第十九話 ディーナ・アロースミス*
どうして、アロースミス先輩がこんな所にいるんだろう。私を待ち伏せしていたような感じが否めない。こんな薄暗いところで待たれると怖いです……!
「こ、こんばんは……!」
「こんばんは!」
アロースミス先輩の明るい挨拶が返ってきた。
私は安堵の息を吐いた。いたって普通の先輩だ。
「私に何か用があるんですか?」
「うん。鳥居さんが、魔法会に入らないかなぁと思って誘いに来たのよ!」
えっ、ええっ!?
私は目を瞬いた。な、なんで、私なんかにお誘いがかかるんだろう?
「あ、あのぅ。私、魔法会にはふさわしくないと思うんです! だって、可視編成もろくに使えない劣等生ですから! 魔法会って、優秀な生徒しか入れないんですよね……?」
「そうよ。劣等生には用はないわ」
「じゃあ、私は無縁ですね!」
何かの冗談だろうと思い、私は一笑に付した。アロースミス先輩は、楽しそうに笑う。
「うふふ、そんなことないわ~! だって、鳥居さんは、『古代魔法』で『景山澄恋』を『若返らせた』じゃない!」
っ!?
「それに、古代魔法で桜の木を満開にさせた!」
全て見られていた!?
「それで、アロースミス先輩は私の名前を知っていたんですね」
澄恋の事を若返らせた私を目撃したセシル先輩とアロースミス先輩は、私の名前を調べ上げていたのだ。
厄介なことになった。私は、後ろに下がる。
「私、最初はまぐれかと思ったんだけど、どうやらそうじゃないらしいから、魔法会にお誘いしようと思って!」
「お断りします! あれは、すっごいまぐれなんですっ!」
「あっ、鳥居さん!」
私は反対方向の廊下をひた走って逃げた。廊下の角を曲がると、追いかけてきていた足音はしなくなった。
「はぁ、びっくりした……」
アロースミス先輩が諦めてくれるといいんだけど……。
「鳥居!」
「うわぁ!」
一息ついたところに声をかけられたものだから、私の心臓は跳ね上がった。目の前にいたのは、アミアン・ガーサイドだった。
「鳥居、アリヴィナ知らねぇ?」
「えっ? アリヴィナさんいないの?」
「放課後、リリーシャを倒す特訓をする予定だったんだけど、一向に来なくて。データキューブのメッセージにも返事が来ねぇし」
「ふ、ふーん。じゃあ、私も探してみるね」
それから、ガーサイドと別れて、アリヴィナを探すことになった。まず、私はファルコン組の教室に戻った。
自分の机の引き出しをさぐる。
「あった!」
自分が教室に忘れていたデータキューブをポケットに回収する。
そのまま、教室を出ようとしたが、アリヴィナの事を思い出してその場にとどまった。
どうして、アリヴィナはガーサイドとの約束をすっぽかしたんだろう……?
疑問を持ったため、私の眼は可視状態になる。アリヴィナが姿を消した時まで、残留思念をさかのぼる……!
「はぁあ……っ!」
立体映像の巻き戻しのように、残留思念の半透明の人間が教室に入れ代わり立ち代わり動く。残留思念のアリヴィナが戻ってきたので、私はその映像を再生した。さかのぼる時間が短いのでそれほど疲労はない。
それは、帰りのショートホームルームの時間の事だった。アリヴィナは、シャード先生の話を聞きながら、机の中を探っていた。
『ん? 何だこれ?』
アリヴィナは何かを見つけて、机の中からそれを取り出した。
それは、二つ折りのカードだった。お祝いごとのメッセージカードとよく似ている。
私は横からそれを覗き込んだ。
「何々……『アリヴィナ・ロイドへ。近々、危険が迫ってくるだろう。せいぜい、気を付けることだ。このことは他言無用。内密にと警告しておく』って、えっ!?」
これって……!?
「差出人は――。『仮面のシャンベリーより』って、ええっ!?」私は吃驚してしまい、誰もいない教室で声を上げていた。
仮面のシャンベリーとは、アリヴィナとガーサイドが憧れているという、学園七不思議の魔法学園に現れるという妖魔だ。しかし、これのどこが正義の妖魔なのか。
「やっぱりこれって……」
突然、ドアが開いて誰かが教室の中に入ってきた。
「香姫さん、何してるの?」
「っ!?」
驚いて振り返ると、そこにいたのはジュリアスだった。
「なんだ、ジュリアス君か……! びっくりしたー!」
私の心臓がバクバク鳴っている。ジュリアスが教室の照明を点けた。明るい魔法灯の光が私の目に刺さるようだ。私は目をしばたかせた。
「こんなに薄暗いところで何やってるのかな? ディナーを済ませて、医務室に行ったらいないからどうしたのかなと思ってね? そうしたら、ガーサイド君が香姫さんにロイドさんを探してもらっているって言うから、探してたんだよ?」
「心配かけてゴメン! でも、ジュリアス君の眼は楽しんでいる感じがするよ」
私がそう言うと、ジュリアスはクスクスと笑った。
「当たりかもね? それで、香姫さんは何を見つけたの? ロイドさんの情報?」
「う、うん。とんでもない物を見つけちゃったよ! あのね!」
そこで、コンコンと開いたドアをノックする者がいた。私とジュリアスの視線はそちらに注がれる。
そこにいたのは、澄恋だった。澄恋は、こちらをジト目で見ていた。
「もしかして、お邪魔だったかな?」
「えっ? 何がお邪魔なの? それよりもね、澄恋君! ジュリアス君!」
私はジュリアスと澄恋に事件の内容を説明したのだった。




