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不可思議少女は今日も可視する  作者: 幻想桃瑠
◆第三部♚最終章◆【鳥居香姫は不可思議な仮面のシャンベリーと対決する】
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第五話 合格と不合格

 仕方なく、私は扉の前の護衛人にサミュエル王子に会いたいと伝えた。


「少々、お待ちくださいっ」


 人の良さそうな護衛人の一人がサミュエル王子の元に急いだ。開いた扉から、話し声が聞こえる。


「サミュエル様、賢者の腕輪の事で、香姫様がお目通り願いたいそうです」

「アレクシスは……?」

「えーと……?」

「チッ、これだからエンは。じゃあ、その者だけでもいいだろう。通せ」


 なんとなく恐そうな喋り方だ。私はすっかり萎縮してしまった。

 エンと呼ばれた護衛人が私の方にとてとてと戻ってくる。微笑みを浮かべて「どうぞ」、と手を広げて方向を示してくれた。エンという護衛人は、どことなく可愛らしい感じのするお兄さんだ。


 私は、サミュエル王子の座っている椅子の前に立つ。第一印象は、人相の悪い王子様だと感じた。彼の鋭い目が丸く見開かれる。一瞬、射竦められて時が止まったのかと思った。


「合格」

「は?」


 サミュエル王子のつぶやきが、あまりにも小さすぎて聞き取れなかった。


「合格だ」


 サミュエル王子は、ニヤリと笑った。どことなく嬉しそうだ。私は機嫌を損ねてないことに安堵して、口を開いた。


「一体何がですか……? えーと、魔法研究所に行かないと、合格にはならないんですよね……?」


 エンが隣で困ったようにため息を吐く。


「実は、サミュエル様は小さくて可愛らしいものが大好きなんです」

「えっ」


 私が固まっていると、サミュエル王子はムッとした。


「性的にではない。単に可愛いものを愛でるのが好きなのだ」

「だから、私たちも普段から、不合格だと。魔法研究所で体を作って入れ替えるぞと脅されまくってます」


 エンは、ここぞとばかりに私に楽しそうに告げ口している。

 サミュエル王子は見るからに不機嫌になった。


「フン、エンは護衛人に入ってきたときは可愛らしくて合格だったのに、最近はいかつくなってきて可愛げがなくなったので不合格だ」

「あはは、光栄です」


 エンは、怒られる前に急いで下がった。

 取り残されて、冷や汗が出る。しかし、予想とは違い、サミュエル王子はすこぶる上機嫌になっていた。


「香姫か。小さくて可愛らしい。合格だ」

「いや、全然嬉しくないような……」


 思わずつぶやいてしまったが、サミュエル王子の笑みが崩れることはない。


「それで、何の用なんだ? 賢者の腕輪の事をなぜ香姫が知っている?」


 私は、ハッと我に返った。


「実は――」


 私はこれまでの経緯を説明した。


「ほう」


 サミュエル王子の目がすうっと薄くなった。機嫌が悪くなってしまったのだろうか。慌ててしまい、言い訳が早口になる。


「ボニーさんは、全然悪気がなかったと思うんです。それに、アレクシス様もアシュレイさんも、その事をエンさんに聞くまでは全然知らなかったみたいで。だから、お許しいただけませんかっ!」


 私は勢いよく頭を下げた。気だるげなため息が頭上から降り注いだ。


「ボニーが……? ボニーか。だったら仕方ねぇな」

「えっ! ほ、ホントですか!?」


 顔を上げると、サミュエル王子は顎を触って思案していた。


「ああ。ボニーは哀れな女だ。私の事が好きらしくてな。私が幼くて可愛いものが好きだと言ったら、自ら魔法研究所で」

「えっ!?」


 ててててっと、可愛らしい足音が部屋の中に入ってきた。私は扉の方を振り返った。すると、ゴスロリの服を着せられた五歳くらいの少女が、サミュエル王子の方に一人で駆けてくる。一体誰だろう?


「サミュエルたま!」


 その愛らしさに、一同はとろけた。サミュエル王子に関しては、目じりが下がってもはや別人だ。


「ボニーは、相変わらず可愛いなぁ」

「ええっ!? この人がアシュレイさんのお姉さん!?」

「ああ。どうやら、ボニーは勘違いしたらしい。幼い子供など恋愛対象外なのにな」


 まじで、自ら魔法研究所で五歳児に!?


「腕輪の事も幼い思考力で私とアレクシスの仲を良くしたいと考えたのだろう。偉いぞー!」

「嬉しいですぅ!」

「あ、あのぅ。ボニーさんをもとに戻せないんですか?」

「戻すわけがない。国家予算の一部がかかっているんだ。もったいないじゃないか。責任を取って、ボニーが大きくなったら結婚することに決めている」

「は、はぁ……」


 私は唖然とするばかりだ。


「でも、香姫様も良かったですね! アレクシス様の疑いも晴れたことだし! アシュレイさんも」

「そうですけど……」


 私は言いだそうか迷った。今までの良い流れが、私の発言ですべて壊れてしまうかもしれない……!


「何か不満なのか?」

「実は、あの賢者の腕輪は私が壊してしまって。賢者のディオマンドさんは腕輪の封印が解けてどこかに消えてしまったんです!」


 サミュエル王子の顔が一気に険しくなった。


「何だと!?」


 何処かで雷が落ちる音がしたので、私は飛び上がった。


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