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不可思議少女は今日も可視する  作者: 幻想桃瑠
◆第三部♚最終章◆【鳥居香姫は不可思議な仮面のシャンベリーと対決する】
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第七話 香姫VS仮面のシャンベリー

 可視しながら、カーティス・セシルの残留思念を追っていく。三日間の謹慎処分なのに、私は未だ校舎の中をうろついている。先生方に知れたらお目玉だ。


 生徒たちに忘れ去られた廊下の窓から、夕日の赤い光が差し込んでくる。もう放課後なのか。あっという間に時間が過ぎ去った。


 マイペースで進んでいく彼の後姿は、古代魔法学の教室に入って行った。もしかしたら、ビートン先生もいるかもしれない。私は勇気を振り絞って、古代魔法学の教室のドアを開けた。


 可視するのを止めると、視界がすっきりと明瞭になる。

 あてにしていたビートン先生は、古代魔法学の教室にはいないようだ。

 その教室で、現在のカーティス・セシルは足を組んでパイプ椅子に座っていた。数時間、ここでこうやって過ごしたらしい。


「セシル先輩……!」


 彼は古代魔法の分厚い本を読んでいたが、私の声に気づいて顔を上げた。


「やあ、鳥居さん。どうしたの? 怖い顔して」


 私はドアを閉めた。廊下から聞こえてくるぼんやりとした生徒たちの声が遮断されて、静かな空間に打って変わる。

 私はカーティス・セシルの方まで歩いてきた。

 仁王立ちになり、勇気を振り絞るように両手を握りしめる。


「貴方が、仮面のシャンベリーっていうことは分かっているんだから……!」


 勇気を振り絞って放った声は震えていたし、心臓がバクバクと鳴っている。

 けれど、私の迫力が足らなかったのか、カーティス・セシルは動じることもない。再び、分厚い本の方に視線を戻した。


「へえ……流石というかなんというか……」


 全然相手にされてない。私はムッとして、声を荒げた。


「アリヴィナさんに何をするつもりなの!」

「ロイドさんに?」


 カーティス・セシルは、やっと顔を上げた。


「アリヴィナさんを傷つけたら許さないんだから!」


 分厚い本が私の怒声を遮る様に閉じられた。彼は立ち上がって、本を椅子の上に乗せた。


「僕がアリヴィナさんに何をするか知りたいのかい……?」


 カーティス・セシルは、クスッと笑った。


「じゃあ、魔法会に入ってよ」

「入るわけないでしょ!」

「じゃあ、ダメだね」


 あっさりと突っぱねて、そのままリュックに分厚い本を仕舞い始めた。

 彼は帰ろうとしているのか。私の訴えをすべて一笑に付して。

 そんなことさせるものか!


「私、聴いたの! セシル先輩が、アリヴィナさんを見て『はやく殺さなければ』って言うのを!」


 リュックに本を仕舞う格好で、カーティス・セシルは微かに震えた。


「妖魔がサミュエル様と会っているなんて問題になるよ!」

「……僕は、魔法会の事でサミュエル様と会っているだけだよ」


 あくまで、穏やかな彼の声。リュックのジッパーが閉められる。


「ウソよ! この事を軍警に言うよ!」


 カーティス・セシルはゆらりと直立した。彼の目がすうっと薄くなって、私は彼の視界に捕えられた。

 先ほどのカーティス・セシルとは、まるで別人だ。

 微かに緊張しながら、私は身構える。


「鳥居さん。君はもっと頭が良いと思っていたよ……」


 冷めた目を薄くして、彼は私を斜に見ている。


「『僕がサミュエル様と会っている』この意味が分からないのかな?」

「えっ?」


 思考を巡らせたが、私はどうにも鈍いのか結論にたどり着かない。

 眉間の間を深くする私に、彼は嗤って楽しそうに告げた。


「僕の後ろ盾は、サミュエル様なんだ。だから、僕の事でベルナデット校長先生はおろか、軍警なんて動くはずがない」

「あっ……!」


 カーティス・セシルの存在がこんなに脅威だとは思わなかった。いや、注視すれば分かるはずだった。彼の人当たりの良い仮面に惑わされて、気づくのが遅れたのだ。


「鳥居さん。君は無謀だね。僕を追いつめるつもりなら、もっと考えておくべきだった。シャード先生やリリーシャさんを連れてくるとかね。君の実力で僕を追いつめることができるかな。いや、できないね」


 彼は手振り身振りをオーバーに嘲ると、私に一歩二歩と迫ってくる。

 私は苦り切った。すっかり私の隣には澄恋やジュリアスがいるつもりで振る舞っていた。私には可視することしかできないというのに。


 後ずさりしたが、ドアから遠ざかってしまう。

 カーティスセシルが追い駆けてきて、足音が争うように響く。

 早足で逃げ惑った私だったが、壁ぎわまで追い詰められてしまった。


 彼は嘲笑を浮かべた。


「僕は、暗殺の古代魔法を使える。この部屋には誰もいない。誰も見ていない。この意味が分かるかい?」


 彼は手のひらで、白い壁を勢い良く叩いた。壁の振動が私の恐怖心と共鳴する。


「ジ・エンドってことだよ」


 私の額から冷や汗が流れ出た。

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