第十一話 ファウラーの異変
満身創痍のリリーシャは、クェンティンの腕の中で笑った。
「実は結構ギリギリだったのよね……!」
「で、でも、賞金首を倒すなんてすごすぎるよ!」
「香姫、おだてないでくれ。リリーシャには反省してもらわないといけないんだから!」
「ご、ごめん!」
今回の事でクェンティンは、流石に腹を立てているようだった。
クェンティンはリリーシャを背負って、医務室まで急いでいる。でも、その後ろ姿が、仲睦まじく見えた。背中から、ハートが飛んでくるようだ。早くも二人だけの世界に入っている。
「良かったね? リリーシャさんが無事で?」
「うん、そうだね!」
私とジュリアスも雑談しながら医務室に向かっていた。本当に、二人が無事で良かった。ファウラーの思い通りにならなくて本当に良かった!
廊下の角を曲がった時、ファウラーがこちらに歩いてくるのが見えた。今度こそ、ファウラーをやり込められる。私は胸を張った。
「ファウラーさん! リリーシャさん、無事だったの! ファウラーさんの思い通りになんて――!?」
廊下の向こうにいるファウラーに話しかけていたが、私は彼女の異変に気づいてぎくりとなった。良く見ると、ファウラーの目から涙が零れていた。
なんで、泣いてるの!?
私は吃驚して、心臓の鼓動が変になった。まったく、彼女らしくない。
すれ違いざまに、私は彼女を振り返った。
「ファウラーさん……?」
私の問いに、ファウラーも立ち止まる。
「私……もし、何もかもが違ってたら。あんたと……香姫さんと、ちゃんとした友達になれていたかもしれないわね……」
「えっ……?」
それってどういう意味……?
「バイバイ」
彼女は最後に笑った。
「ファウラーさん!?」
「可視編成!」
そして、瞬間移動の魔法で消えてしまった。何がどうなっているのか分からない。
「僕、嫌な予感がする。ファウラーさんをこのまま放っておいたら」
「だよね。なんか、今生の別れみたいなこと言ってたもんね……」
あんなことを言われた後でなにかあったら寝覚めが悪い。こうなったら、手がかりを可視するしかないだろう。
「教室に、ファウラーさんの持ち物があるかもしれないよ?」
「行ってみようよ!」
そして、私たちは、ファルコン組の教室へと移動した。
夜も更けはじめた。教室の窓から見える空は群青色に染まっている。教室の明かりをつけると、教室の中だけが鮮明に色づいた。
「ファウラーさん、データキューブを残してた」
ジュリアスがファウラーの机の中から、データキューブを取り出した。
「それを可視すれば……」
その時、瞬間移動の風が吹き荒れた。アレクシス王子だ。
アレクシス王子は私の方まで歩いてくると、ファウラーのデータキューブを取り上げてしまった。
「アレクシス様!? それ、返してください! 早くしないとファウラーさんが――」
「ファウラーさんの事は私が何とかします。だから……」
「本当ですか……?」
アレクシス王子は微笑んだだけだった。そして、私はファウラーを助けることなく、帰路についたのだった。
女子寮の自分の部屋に戻ってからも、私は部屋の中を行ったり来たりして終始落ち着かなかった。
『ファウラーを助けに行くか?』
「バージル君!」
そうだ。バージルが居たんだった。自然と可視モードになると、私の眼は半透明なバージルを捕えた。
「バージル君、もしかして何か知っているの?」
『ああ、アレクシスとファウラーが喋る一部始終を見たからな』
バージルは珍しく元気がない。私の胸がざわついた。嫌な予感がする。このまま、本当に放っておいても大丈夫なのか……?
「一体、ファウラーさんに何が起きているの? 私、本当に助けなくて大丈夫なの?」
『ファウラーは、アレクシスを毒殺しようとした真犯人だ』
「えっ!? 本当なの!?」
私の問いにバージルは頷いた。
『ああ。妖魔の哀愁のベローと手を組んでいる。そして、グレンを操り、ジュリアスを追憶のフィンに襲わせた。それだけじゃなく、リリーシャまでも襲わせた。更には、俺様も狙われている……だから』
「一体、何が起きてるの?」
『……アレクシスは、ファウラーを見殺しにしようとしているんだ。罪を許す代わりに、自分で後始末をするように』
確かに、身から出たさびだ。以前のままの関係なら、ファウラーの事を放っておいたかもしれない。でも――。
「でも、ファウラーさん、泣いてたの。もし、何もかもが違ったら、私たち友達になれたかもって言ってたの!」
『なら、俺様と一緒にファウラーを助けに行くか?』
「行けるの!?」
『アトリーの資料を盗み見たから、居場所も掴んでるんだ』
「うん! 助けに行く!」
バージルは私の肩に手を置いた。そして唱える。
「可視編成!」
そして、私は哀愁のベローのすみかまで、瞬間移動したのだった。




