第十三話 第三部最終章完結 理由
私は、セシル先輩の可視編成で、魔法学校の医務室まで瞬間移動して帰ってきた。もう日は暮れて、医務室は静まり返っている。魔法灯のスイッチを入れると、部屋の中が眩しく照らし出された。
「セシル先輩」
「鳥居さん、なんだい?」
「あのときセシル先輩は、医務室で澄恋君とジュリアス君に何をしていたんですか?」
私がセシル先輩を疑うきっかけとなった意味深な行動。私はそれがどうにも気になっていた。
「景山君とシェイファー君が倒れたことは知っていた。だから、古代魔法で目覚めさせようと思ったんだけど、ここは静かだから魔法グラスでロイドさんをよく観察できるんだよ。だから、景山君とシェイファー君はよくここに来るし、詮索好きだから、しばらく眠っていてもらおうと思い直したんだ」
「なるほど……」
私がたまたま可視したのはそう言う場面だったということか。
「君は可視使いだということを君と話す前から知っていた。けれど、君は劣等生だった。けれど、いつの間にか君は古代魔法が使えるようになっていたからね。君に力を貸してもらえないかと思った。だから、君を魔法会に誘って事情をこっそりと話すつもりだった。ロイドさんを誘ったのは、ロイドさんに付きまとっている妖魔から切り離すためだった」
「それであんなにしつこく私とアリヴィナさんを誘っていたんですね」
セシル先輩は口元に笑みを浮かべて頷いた。
「最初は、ロイドさんの近くにいるリリーシャさんに力を貸してもらおうと思ったんだけど、彼女ガードが固くてね。君に力を借りて、ロイドさんを何とかしようと思った。賢者の腕輪を持っているなんてしらなかった。けれど、分かった時には賢者の腕輪はなくなってしまった」
「だから、君が僕に立ち向かってきたときは、適当に脅して僕に近づけないようにするつもりだった。でも、君はサミュエル様に貸してもらったというコントロール用の腕輪を持っていた」
「サミュエル様も僕もその可視使いの腕輪は使いこなせない。けれども、僕は確信した。君は、賢者をコントロールする腕輪を持っているし、何よりそれを使いこなせて、弱点を探せる可視使いだ。君に全てを託そうと思ったんだ」
「な、なるほど……」
頭の切れるセシル先輩の作戦勝ちだったわけだ。
けれども、今になって冷や汗が!
「私が、失敗したらセシル先輩の命はなかったんですよね。下手をしたら、アリヴィナさんの命も――」
「そうだね」
「こ、怖すぎる!」
失敗したことを想像して、心拍数が早くなった。
セシル先輩はクスクスと笑う。
「うまく行って良かったよ」
「良かったぁ。成功して、すべてがうまく行って良かったぁ!」
私はホッと胸をなでおろしたのだった。
「さて、景山君とシェイファー君を目覚めさせないとね! なんなら、おとぎ話のキスの古代魔法にするかい? 君が二人にキスして目覚めさせるっていう……」
セシル先輩がおどけたので、私はカッと頬に熱を持った。どうやら、私が澄恋の事を想っていることは、セシル先輩にばれてしまっているらしい。
「や、やめてください! フツーのを希望します!」
そんな魔法を使ったら、一生澄恋とジュリアスにからかわれるに違いない。
ベッドの間仕切りのカーテンが開かれる。
セシル先輩が、目覚めの古代魔法の呪文を唱えた。
勿論、フツーのだ。
「ん……?」
「ふあぁ!」
二人は朝の目覚めのように伸びをして、私の方を向いた。
「良かったよぉ! 澄恋君とジュリアス君が目覚めて……!」
私はすでに泣いていたので、澄恋とジュリアスは仕方なさそうに笑った。
「なんか、知らないうちに、事件が解決してるみたいだね……?」
ジュリアスは私の様子でその事実を悟ったらしい。
「そう言うことだね。鳥居さんにはすごくお世話になったからね!」と、セシル先輩。
澄恋は、上体を起こしてにっこりと笑った。
「どうもそうらしいね。何がどうなって解決したのか」
「それはね!」
「そして、どうしてセシル先輩に色目を使ったのか」
「え゛! 色目!?」
ジュリアスは寝ころんだまま肘をついている。
「そうだね、説明してもらおうかな? 香姫さんは年上の人に弱そうだからね? ホイホイとついて行ったんだよね?」
澄恋はジト目で笑っているし、ジュリアスは黒い笑みを私に向けている。
怖すぎだ!
私が一体何をしたと……!? 二人を助けるために必死だったのに!
二人の声が重なる。
『さあ説明して!』
「な、なんでこうなるのー!」
私は涙目になって、必死に説明するのだった。その様子をセシル先輩が目を細めて微笑ましそうに見ている。私が、説明し終わると、やっと二人は納得した。
「失礼します……! ジュリアス様! お目覚めになったんですの!」
タイミングよく、イザベラが入ってきた。ジュリアスが目覚める前にイザベラと鉢合わせしなくてよかったぁ。私はひっそりと安堵していた。
歓喜して駆け寄ってきたイザベラに、ジュリアスは黒く笑った。
「ああ、ハモンドさん? 僕が目覚めないからって、香姫さんの頬を打ったんだよね?」
イザベラの足が急ブレーキをかけたように止まる。イザベラが私をキッと睨んだ。
「香姫さん、告げ口したの!」
私は頭を振った。私はイザベラの事なんか、一言たりとも口にしてない。
ジュリアスは黒く笑って続けた。
「いや、眠っているときに、ハモンドさんが香姫さんに暴言吐くのと、頬を討つ音がしたから、もしやと思って鎌をかけたんだ」
「っ!」
ジュリアス君、怖すぎる……! イザベラは、何も言えなくなっている。
「でも、香姫さんのお蔭で目覚めることができたよ。君が劣等生だと馬鹿にした香姫さんのお蔭でね」
「そういうこと。ああ、ハモンドさんは誤解しているようだけど、今回僕たちが眠りに陥ったのは香姫のせいじゃないからね。むしろ香姫は恩人!」
イザベラは震えていたが、私をキッと睨んだ。
「香姫さん! 今回だけは許してあげますわ! あ、ありがとう!」
「えっ!? イザベラさん……!」私の心にうれしさがこみあげてくる。
「フン!」
イザベラは頬を微かに染めると、医務室から出て行った。
そして、私たちは、他愛のない話に花を咲かせて幸せになるのだった。
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┃第┃┃三┃┃部┃┃最┃┃終┃┃章┃┃完┃┃結┃┃!┃
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