第二十話 アリヴィナの行方
事件の経緯を説明し終わると、澄恋とジュリアスは納得してくれた。
「香姫さん? ロイドさん宛のカードはまだある?」とジュリアスは微笑んだ。
私もそう思っていたところだ。すぐに、アリヴィナの机の中を確認する。
「待って。あれ? 何もないみたい……。空振りかぁ。カードの実物さえあれば何とかなると思っていたけど」
「僕も、カードが手元にあれば、仮面のシャンベリーを追跡できると思ったんだけどね?」
私とジュリアスは考え込んだ。そんな私たちを見て、澄恋は「フフン」と笑った。
「な、何、澄恋君……」
「こんな簡単なことに気づかないのかなぁと思って」
私とジュリアスは顔を見合わせてから、澄恋を見た。
「景山君? 嫌味を言う前に答えを言ってくれるかな?」
「そうそう!」私は真剣にジュリアスに同意する。
「でないと、香姫さんが可哀想だよ?」
「そうそう! ん? 何で私だけ!?」
ジュリアスは楽しそうにクスクスと笑っている。
「だって、僕は分かっているもの。景山君、つまりキーワードは机の中でしょ?」
「ええーっ! それだけじゃわかんないよ!」
私が嘆くと、澄恋はあははと笑った。
「シェイファーご名答! 香姫、机の中をずっと可視してみれば、机の中にカードを入れた人物も、シャンベリーの正体も分かるんじゃないの」
「あ、そっか! 澄恋君もジュリアス君も頭良いー。それもそうだね! 早速、可視してみるね!」
私は、アリヴィナの机の中を覗き込んだ。机の中はがらんとしている。
データキューブで教科書とノートの類をまかなえるので、殆どの生徒は、机の中をいつもすっきりさせているのが常だ。これなら、分かりやすくて助かる。
「はぁああ!」
私は残留思念の時間をさかのぼって可視する。
すると、机の中にパッとカードが現れた。
これってもしかしなくても瞬間移動の魔法!?
「ええっ!? 脅迫状のカードが机の中に瞬間移動してきたよ!?」
振り返ると、澄恋とジュリアスは苦笑いしていた。
「まじで……?」澄恋が呆気にとられている。
「瞬間移動先は可視できる?」とジュリアス。
「どこから瞬間移動してきたのかは可視できないよ。実物があったら別かもしれないけど……」
こんなのアリ……?
「じゃあ、後は脅迫状のカードを読んだ後のアリヴィナさんの跡をつけるしかないね?」
ジュリアスが言ったので、私は神妙にうなずいた。
アリヴィナはどこに行ったんだろう?
私の眼は疑問を持ったので、可視状態になる。
残留思念をさかのぼるが、それほど時間は経っていない。
「こっちだよ!」
「ああ」
「わかった」
私は、澄恋とジュリアスを先導して、可視しながら教室を出て行く。先頭を歩いて行く残留思念のアリヴィナは、いろんなところを探っている。アリヴィナは立ち止まって空を見上げた。今は夜空に星が輝いていて、廊下の照明が明々とついている。
「アリヴィナさん、どこに行くのかなぁ?」
「多分、仮面のシャンベリーを探そうとしているんじゃないかな?」
ジュリアスの答えはもっともだ。
アリヴィナは、そのまま屋上の階段を上がっていく。すると後ろから声がかかった。
「鳥居! アリヴィナ居たか!」
ガーサイドだった。ガーサイドも今まで散々アリヴィナを探していたらしい。
「いなかったけど、後は屋上を探すだけなの!」
ガーサイドは私が可視できることを知らないので、もっともらしく私は答えた。そして、そのままガーサイドと同行する。
私たちも階段を駆け上がっていく。
屋上のドアを開けると、夜風が吹き込んできた。サアッと木々の鳴る音が聞こえる。
「アリヴィナ!」
「アリヴィナさん!」
声を張り上げると、向こうから人が歩いてきた。
「あれ? みんなおそろいで、どうしたんだ?」
のんきそうな声を出して、目をぱちくりしている。
それは、アリヴィナ・ロイドだった。
私は安心して胸をなでおろした。
「よかったぁ。アリヴィナさんが、脅は――」
誰かに後ろから口を手で押さえられてしまった。
「香姫さん? 危ないねぇ?」
私の口を押えたジュリアスはクスクスと笑っている。
そ、そうだった。脅迫状の事は可視した私たちだけしか知らない事だった。危うく、自分が可視使いのことまで暴露してしまうところだった。
ジュリアスが、にっこりとほほ笑んだ。私は目だけで苦笑する。
澄恋が、疲れたように笑って、半眼をこちらに向けている。
アリヴィナが、怪訝そうな顔をこちらに向けてきた。
「何だって?」
「いや、ガーサイド君がロイドさんを探していたからね?」
「そうそう。誘拐されたのかもしれないってみんなで探しまくってたんだぜ」
それを聞いたアリヴィナはハッとしたように「あー!」と、声を上げた。




