第十八話 猛特訓!
ジュリアスは気を取り直したように微笑んだ。
「ごめん、ごめん! 君を苛めるつもりはないんだ」
「えっ……」
ジュリアスを取り巻く空気が変わった。墓穴を掘ったとばかり思っていたのに。私を縛っていた緊迫の糸は、ジュリアスの微笑によって解かれた。
「君の素性も訊くつもりはないし、君も話さなくていい」
「どうして? 気にならないの?」
「全然気にならないよ。本名で呼ばれて困るなら、僕は知らなかったことにする。君を、リリーシャ・ローランドと呼ぶ」
「えっ……」
「その代わり、僕の素性も訊かないで。それで、チャラだ」
「でも……」
もし、ジュリアスが全てを敵に回すような人だったら。それでも、私はジュリアスの味方でいられるんだろうか。ためらっていると、彼は微笑んだ。
「安心してよ。僕は君の味方だから」
あっさりと、ジュリアスはそう言った。けれども、データキューブのキーホルダーは彼の手中だ。
「キーホルダーは、僕が預かっておく」
私は眉間のしわを深めた。
「あ、僕のこと疑っているよね? 君は何の力もないんだから、危険かもしれない物は持たない方が良いんだよ」
「う……」
私は、何も言えなくなってしまった。
そうかもしれない。あのキーホルダーは私が持っていても無用の長物かもしれない。
そして、ジュリアスは何事もなかったかのようにポケットからいつものデータキューブを取り出した。
「さあ、まずは魔法が使えないと」
いつもと変わらないジュリアスを見ていると、心配が段々と薄れて行った。素性を隠さなければならないのは私とて同じこと。ジュリアスが私の味方になってくれるなら、私もジュリアスの味方でいればいい。
「来週は試験だからそれまでにデータキューブぐらいは開ける様にならないとね」
「そうだね……」
このままじゃ、ずっとジュリアスに頼りっぱなしだ。
「まずは、データキューブの開閉から」
「どうやっても、開かないよ?」
「可視編成って言う時に、魔力を喉から出すんだ。そうすると発音も低音と高音の二重になる」
「可視編成!……できない……」
私の発音は、普通だった。そもそも魔力を喉から出すって何なんだろう。魔力の備わっていなかった私には、初めて乗る自転車より難しいと思われる。
「リリーシャは、まだ目に変調はないの?」
「えっ? ……うん」
「そう。じゃあ、続けるよ。もう一回、呪文を唱えて?」
目に変調があったら何なのだろう。以前も、ジュリアスはそんなことを言っていた。可視使いに関係があるんだろうか。
でも、今はそんなことはどうでもいい。まずは、データキューブを開ける様にならないといけない。
しかし、努力を裏切るように、何度やってもデータキューブは開けなかった。私は魔法の素質が全然ないのかもしれない。鳥は空を飛べるけど、魚が空を飛べないのと同じ道理かもしれない。もとから羽のない私には無理なのだ。でも、リリーシャの身体だし、ベルカの国の言葉も自然と話せたから、希望がないわけではないけど――。
そして、一週間が早足で過ぎて行った。