第十四話 古代魔法学の屋内授業2
私は、魔法黒板に書いた『枯れ木に花を咲かせる古代魔法のスペル』を眺めながら、魔法ペンを黒板の縁に置いた。賢者の腕輪が、私に力を貸してくれたのだろうか。このスペルが合っているという保証はないけど……。
「あの、合ってますか……?」
先ほどから、ビートン先生が魔法黒板にくぎづけだ。ビートン先生は口を半開きにして、瞳を揺らしている。
「……合ってますね」
ビートン先生が苦々しく言うと、教室の中が歓声でいっぱいになった。
「スゲーじゃん!」
「私は、香姫はできる子だと思ってたわ!」
アリヴィナやリリーシャが拍手している。
「静かに!」
ビートン先生はぴしゃりと一喝した。
まさか、合ってる!? 本当に賢者の腕輪が力を貸してくれたというの……?
丁度その時、チャイムが鳴った。
でも、合っていたら合っていたで、目立つことを危惧しなくてはならなくなった。劣等生の私が、急にできるなんて不可解すぎる。私は慌てていいわけを脳裏に張り巡らせた。
「あの、私、桜の木に花を咲かせてみたくて! この古代魔法ばかり覚えていたんです! だから、できたのはまぐれっていうか……! 私、覚えるのは不得意なんですけど、古代魔法が大好きで!」
生徒たちは、私の弁解を聞いて納得していた。
ビートン先生は、それまで疑いの目で見ていたが、それを聞いて穏やかな顔つきになった。
「では、授業を終わります。鳥居さんは残ってください」
生徒たちは、私にエールを送って教室から出て行く。
「じゃあ、僕たちは廊下で待ってるから」
「う、うん」
澄恋とジュリアスはそう言って、退室した。
教室の中は閑散となり、ビートン先生と私だけが取り残された。
私はドキドキしながら、ビートン先生の言葉を待った。
「鳥居さん」
「は、はい!」
私の背中は自然に背筋が伸びる。
「鳥居さんは、古代魔法学が大好きなんですね?」
「はい、できないけど、大好きなんです!」
それは、本当の事だ。ビートン先生が優しい先生なら、古代魔法の授業がもっと好きになっていたに違いない。
ビートン先生は私の答えを聞いてにっこりした。
「鳥居さんは、問題ばかり起こすので、私が鍛えてあげようと思っていました。でも、古代魔法学が大好きだという言葉を聞いて安心しました。大好きだと思う気持ちをこれからも大事にしてください」
「はい!」
ビートン先生の顔つきが明らかに変わったので、私はほっと胸をなでおろした。
「でも、鳥居さんが劣等生なのは変わりないので、私が微力ながら鍛えて差し上げますよ」
「え゛!? そ、それはちょっと……!」
「大丈夫ですよ。もうあんな授業のやり方はしませんから!」
鍛えてあげるという言葉が気に懸ったが、ひと先ずは安心だろう。これで、ビートン先生と仲良くなれるといいのに。
「そういえば、ファルコン組の次の授業は何でしたっけ?」
「魔法演習です」
どうして、その話題になったのか分からずにいると、ビートン先生が貴重な情報を教えてくれた。
「そう言えば、マクファーソン先生が抜き打ちテストをするって言ってたような気がしますよ!」
「えっ? 本当なんですか」
「嘘は言いませんよ~。それよりも、頑張ることですね! 特に貴方は魔法に関しては劣等生なんですから!」
ううっ、ビートン先生キツイなぁ。
また、魔法が使えなくてイザベラ辺りに笑われるのかなぁ……。
私は、内心ため息を吐いた。
ビートン先生がクスッと笑ったような気配がして、私は顔を上げた。
えっ?
でも、ビートン先生はすぐに厳しい顔つきに戻っていた。
「遅れるといけないから、早く行って!」
「は、はい! 失礼します!」
私は追い出される形で、古代魔法学の教室を後にした。そして、廊下で待っていてくれた澄恋とジュリアスに、抜き打ちテストの事を教えてあげたのだった。




