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不可思議少女は今日も可視する  作者: 幻想桃瑠
◆第三部♚最終章◆【鳥居香姫は不可思議な仮面のシャンベリーと対決する】
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第一話 失恋の理由

 あの後、イザベラと澄恋、ジュリアスは医務室に運ばれた。イザベラはすぐに気が付いたが、澄恋とジュリアスは目覚めなかった。二人とも医務室で眠ったままだ。


 クレア先生は一人で治療に当たった。先生は、何とかすると豪語していたが、放課後になると事態は一転していた。


「どういうことですの! 景山君とジュリアス様が目覚めないって!」


 イザベラがクレア先生に怒鳴っている声がここまで届いた。私はドアを開けたまま固まっていた。

 崖から突き落とされたような感覚が襲ってきた。


「それが変なのよ! 眠りから解放する魔法を使っても、一向に目覚めないのよ!」


 どんな怪我でも治せるクレア先生が動揺している。ショックで私の視界が揺れた。


「まさか……!」


 クリスタル先生の占いが本当になったというのか。先生は、澄恋とジュリアスが死ぬと言っていた。


 私の呟きに気づいたイザベラが、つかつかと私の方まで歩いて来て、私の頬を勢いよくぶった。乾いた音が辺りに響き渡った。


「ハモンドさん!」


 クレア先生がイザベラを私から引きはがした。イザベラは涙を流してこちらを睨んでいた。


「貴方が、変な腕輪を持っていたから、ジュリアス様は! このまま目覚めなかったら、貴方のせいだわ!」

「私、何とかする! 二人は眠っているだけだし! 絶対に何とかしてみせるから!」


 冷静な言葉が出てきたことに自分でも驚いた。事態は最悪な状況ではない。そう、クリスタル先生の占いは当たりかかるけれど、いつも外れていた。それに、私は――。

 奮い立たせようとする私の頭上から、コンクリートの塊のような言葉が落ちてきた。


「劣等生のダメダメなあなたに何ができて!? 二人がいないと何もできないくせに!」

「ハモンドさん!」


 最後に私を睨むと、イザベラは医務室から飛び出して行った。

 涙があふれ出てくる。

 そう! 言われなくても分かってる! 私はいつもダメな劣等生!


 イザベラがぶった頬が、熱を帯びてくる。

 でも、私は可視使いだ。それに、打つ手はないわけじゃない。できることをやってみるだけだ。まずは――。


「失礼します」

「アリヴィナさん」


 医務室に入ってきたのは、アリヴィナだった。彼女は、小首をかしげて、仕方なさそうに笑った。


「もう、泣き止んだ?」

「澄恋君とジュリアス君が目覚めないから……」


 私はイザベラの事を伏せた。悪いのはイザベラじゃない。油断した私が悪いのだ。腕輪を使いこなせなかった私が――。私は下唇を噛みしめた。


「そうか。でも、眠っているだけだろ。目覚めるんだよ、眠っているだけならな」

「うん! 絶対に何とかして見せる!」


 アリヴィナの言葉に私は勇気づけられた。しかし、アリヴィナは長い溜息を吐いた。

 私の横を通り過ぎて、窓際に立つ。窓は閉められてある。白いレースのカーテンを捲って外を窺っている。


「私は、せっかくの初恋が失恋だぜ。それも最悪な形で!」

「えっ!?」


 後ろを向いているので目元が見えなかったが、アリヴィナは泣いていたらしい。すぐに制服の袖で涙を拭い去った。

 それよりも、アリヴィナが恋をしていただなんて初耳だ。全然気づかなかった。


「初恋って誰に?」

「セシル先輩に」


 アリヴィナは私を振り返る。そして、あっさりと動じることもなく告白した。

 カーティス・セシル先輩なのか! そういえば、古代魔法学の補習に来たときにアリヴィナの様子が少し変だった。まさか、恋に落ちていただなんて!


「ええっ!?……フラれちゃったの?」


 アリヴィナは、悲しそうに頭を振った。彼女のショートボブの金髪が揺れる。フラれたのではないとしたら――。

 私は覚悟を決めて訊いた。


「……まさか、見たの?」


 アリヴィナはビクッと震えた。指摘した私に驚いている。何という言い訳を考えるべきか分からなかった。けれども、彼女もセシル先輩の正体を知っているのだ。


「なんか、電撃を食らいそうになったときに、仮面のシャンベリーの仮面の下が見えた」

「私もなの! 仮面のシャンベリーの正体って、セシル先輩だよね!」


 私は声を弾ませたが、アリヴィナのノリは悪かった。

 それだけなら、アリヴィナは「仮面のシャンベリーって憧れだからますます好きになったぜ!」と喜ぶに違いない。でも、私は彼女が泣いていた理由に心当たりがあった。


「仮面のシャンベリーって、黒髪だよね……」


 私の指摘に、アリヴィナが再び震えた。

 カーティス・セシルは金髪の碧眼だ。仮面のシャンベリーの正体がバレないように、黒髪黒目の魔法をかけていたのかもしれない。つまるところ、それは。


「もしかして……」


 アリヴィナはまっすぐに正面を射抜いた。


「ああ。忘れるはずがないだろ。あの顔は私の妹を殺した妖魔だ」


 アリヴィナの目から一筋の憎悪が流れ落ちた。


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