第九話 仮面のシャンベリーの果たし状2
三日間の自宅謹慎処分のうちの二日目。つまり、翌日のアリヴィナと仮面のシャンベリーが対決する日のことだ。昼休みまで英気を養うため、私はずっと女子寮の自分の部屋で眠っていた。
十時ごろ、私は目覚めた。制服とローブに袖を通して、ベッドから飛び降りて靴を履く。そして、大食堂で遅い朝食を摂った。
まだ時間に余裕があるが、やっておくべきことがあった。ひと気の少ない裏庭に回る。私は可視したまま辺りを見回して、他人の目がないことを確かめる。
「よしっ!」
準備万端だ。
スカートのポケットを探り、仮面のシャンベリーから預かっている果たし状を取り出した。結局、私はこれをアリヴィナに渡さなかった。何故なら、この果たし状は、『アリヴィナ』に『あてた物ではない』からだ。
仮面のシャンベリーが、この果たし状を『私に託した』のには理由があったのだ。
『ああ、何なら君も見てみればいい。もし、君にそんなすばらしい能力があるんならね!』
彼が、わざわざ私を煽る様に挑発したのも、切羽詰まった事情があったのだ。彼は私に可視するように『仕向けた』のだ。この時、微かな違和感を感じていた。
彼は、私が『可視できること』に『知らない風を装っていた』。つまり、彼は私が『可視使い』であることを『知っていた』のだ。
『でも、君は無力だ。何もできないんだよ。じゃあね、無能な鳥居さん』
この言葉を彼の本心で言い換えると、こうなる。
『でも、君は可視使いだ。だから、可視使いの鳥居さん。私に可視できる力を貸してほしい』
その事が確信に変わったのは、この封書を可視して読んだからだった。
表向きの果たし状には、こう書かれてあった。
『親愛なる鳥居香姫さん。 今頃、君はこの果たし状を可視していることだろう。この果たし状は、果たし状なんかじゃない。君にあてた密書だ』
『だから、この事を公言しないでほしい。私は、現在窮地に立たされている。このことで誰にも助けを求めることもできず、古代魔法を唱えることも、可視編成すら、『窮地を脱するためには』使えない』
『でも、私は鳥居さんが『可視使い』であることを医務室で聞いてしまった。そして、サミュエル王子から託されたその腕輪。私を助けられるのは、鳥居さんしかいないと思った』
『まず、その腕輪の使い方を教えることにしよう。それは、賢者ディオマンドをコントロールする可視使いの腕輪だ。だから、その腕輪を腕にして可視したまま、賢者ディオマンドを呼べば、彼はやってくるだろう』
私は可視したまま腕を空に翳した。そして、声を張り上げた。
「ディオマンドさん! ここに来てください!」
すると、キラキラとした粒子が舞い、賢者ディオマンドが水色のローブの裾を揺らしながら現れたではないか。口調は老けているが、見た目は若い金髪碧眼の彼だ。彼の封印が腕輪から解けたのはつい最近の事だった。
彼は、私の命令に従わざるを得なかったことを面白がっている。
私の腕輪を見てニヤリと笑った。
「どうやら、今度はサミュエル王子に私の使い方を伝授されたようだな」
「教えてくれたのは、仮面のシャンベリーなの!」
「ほう」
賢者ディオマンドは面白そうに顎を触っている。
「お願い、ディオマンドさん! 私に力を貸して! 仮面のシャンベリーを……ううん。アリヴィナさんを助けたいの!」
面白そうに賢者ディオマンドは首を縦に振った。
「よかろう。お主の願い聞き入れてしんぜよう」
気分が高揚したまま、私は頷いた。
「ありがとう! 手始めに、私を町はずれの廃屋に連れて行って!」
賢者ディオマンドは、古代魔法を高らかに唱えた。
私と賢者ディオマンドの姿は、魔法学校の裏庭から掻き消えて、町はずれの廃屋に瞬間移動したのだった。




