的な活動にも使用することを許可されている。
マリエル・クレイトンとアリヴィナ・ロイドも一緒に行くことになった。先頭を一人無言で進んでいるのはクレイトンで、私と澄恋とアリヴィナはその後ろを歩きながらくっちゃべっていた。
「あっ、自習室B! ここだよ!」
私は、自習室Bの教室のプレートを見つけて指差した。
「失礼します」
クレイトンは、さっさとドアを開けて入って行く。
私も教室の中に足を踏み入れた。
「わぁ! お菓子がある!」
図書室の中に並んでいそうなテーブルのような机の上には、高そうな菓子屋で買い込んだような洋菓子が並んでいた。
「うふふ、色気より食い気ね! こんにちは、鳥居さん!」
「アロースミス先輩! こんにちは!」
出迎えてくれたのは、ディーナ・アロースミスとカーティス・セシルの二人だった。
「いらっしゃい。鳥居さんとロイドさんと、景山君だったかな?」
「セシル先輩もこんにちは!」と、私。
「こんにちは。さあ座って!」
セシル先輩が、エスコートするように椅子を引いてくれた。
「ありがとうございます!」
セシル先輩は、そのまま澄恋の椅子を引こうとしたが澄恋は、それを阻んで自分で座った。
「どうも。今日は、このメンバーだけなんですか? 魔法会からはお二人が?」
セシル先輩は苦笑いしながらうなずいた。
「そうだね。今日は出張魔法会ってところかな! 気に入ったら、景山君も是非入会してね!」
「あはは、嫌ですね」
笑顔の澄恋に、セシル先輩の笑顔が凍った。澄恋とセシル先輩は何故か険悪だ。
「ありがとうございます、セシル先輩」
次は、クレイトンの椅子を。さらには、羨ましそうにしていたアリヴィナの椅子も。
「あ、ありがとうございます……!」
「どういたしまして!」
セシルに微笑みかけられて、アリヴィナは真っ赤になっている。
信じられない。あのアリヴィナさんが乙女だ……!
本当に好きだったのかと、私は再確認した。
「うふふ。さあ、お菓子を食べながら、まったりとお勉強しましょう?」
しかし、何故か私の勉強は澄恋が付きっ切りだった。
「説明したけど、この問いの意味は分かった?」
「うん。でも、セシル先輩に、勉強のコツを聞こうと思ったのに……」
「なんで? 僕の方が教えるの上手いと思うけどな」
「そうかもしれないけど……」
「でしょ?」
澄恋は得意げに微笑んだ。私は、セシル先輩の方をチラリと見た。
「セシル先輩、この問題の解答はこれでよろしいでしょうか」
「私も! これでいいか見てほしいんだ! マリエルよりも先に!」
「私の方を先にお願いします」
「私が先だ!」
「ちょ、ちょっと待ってね!」
セシル先輩は、アリヴィナとクレイトンの取り合いになっている。
手持無沙汰のアロースミス先輩は一人でお菓子を食べている。
「あらっ、これすごく美味しいわ!」
一番食い気があるのはアロースミス先輩だ。私はため息を吐いた。
「これなら、医務室で二人で勉強していたほうが良かったね」
と言いながら、私もケーキをパクリ。
「かもな」
澄恋も、クッキーを口に放り込んだ。
そうだ。今度から食堂に寄って、デザートを医務室に持ち込もう。
以前、ジュリアスもその意見に賛同してくれた。その事を思い出していた。
でも、ジュリアスがどうやったらカクジツに来てくれるかなぁ。もっといい方法は――。
私の放課後医務室計画の構想を邪魔するように、自習室Bの教室に誰かが入ってきた。魔法会のメンバーかと思ったが全然違っていた。
「鳥居さん、ちょっと良いかしら?」
「あ、はい」
それは、クレア先生だった。
「嫌な予感がするのは気のせいなのかな。アが付く人が出てきそうな……」
「そうだな。いつも香姫一人だとトラブルに巻き込まれるから俺も行くよ」
クレア先生は教室の外に出て、私を手招きしている。私は席を立ち、仕方なくついて行く。澄恋もついてくる。
「何の用だろうね!」
何故か、セシル先輩もくっついてきた。
「なんで、先輩もついてくるんですか?」
「いや、興味があってね! 勉強はディーナが見ているから大丈夫だよ!」
「そう言う問題じゃなくて……」
「どういう問題かな?」
セシル先輩と澄恋の険悪な雰囲気を横目に、私はクレア先生に向き直った。
「クレア先生、なんですか?」
「アレクシス様がお呼びです」
「やっぱり! クレア先生が呼んでいたら、アレクシス王子がもれなくついてくるんですよね!」
「あはは、よく分かってるじゃな~い!」
クレア先生は朗らかに笑って私たちを医務室へ先導する。澄恋とセシル先輩も喧嘩しながら付いてくる。
あのアレクシス王子に一体何を言われるんだろう。音沙汰のなかったアレクシス王子がいきなりのお呼びで、澄恋が魔法学校で見かけたアトリー軍警特別第二官といい、早くも嫌な予感を裏付けていた。
私は、早くも戦々恐々とした気分になるのだった。