第七話 アレクシスに招かれて2*
「実は、バージルは見えなくなる呪いをかけられたのではありません。私たちがバージルに見えなくなる呪いをかけたのです」
アレクシス王子が笑顔で言った。
「ちょっと待ってください? 笑顔でなんかすごいことを仰ったような……」
「だから、バージルは呪いを『かけられた』のではなく、私たちが呪いを『かけた』のです」
「っ!?」
私はケーキの最後の一切れを喉に詰めそうになった。驚きで『フラン・グラン』の味が相殺された。お茶を飲んで呼吸を整えてから、顔を上げる。
「ば……バージル君に呪いをかけたのはアレクシス様なんですか!?」
「もう一人いますよ。サミュエル兄上もです」
兄上ということは、サミュエルというお兄さんは王子様だろう。
今日は、アレクシス王子が妙に優しいものだから油断した。
兄弟そろって良く似ている。鬼畜なところがそっくりだ!
「鬼かっ!」
思わず怒鳴ると、アレクシス王子が困ったように眉を下げた。
「仕方ないんですよ。一ヵ月前に脅迫状が届きましたからね」
「えっ!? 脅迫状!? アレクシス様のじゃなくて?」
「バージルの殺害予告のですね。それで、バージルを殺すというものだったのですが、一向に犯人が捕まらなくてですね。前日になって、良い案が浮かんだんですよ。バージルを視えなくしてしまえばどうかと思いましてね」
「だからって……」
普通、見えなくする呪いをかけようと思うだろうか。しかも、アレクシス王子は、それを名案だと思っているらしい。私の身体にドッと疲れがのしかかる。
「サミュエル兄上もそれは妙案だと仰って下さって、二人がかりでバージルに呪いをかけたんです。まあ、あんなにバージルが苦しむとは思わなかったですが」
「当たり前だよね! 呪いだもんね!」
アレクシス王子は相当に気楽なひとに違いない。そして、脳細胞がミジンコでできているにちがいない。
私は、アレクシス王子に頼まれてバージルを可視したときの事を思いだしていた。相当苦しんでいた。まるで、死ぬ前のような。
「だから、クレア先生に助けを求めましてね」
「病院に連れて行かなかったんですか!?」
「私たちの仕業だと知れたら、大ごとになりますからね。極秘に済ませたかったのです。でも、その甲斐あってバージルはまだ無事ですから。私たちの作戦勝ちですね」
私は何も言えなくなってしまった。
確かに。バージルは呪われているが、殺されてはいないのだ。結果が良かったからいいようなものの……。もし、バージルに何かあったらどうするつもりだったのだろう。
しかし、私にしろ、バージルにしろ、一応はアレクシス王子に助けられているのだ。
ただ、やり方が、鬼畜なだけで……。そのせいで、私もバージルも悲惨な目に……。
「香姫さん、どうして泣いてるんですか?」
「何でもありません……!」
くっ……。涙で前が見えない……!
涙をぬぐうと、アレクシス王子はこちらを見ていた。
「アレクシス様、それで、バージル君を殺害予告した犯人に心当たりはあるんですか?」
気まずくなって尋ねると、アレクシス王子は頷いた。そして、ウィンザーを振り返る。
「ウィンザー。アトリー軍警特別第二官を呼んでください」
「かしこまりました」
ウィンザーは瞬間移動の魔法で消えた。
そして、暫くするとそれを使って姿を現した。ウィンザーの横にはアトリー軍警特別第二官がいる。アトリーは、アレクシス王子の前で跪いた。
「アレクシス様、お呼びでしょうか!」




