第四話 クェンティンの困惑
私の慰めの言葉など、クリスタル先生は聞いてもなかった。無視して続けたので、私の返事は曖昧になってしまった。ジュリアスも、ポカンとしている。
「ファウラーさんとローランドさんに良くない事が起きるのは本当よ」
「えっ!?」
「そして、鳥居さんはファウラーさんを守って絶命するの!」
私は、ジュリアスの袖を引っ張った。
「ジュリアス君、ゼツメイって何だっけ?」
「死ぬってことじゃないのかな」
私とジュリアスは青ざめたまま固まった。クリスタル先生がやけに明るく言ったので、私の知っているゼツメイの意味と違うと思ったのだが。やっぱり、絶命は絶命だった!
「えええっ!? 先生本当なんですか!? 私死んじゃうんですか!?」
大慌てして、クリスタル先生に縋りつこうとしていたが、先生がカッと目を見開いたので、私はギョッとして固まった。
「うぐっ!?」
クリスタル先生は心臓を掻き毟っている。
「っ!? どうされたんですか!?」
「はぁっ、はぁっ! ほ、発作が!」
クリスタル先生は発作だと言って、準備室に駆け込んで鍵をかけてしまった。
私は泣きそうになりながら、準備室のドアを叩いた。
「先生!? 先生!? 先生ーッッッ!?」
「静かにして頂戴! 発作が酷くなったらどうするの!」
お、怒られてしまった。
「じゅ、ジュリアス君……私、死んじゃうの……?」
私は、泣きそうになりながら、ジュリアスを振り返った。
ジュリアスは私よりも激怒していた。
「酷い先生だね! あんな占いなんて信じない方が良いよ!」
「う、うん……」
私は、ジュリアスに手を引かれて、教室へと歩いて行く。
なんで、私がファウラーを守って絶命しなくちゃならないのか!
大体、ファウラーだって、私より強い。だから、私に守られるようなヒロインじゃない。きっと当たるのも八卦外れるのも八卦だと思って、私は気にしないことにした。占いは大好きなのに、占い学の授業は嫌いになりそうだと思った残念な出来事だった。
しかし、この占いの結果のなりゆきが、新たな火種を生み出していることに私はまだ気づいていなかった。
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「ジュリアス君、次の授業は何だっけ?」
「ええと、魔法学じゃないかな?」
すっかり、次の授業に遅れてしまった。ジュリアスが廊下の時計を見上げる。
「もうすぐ、チャイムが鳴るよ!」
「ヤバい!」
魔法学の教室に急いでいると、向こうから走ってくる人影があった。それは、クェンティンだった。私はジュリアスと顔を見合わせた。クェンティンは私の方に走ってきたが、青ざめている。
「ど、どうしたの? クェンティン君」
「香姫! 俺、どうしたらいい!? リリーシャが!」
クェンティンはパニックになっているようだった。彼らしくもなく、泣きそうになっている。とうとう、チャイムが鳴り終わった。
完全に魔法学の授業に遅れてしまった。シャード先生が怒るだろうな……。それよりも、クェンティンの様子がおかしいことが気がかりだ。
「えっ、何? リリーシャさんに何かあったの?」
「ここじゃ、話せないから……」
ジュリアスが頷いた。
「じゃあ、医務室に場所を移そう?」
「えっ……でも、ファウラーさんがいるかも……」
今度は、クェンティンが苦り切った顔で頭を振った。
「居やしないよ。ファウラーさんは、親友だって言ってリリーシャにべったりだからな!」
「そ、そうなの? じゃあ、行こう?」
クェンティンもファウラーの事を良く思っていないらしい。ただのリリーシャに対する独占欲なのかな……?
私は、医務室に行く間中、クェンティンの顔色を見ていた。
クェンティンは医務室に行く間も顔をしかめていたが、涙をぬぐったので私はギョッとして、ジュリアスと顔を見合わせた。クェンティンが泣くだなんて――。
嫌な予感がする――。
優しそうに見えて、クェンティンは心が強い根性のある男子だ。普段からカノジョのリリーシャに鍛えられているから、ちょっとやそっとのことじゃ泣くことなんてないはずなのに。
どうやら、ただ事じゃなさそうだ。




