第二十一話 第三部一章完結 露呈*
「いや、ゴメン。実は、仮面のシャンベリーから脅迫状が来て……アミアンと約束してたこと忘れてたよ……! ホント、ゴメン!」
「脅迫状はある?」ジュリアスの手から解放された私は、すかさず聞いた。
「いや、それが読んだら燃えちゃってさ! 結局何なんだって話だろ?」
燃えちゃったのか。証拠隠滅ってわけか。カードがなければ、仮面のシャンベリーの正体を探れない。徹底しているのは、さすが妖魔だと言ったところか。
「脅迫状ってなんなの?」
私が尋ねると、アリヴィナは唸った。
「脅迫状かなぁ……でも、警告って言うか、忠告してくれているだけのような気がするんだ。なんてったって、正義の妖魔だろ?」
確かに、警告と言えばそうかもしれない文章だったけど。
アリヴィナは、にへらっと笑った。どうやら、仮面のシャンベリーから手紙が来たことを喜んでいるらしい。
「私、妖魔に正義なんて言葉ないと思うよ。アリヴィナさん、学園七不思議をあんまり信じない方がいいんじゃないかな」
妖魔と呼ばれるのは悪い魔法使いのことなのだから。妖魔の正義なんてものはきっと自分に都合良い解釈に違いないのだ。
「お前なぁ、俺の夢を壊すようなこと言うなよなぁ!」
「そうだよ。せっかく、仮面のシャンベリーが私に手紙書いてくれたんだからな!」
ガーサイドとアリヴィナは真剣な顔で私に詰め寄ってきた。
澄恋が私を庇うように前に出る。
「香姫の言うとおりだと思うね。仮面のシャンベリーの名を語っていても分からないだろ?」
「そ、それは……」
「そうかもしれねーけどよ」
その時、ほうきの飛ぶ音が横切ってキラキラと星屑を蒔き散らかした。一体何事だろう。
「アリヴィナ・ロイド!」
毛色の違う大声が聞こえてきて、私はギョッとした。
「な、何だ!?」
空を見上げると、ほうきに乗った妖魔が浮かんでいた。
かっちりとしたスーツを着て、仮面を付けている。
「もしかしなくても、仮面のシャンベリー!?」
「ご名答! 可視編成!」
間髪入れずに、仮面のシャンベリーは無数の水の矢を放ってきた。
やっぱり、妖魔は信用ならない。アリヴィナたちを攻撃してきた!
「可視編成!」
「可視編成!」
アリヴィナとガーサイドは呪文を唱えて目の前にシールドを作った。無数の水の矢はそれを易々と砕いて、アリヴィナたちに突き進んできた。
「うわぁ!」
ガーサイドが水の矢を避けかねていると、澄恋とジュリアスが動いた。
「可視編成!」
「可視編成!」
ジュリアスが、魔法で無数の水の矢を凍らせて、澄恋が、魔法で氷の矢を内側から粉砕した。
「流石、澄恋君とジュリアス君だね!」
ガーサイドとアリヴィナは、見るからに意気消沈している。夢を壊された子供たちは、夜空に向かって怒鳴った。
「仮面のシャンベリー、がっかりだぜ! お前がそんな妖魔だったなんて!」
「ああ、私も絶対に正義を貫くと思っていたのにさぁ!」
「御託はいい! アリヴィナ・ロイド! 私との約束を破ったな? お前の命の保証はないものと思え!」
夜空を背に浮いている仮面のシャンベリーは怒鳴り返した。こちらも激怒しているようだ。
「なんだと! 私がそんな脅しに屈すると思ってんのか!」
「せいぜい、身辺に気を付けることだ!」
後味の悪いセリフを残し、仮面のシャンベリーと思わしき人物は、ほうきに乗って夜空に姿を消した。
「くっそー! ほうきがないから追跡できねぇ!」
「ちくしょー! 私の夢を返せ!」
ガーサイドとアリヴィナの絶叫が、夜空に溶けた。
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一方、こちらは宮殿である。サミュエル王子の部屋で護衛人のエンたちはひざまずいて、鬼畜王子に報告していた。鬼畜王子とは、他でもないサミュエル王子のことだ。サミュエル王子は椅子に座って、上から目線でエンたち護衛人を見下ろしている。
「どうやら、アレクシス様がアレを持って行ったようです!」
「ほう? それは本当、な・の・か?」
「カクジツです! アレクシス様ご本人にお聞きしましたから!」
エンは、えっへんと胸を張って報告した。アレクシス王子に泣きついたところ、あっさりとアレが見つかったというわけだ。これぞ、まぐれ幸い!
サミュエル王子はニヤリと笑った。エンにしてみれば、もっと泣いて喜べ! と思うわけだが、この鬼畜王子は歪んだ感情しか表面に出てこない。
「そうか、よくやった。お前たちを合格にすることだけは止めてやろう」
「や、やったー!」
エンたちはひざまずくのを止めて、抱き合って喜び合った。嬉しさのあまり泣いている護衛人もいる。どうやら、サミュエル王子にも慈悲の心があったようだ!
「アレクシスが私の『賢者の腕輪』を持って行ったのか……」
「は、はい、そのようです……」
雷の音が背後で鳴ったので、エンたちはビクッと抱き合ったまま震えた。サミュエル王子はどうやら激怒しているらしい。
「アレクシスは不合格だ! あの野郎……許さねぇ!」
どこかで雷がピシャアと再び落ちる。
確かに、エンたちは合格になることだけは免れた。けれども今度は、エンたちのせいで兄弟げんか勃発なのか……? ドエライことになった。
エンたちは、泣きそうになりながら、怒り心頭なサミュエル王子を見上げるのだった。
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┃第┃┃三┃┃部┃┃第┃┃一┃┃章┃┃完┃┃結┃┃!┃
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◆◇◆――……第三部二章に続く……!――◆◇◆




