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不可思議少女は今日も可視する  作者: 幻想桃瑠
◆第三部♚第一章◆【鳥居香姫は不可思議な賢者の暴走に疲れ果てる】
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第十七話 カーティス・セシル*

 ぐったりしながら、医務室の前の廊下を歩いている。賢者の腕輪のせいで、精も根も尽き果てていた。私は医務室のドアをノックした。


「失礼します……」


 部屋の中は、がらんとしていた。デスクの椅子に座っている白衣が目に留まり、クレア先生だと一瞬錯覚した。


「やあ、鳥居さん」


 私は声をかけられて、ギョッとした。白衣を着ていたのは、上級生だった。


「せ、セシル先輩!?」

「僕の名前を知ってるのかい?」


 私は三度うなずいた。知っているも何も、リリーシャを魔法会にしつこく勧誘して、なぜか私の名前を知っているという、不可解なひとだ。今日は、同業者のディーナ・アロースミス先輩はいないようだ。


 カーティス・セシルは、天然パーマが緩くかかっている金髪に、青い目で二重の優しそうな先輩だ。背の高さは十五歳の澄恋より頭一つ分くらい高い。


 でも、なんで、セシル先輩は私の事を知っているんだろう?


 私はうっかり疑問を持ってしまった。そして、見なくていいのにセシル先輩の上半身の裸体を見てしまった。痩せマッチョの綺麗な小麦色の肌をしている。


「ううっ……」


 私は慌てて、目を制御しなおした。素知らぬ顔をして続ける。


「セシル先輩は有名人ですから良く知ってます。セシル先輩はここで何をなさってるんですか……?」

「ああ、魔法会の活動の一環でね。クレア先生の代わりを何時間か頼まれているんだ」

「ふ、ふーん……そうなんですか……魔法会の活動の一環で……?」

「そうだよ」


 魔法会って、よく分からない活動をしているんだなぁ。クレア先生の代わりをするなら、授業はどうするんだろう。


 疑問を言葉に変えようと思った時、騒がしげな声と足音が近づいてきた。


「誰かくる! クラスの人が私の様子を見に来たのかも! ど、どうしよう!」


 右往左往していると、セシル先輩が椅子から立ち上がった。


「いいかい? 君はベッドの方でカーテンを引いて隠れてて! 僕が何とかしよう!」

「は、はい!」


 私は急いでベッドに飛び乗って、カーテンを閉めた。ベッドの中で息をひそめる。


「失礼します!」

「失礼します!」


 医務室のドアが開いて、誰かが入ってきた。


「香姫さん来てますか! 私たち、香姫さんのクラスメイトでお見舞いに来たんですの!」

「香姫に勝負を挑みに来たのよ!」

「あの子、本当は強いのかもしれないからね!」


 イザベラとアリヴィナとリリーシャ!?

 私の態度が変だったから、様子を見に来たんだ!


「鳥居香姫さんね……」


 セシル先輩の疲れたような声が聞こえてきた。


「あのベッドですか!」

「お見舞いしていいですわよね!」


 彼女たちはこちらに突進してきそうな勢いだ。セシル先輩の防御壁など簡単に打ち崩されてしまいそうだ。


「っ!」


 慌てて布団の中に滑り込もうとしたとき、セシル先輩の声が聞こえてきた。


「ダメだね! 彼女魔力を使い果たしてしまったようだから、今日は絶対安静なんだ。魔力が一滴も残ってない。相当無理したらしいけど、彼女、一体何をしたの?」


 セシル先輩はリリーシャたちの会話から、私の事情を推測したらしい。適当に病状を取り繕ってくれた。一瞬、医務室が静まり返った。


「そ、そうですの! 香姫さんは、桜の木を満開にしたから驚いてしまったんですけど」

「あの満開の桜の木って彼女がしたの? すごいね!」


 セシル先輩の笑いをこらえるような声が聞こえてきた。

 ううっ、セシル先輩って、その実は楽しんでるような……?


「でも、魔法が使えない鳥居さんですし、寝込んでいるみたいですし。どうやら、まぐれかもしれませんわね!」

「かもね! 可視編成が使えないのにムリしたんだわ!」


 私はベッドの上で崩れ落ちるように安堵の息を吐いた。どうやら、まぐれと思ってくれたようだ。これで、明日から普通にファルコン組に登校できる。


「そんなに、桜を満開にしたかったのかな?」


 今度は、アリヴィナたちの楽しんでいるような声が聞こえてきた。


「ウケますわ。メリルと一緒にお花見でもしようかしら」

「私もクェンティンと一緒に桜の木の下でデートするわ! 香姫に感謝しないといけないわね!」

「あれ? アミアンどこ行った?」

「アリヴィナもアミアンとデートなの!」

「ちげーよ! リリーシャを倒す特訓するんだよ!」


 私のことなど二の次になっていることが面白い。私はベッドの中でこっそり笑った。


「はいはい、もう帰ってね」

「はぁい!」


 彼女たちの足音が遠ざかる。


「もう帰ったみたいだよ」

「ありがとうございます!」


 私はベッドのカーテンを引いて、お礼を言った。


「じゃあ、僕は少し席を立つから、医務室でゆっくりして行ってね!」


 セシル先輩はにっこり笑って、医務室から出て行った。

 私はカーテンを引いて、横になった。古代魔法を使ったせいか、ひどく眠たかった。気が付いたときには眠りの中に引きずり込まれていた。


 何時間眠っただろうか。誰かに見られているような気がして、私は眠りから目覚めた。


「う~ん……う~ん……」


 酷く寝苦しい。誰だろう? この絡みつくような視線――。


「香姫さん」

「ぎゃあああああああああああ!」


 目を開けると、アレクシス王子がベッドの脇から見ていたので驚いた。


「な、何やってるの!?」


 私は身の危険を感じて、体を起こした。


「何って、香姫さんの寝相の観察です」

「えー……?」


 アレクシス王子はにっこりと笑った。全然悪びれてないし、堂々としている。

 呆れ返った私はアレクシス王子を半眼で見つめるのだった。

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