表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不可思議少女は今日も可視する  作者: 幻想桃瑠
◆第三部♚最終章◆【鳥居香姫は不可思議な仮面のシャンベリーと対決する】
186/226

第八話 仮面のシャンベリーの果たし状*

 私は、気付かれないように息を吸い込んで、思い切りわめいた。カーティス・セシルがひるんだその隙に、私は彼の横からすり抜ける。出入り口の前に立った私に、カーティス・セシルは、チッと舌打ちした。彼が反撃してこないうちに、私は呼吸を整えて言い放った。


「そうはならないよ! 私だって、サミュエル様から貸してもらったこの腕輪があるんだから! 私がこれを使えば……!」


 艶やかなハチミツ色のべっこうの腕輪を、カーティス・セシルに見せつける。すると、彼は可笑しそうに吹き出した。そのまま腹を抱えて大笑いし始めた。


 私の心臓は、不安な音を立てて鼓動を打っている。まさか、私がこの腕輪を使えないことが分かってしまった……?


「……参ったね。サミュエル様はこの子の味方をしているのか!」


 事態は思わぬことで好転した。どうやら、サミュエル王子の名前を出したのが功を奏したらしい。


「じゃあ、君には手出ししないとしよう――オレラ ワラ エチ スイ ナボコ ウィ ト ミコ ニサ トゥ オレラ ワラ!」


 カーティス・セシルがいきなり古代魔法の呪文を唱えたので、私はすくみ上った。しかし、彼は封書を魔法で出しただけだった。一体これは……?


「この、果たし状をアリヴィナ・ロイドに届けてほしい」

「えっ? 果たし状? そんなことさせない!」


 何もできないのに歯向かってくる私が滑稽に見えたらしい。彼は呆れたように笑った。


「……僕はアリヴィナ・ロイドにハンデをあげるつもりだよ。君に免じて古代魔法は使わないでおこう! それなら、彼女に勝算はあるかもしれない」

「な、なんで?」


 何故、この男は自らみすみす負けようとしているのだろう。

 私の言葉足らずの問いの意図することが分かったらしい。カーティス・セシルは自尊するように笑った。


「見くびってもらっては困る。私は仮面のシャンベリー。可視編成だけでも十分に勝てるのさ!」


 そして、彼は私の手中の封書を指で示した。


「その手紙は、私が古代魔法の呪文で今しがた完成した特製の果たし状だ。この手紙を書くところは誰も見ていないし、アリヴィナ・ロイドにしか読めないし開封できない。これで、私の正体もばれないというわけだ」


 私は眉をひそめた。そんなことなら、直接彼女に言えばいいのに。何故、私に。

 古代魔法を自在に操れるなら、データキューブのメッセージを転送することも容易いだろうに。

 正体をばれないようにするために念入りなのだろうか。しかし、腑に落ちない。


「……届ければいいんですね?」


 カーティス・セシルはクスッと笑った。


「ああ、何なら君も見てみればいい。もし、君にそんなすばらしい能力があるんならね! でも、君は無力だ。何もできないんだよ。じゃあね、無能な鳥居さん」

「っ……!?」


 カーティス・セシルは、挑発するような暴言を言い放つと、リュックを肩にかけてそのまま古代魔法学の教室から出て行った。


 彼があんな人だとは思わなかった。弱い立場の人間を嘲るような人だとは。私は悔しくて涙をぬぐう。


 けれども、私は可視使いだ。この封書の中身を可視することだってできるはずだ。そして、更には、カーティス・セシルの――いや、仮面のシャンベリーの弱点を可視してアリヴィナに教えることも可能だ。


 彼の持ち物が、古代魔法学の教室に残っているかもしれない。それを可視すればあるいは――。


『ああ、何なら君も見てみればいい。もし、君にそんなすばらしい能力があるんならね!』


 彼の言葉が脳裏によみがえる。私は歯噛みした。

 やってやろうじゃないか!

 この手紙には何が綴られてある? 私の眼は疑問を持ったため可視状態になる。


 私は、封書の中の文字を夢中で追った。どれぐらい時間が経過しただろうか。やっと読み終えて腕を降ろした。


 刻々と移り変わる窓の外の景色に、意識が持って行かれる。落葉樹が紅葉しているのが目につく。窓の外でさわさわと揺れている。夕日の光を背に不気味な影を落としている。

 もうそろそろ、葉を散らすだろう。真っ赤な葉を。


 私は手紙をポケットにしまい、のろのろと教室を出た。教室の中を振り返ると、私の影が長く伸びて取り残されていた。私はドアを閉める。


 そして、可視したままアリヴィナの居所を追った。校庭の向こうの学生寮のある広場に彼女は居た。ガーサイドも一緒だ。アリヴィナはハッとして振り返った。


「なんだ。香姫か……」


 どうやら、仮面のシャンベリーだと思ったらしい。私は、一生懸命な彼女に好感を持った。


「アリヴィナさん、魔法の特訓しているの?」

「ああ! 仮面のシャンベリーを倒す特訓をしてるんだ! 絶対にアイツを倒す! 倒して、仇を討つ!」

「俺も協力するぜ! 二人で、仮面のシャンベリーの野郎をぶった切ってやろうぜ!」

「ああ!」


 アリヴィナは神妙に頷いている。彼女は妹の仇をとるために必死なのだ。

 できることなら私も彼女のために尽力したい。

 私は、一大決心をした。


「あのね、アリヴィナさん。仮面のシャンベリーが、アリヴィナさんと明日の昼休みに、町はずれの廃屋で決闘したいって言ってたよ……!」


 アリヴィナの顔色が変わった。


「ホントか! よし、明日、決着を付ける! 絶対に仇を討つ!」

「俺も援護するぜ!」

「サンキュ、アミアン!」


 そして、彼女はガーサイドと一緒に特訓を始めた。


 結局、仮面のシャンベリーから託された封書を、私はアリヴィナに『渡さなかった』

 眉を曇らせたまま、アリヴィナたちの方を見つめる。


 アリヴィナはこの風景の中に、『欠如しているもの』に気づいているだろうか。

 いや、今は彼女が『気付かない事』を願う。


 私は、アリヴィナたちを黙視することを諦めて、足早に女子寮の中に入って行った。

 すべては、明日決まるだろうから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ご感想・評価をお待ちしております。ポチッとお願いします→小説家になろう 勝手にランキングcont_access.php?citi_cont_id=186029793&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ