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不可思議少女は今日も可視する  作者: 幻想桃瑠
◆第一章◆【鳥居香姫は不可思議な転生とジュリアスに戸惑う】
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第十四話 おんぶと三角関係*

 地上からガーサイドもアリヴィナの動揺が伝わってくる。

 生前のリリーシャは魔法を使いまくっていたのか。魔法が使えないのはまずいかもしれない。下手をすると、私が偽物だとばれてしまうんじゃないのか。


「可視編成!」


 上から呪文の二重音が聞こえた。

 すると地面が盛り上がり、私は地上へ押し上げられた。穴は跡形もなく塞がった。

 安堵して顔を上げる。そこでは、ジュリアスが心配そうにしていた。ジュリアスが助けてくれたのか。まさか、彼が駆け付けてくれるなんて思っても見なかった。


「リリーシャ、大丈夫か?」

「うん、大丈夫。ジュリアス君、助けてくれてありがとう」


 アリヴィナがガーサイドの襟首を掴んで、こちらを向いたまま固まっている。

 ガーサイドが、アリヴィナの手を振りほどいた。


「おいっ……! リリーシャ……!」


 そして、動揺したようにこちらに訴えかけてくる。ガーサイドの目には、記憶喪失の私を攻撃した罪悪感が宿っている。もしかして、謝ろうとしているのだろうか。


「気にしないで、大丈夫だから! ガーサイド君って強いよね!」


 私は、慌ててガーサイドのセリフを奪った。謝られるのは違う気がしたのだ。

 ガーサイドは、普段通りリリーシャに接しただけなのだから。


「えっ……ああ、うん……」


 ガーサイドは、完全に毒気を抜かれている。勢いをなくしたまま言葉が続かずに、手持無沙汰に頭を掻いている。

 ガーサイドだけではなく、アリヴィナも戸惑っているのが分かる。

 なんだか、気まずくなってきた。これじゃあ、まるで初対面だ。


「リリーシャ、本当に大丈夫か?」


 ジュリアスが私を覗き込んだ。心配して駆けつけてくれたのか。


「ジュリアス君、大丈夫だよ……いたっ!?」


 大げさに動いて無傷であることを伝えようとしたが失敗した。

 飛び跳ねた反動で足首に痛みが走った。その痛みでまた飛び跳ねそうになる。

 泣きそうになっていると、ジュリアスが静かに息を吐き出した。


「捻挫だな……ほら、背中に乗れ」


 男子の背中に乗るのは嫌だ! 下手をすると、また注目を浴びてしまう。リリーシャ・ローランドからすれば、注目を浴びるのは日常茶飯事の事なのかもしれないが……。


「えーと、可視編成で何とかならないのかな?」

「骨まで見えないから止めといた方が良いぜ」

「そうそう!」


 ガーサイドが横から忠告してきた。アリヴィナも、力強く頷いている。


「魔法をかけたら今以上に足首が腫れて暫く元に戻らないらしいよ」と、ジュリアス君が言った。


 私は、野球のボールほどに腫れあがっている足首を見た。

 え゛? これ以上に足首が腫れる……? 私が無言でジュリアスを見ていると、彼は頭を掻いた。


「……リリーシャが良いって言うならまあいいか」

「大人しく背中に乗ります!」


 ジュリアスがいたずらっぽく笑った。


「可視編成しても良いけど? 僕の背中に負ぶさるのが嫌なんでしょ?」

「せ……背中に乗らせてください!」

「可視へ」

「うわあああ! 乗らせろ!」


 からかうように呪文を唱えようとしているジュリアスは意地悪だ。

 ついに泣いてしまった私にガーサイドもアリヴィナも苦笑している。


「リリーシャってこんなに可愛かったっけ?」

「ホント、記憶がなくなると変になるんだな」


 私はジュリアスにしがみ付いて、背中の上でその会話を聞いていた。

 リリーシャは物凄く強かったんだろうけれど、鳥居香姫は平均的な中学生なのだ。しかも、この環境に適応できなくて戸惑っているというのに。


 アリヴィナとガーサイドの二人は、私に心を許してくれたんだろうか。二人とも私を見る目が穏やかなものに変化している。あんなにリリーシャにライバル意識を燃やしていたのに、私の事を受け入れてくれたような温かさに取って代わっていた。鳥居香姫はここに居てもいいのかもしれない。そう思えて嬉しかった。


 私は、ジュリアスと喋りながら、医務室まで彼に負ぶさって行く。

 けれども、高等部ではちょっとした噂になっていることを、私は知らなかった。


「あれ、見て! 三角関係だよ!」

「ノースブルッグ君には気の毒だけど、仕方ないよね」

「ローランドさんとシェイファー君、お似合いだもんね」


 ジュリアスと私に、高等部の生徒たちは陶酔したような視線を送ってきている。それが、憧れであることを私は後で知った。リリーシャが美人だからだ。鳥居香姫だったときには、とても考えられないような視線だ。リリーシャに敵わないとあきらめた生徒たちは、そっと二人を崇拝していた。


「リリーシャ……」


 その中に、クェンティンがいた。

 リリーシャにすがるようなクェンティンの視線に、私は罪悪感でいっぱいになる。申し訳ないけれど、私はリリーシャの代わりなんてできない。

 ジュリアスの背中の上で顔を伏せることが、私の精いっぱいの抵抗だった。


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