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不可思議少女は今日も可視する  作者: 幻想桃瑠
◆第四部♚第一章◆【鳥居香姫は不可思議な青銅鏡と予言にやきもきする】
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第四話 クリスタル先生の探し物

 今日の占い学は、テスト範囲の問題を取り組むというものだった。占い学の担当教師のクリスティン・クリスタル先生は、始めから最後まで難しい顔をしていた。難しい問題を解いているのは私たちの方なのにと、違和感を感じていたが、問題を解かなくてはならないので、ずっとデータキューブとにらめっこしていた。


 チャイムが授業終了を冷然と告げる中、私はまだ問題を解いていた。号令がかかり、生徒たちは教室から出て行っているというのに。

 すでに、問題を解いたらしいジュリアスが心配そうに覗き込む。


「香姫さん、できた?」

「ううん、もうちょっと……!」

「香姫、早くしないと次の授業が始まるよ」


 澄恋が私の机の前でしゃがみこんで私の動向を観察している。

 み、見られていると落ち着かない……!


 そうこうしているうちに、生徒たちは私とジュリアスと澄恋だけになってしまった。

 クリスタル先生は、椅子に座って私の問題が解けるのを静かに見守っている。


「うぐぅ!?」

「っ!?」


 クリスタル先生が胸を押えて占い学の準備室に駆け込んで行った。ジュリアスと澄恋は気付いていない。


「や……ヤバい……! 早く逃げないと……!」

「えっ?」澄恋が眉をひそめた。


 この前兆は、いつものパターンだ。

 脳ミソをフル活動させて急いで問題を解いているが、ジュリアスと澄恋は怪訝そうにしている。


「どうしたの? 香姫さん」

「ダメ、話しかけないで! 早く問題を解かないと!」


 ジュリアスは肩をすくめた。何が起きたのか分からないと言った風だ。クリスタル先生の発作の前兆には、私しか気づいていない。


「できた! 行こう! 澄恋君、ジュリアス君!」


 データキューブの問題を、クリスタル先生のデータキューブに送信した。データキューブの通信はままならないが、近くの距離なら私も送信できるようになったのだ。

 立ち上がって、私は入り口を目指した。私を澄恋とジュリアスが追い駆けてくる。


「鳥居さああああああああああああああん!」


 突如、コンクリートの床を手が突き破り、私の足首をつかんだ。


「ひぃいいいいいいいいいいいいいいいい!」


 私は腰を抜かして、尻餅をついた。

 足首を捕まえられているので、逃げようがない。


「出たな! 魔物が!」

「景山君、魔物じゃなくてクリスタル先生だよ……残念なことに……」

「ああ、知ってる。ノリツッコミしないと悪いかなと思って」

「そうなの……?」


 しれっと言ってのけた澄恋に、ジュリアスは一人疲れている。


 クリスタル先生は、オホホと笑いながら、コンクリートの粉塵まみれになりながら出てきた。喉と肺をやられそうな粉塵をものともせずに、クリスタル先生は笑っている。

 をい、発作はどうしたんだ。


「ど、どこから出て来てるんですか!」


 私は泣きそうになりながら、私の足首に絡みついたクリスタル先生の手の指を、一本ずつ引きはがした。


「聞いて! 鳥居さん!」

「……何でしょう?」

「ネズミを捕まえたわ~!」

「ぎゃあああああああ!?」


 私の目の前にネズミがぶら下げられたので、私の意識が遠のきかけた。


「鳥居さん、聴いてほしいの!」

「何かの嫌がらせですか!」

「いい加減にしないと怒りますよ!」


 ジュリアスと澄恋が激怒している。


「香姫さんしっかり!」

「はっ! 三途の川が見えた!」


 ジュリアスに肩を揺すられて、私の意識はまたここに帰ってきた。


「違うの! 私が昨日、がらくた市で買った水晶が無くなってしまったの!」


 クリスタル先生はネズミを持ったままシクシクと泣きはじめてしまった。

 私は半眼でクリスタル先生を見つめた。

 フツーに出てきて、フツーにお願いできないのかなぁ。


「水晶? どれぐらいの大きさのですか~?」澄恋が大儀そうに聞いている。

「少し大きなビー玉ぐらいの水晶よ」


 水晶なんて、この占い学の教室にもたくさんあるだろうに。


「また買えばいいんじゃないんですか?」


 澄恋は面倒臭そうに言った。クリスタル先生の眼がカッと見開かれる。

 そして、素早く私を人質に取った。


「このネズミを香姫さんの口に詰めるわよ!」

「ご、ごめんなさい!」


 私は思わず謝っていた。再び、クリスタル先生は泣き始めた。


「あの水晶は特別な水晶なの! 鳥居さんにお願いすれば見つけてくれるっていう占いの結果が出たから!」


 クリスタル先生はネズミの毛並みで涙をぬぐっている。

 そのネズミは、ハンカチ代わりなのか。


「それは、それは……」


 澄恋はその占いの結果に感心している。クリスタル先生は、私が可視使いだということを知らないからだ。可視使いの私なら、無くした物も普通の人と比べれば、簡単に見つけられるだろう。私の正体を知らないクリスタル先生が、その占いの結果を出したのだから大したもんだ。


「でも、私、テスト勉強が……!」

「見つけてくれたら占い学のテストは満点にしてあげる!」

「は、はぁ……でも……」


 他のテストが……と言おうとした私に、クリスタル先生は畳みかけた。


「良いのよ! お礼なんて! 水晶を見つけてくれるだけで!」

「いやあの……!」

「じゃあ、よろしくね! ありがとおおおお! オホホホホホホホホ!」


 そして、クリスタル先生は出てきた床の穴の下に帰って行った。コンクリートの床は綺麗な有様に戻っていく。どうやら魔法を使ったらしい。

 辺りはシーンと静まり返った。


「に、逃げられた……!」


 私は両手を床に付き、うな垂れた。

 私は結局、クリスタル先生の頼みを聞く羽目になってしまったのだった。

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