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不可思議少女は今日も可視する  作者: 幻想桃瑠
◆第一章◆【鳥居香姫は不可思議な転生とジュリアスに戸惑う】
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第十七話 先生たちの内緒話

 放課後になった時、私はキーホルダーのデータキューブの存在をやっと思い出した。ローブのポケットに忍ばせてきているか手を入れて確かめる。私は、誰かにその事を伝えたかった。

 クレア先生やシャード先生に相談した方が良いかもしれない。しかし、真っ先に相談しようと思ったクレア先生は、医務室には不在だった。


「ジュリアス君、ちょっとここで待っててくれるかな?」

「いいけど……。どこ行くの?」

「ちょっと、先生に相談したいことがあって」

「分かった」


 ジュリアスを残して、私は魔法学の教室に向かっていた。恐らく、そこにシャード先生がいるはずだ。

 廊下を足早に進んでいると、話し声が廊下の曲がり角から聞こえてきた。


「リリーシャはずっとあのままなのか」


 ギクリとなって、思わず足を止めていた。シャード先生の声だったのだ。シャード先生の声は低く落ちていた。どこか、失意に満ちている。

 廊下の窓はすべて閉まっており、手前から声が流れ込んでくる。ひと気がないから、そこで話をしているのかもしれない。


「何か事件に巻き込まれたのは分かっているけど、私たちの魔法では調べようがないでしょ」


 どうやら、相手はクレア先生らしい。彼女は必死でシャード先生を慰めているようだ。

 私が、相談しに向かうべく、前進しようと思った時だった。


「私は、リリーシャを元に戻してやりたい! 例え――」


 シャード先生は躊躇したようだが、構わず続けた。


「例え、鳥居香姫を犠牲にしても!」


 私の心臓がひときわ大きな音を立てた。

 私は再び足を止めた。


 ショックで瞠目した眼から涙が零れる。

 鳥居香姫を犠牲にしても? それは、シャード先生が言ったのか。それは、シャード先生が本当に――。


 私はシャード先生たちに気づかれないように、その場で声を殺して泣いた。

 現実の世界から切り離され、優しくしてくれたクレア先生やシャード先生の事を、心の支えにしようとしていたのかもしれない。それが突然裏切られてしまった。

 立ちすくんでいると、唐突に手を捕まれた。


「……っ!」


 驚いて振り返る。

 それは、ジュリアスだった。ジュリアスは前を向いたまま、ずんずんと歩いていく。

 生徒たちが私たちに気づいて振り返りウワサしているが、彼は構わずに進んでいく。

 泣いている私を医務室に押し込んで、ドアを閉めた。

 ジュリアスは、私を医務室のソファに座らせる。


「ほら」


 ジュリアスが、ハンカチを差し出してきた。

 その優しさが嬉しくて、ハンカチを握りしめたまま、余計に泣いてしまった。


「シャード先生が仰ったことはあまり気にしない方が良いよ」

「ど、どうして?」


 目をハンカチで拭うと、ジュリアスは微笑んでいることが分かった。


「リリーシャは、ジェラルド・シャード先生の娘だからだよ」

「そうなの!? でも、名字が……」

「シャード先生は離婚されたらしいからね」


 私の悲しみが薄らいだ気がした。

 そうか。リリーシャの父親だから、娘を取り戻そうとするのは当たり前のことかもしれない。本当の親子だから。

 シャード先生は、私の事をどんなふうに見ているんだろう。外側がリリーシャで、中身が鳥居香姫の私の事を。


「……それで、リリーシャは先生たちに何の用があったの?」

「それは、このキーホルダーが机から出てきたから……」

「データキューブ……? それおもちゃじゃないの?」

「もしかしたら開くかも……。ジュリアス君、開いてみてくれないかな?」


 ジュリアスは頷いた。


「可視編成!」


 ジュリアスの呪文が力を持つが、黄色く光るだけでそれは開かなかった。


「ロックがかかってる」

「ロックって……あっ!」


 ジュリアスは自分のポケットにそれを仕舞ってしまった。これも、意地悪なんだろうか。


「これは僕が預かっておくから」

「どうして!? リリーシャさんが殺された理由が分かるかもしれないのに!」


 ジュリアスは、目をぱちくりした。

 そして、微かに笑う。


「『リリーシャさん』が、『殺された』……って何?」

「あっ……!」


 私はやっと自分の失言に気づいた。私がリリーシャ・ローランドでないことを、自らジュリアスに告げてしまったのだ。血の気が引いている私の事を、ジュリアスは苦笑したまま見つめていた。


「君は、確か記憶喪失なんだよね? でも、君はリリーシャじゃない?」


 震えが止まらなくなった。ジュリアスは、得体がしれないのに。まだ、味方と決まったわけじゃないのに。もし、彼が敵に回ったら……?


「シャード先生が話している声がちょっと聞こえたんだけど……。鳥居香姫って?」


 私は、絶句してしまった。

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