第三話 占い学の授業
その日も、もやもやした気持ちを抱えたまま、授業を受けていた。私は魔法学校で色々な授業を受けているのだが、今日は、『クリスティン・クリスタル先生』の『占い学』の授業があった。
クリスタル先生は目の大きい、やせ形で身長の高い先生だ。いつも、色とりどりの占い師のような薄絹のショールを羽織っている。明らかに、占い師としてのカリスマ性があり、女の子から絶大な支持を受けていた。私も、澄恋と自分との相性を聞きたかったが、悪いと決めつけられると辛いので、訊いたことはない。けれども、占いの授業は毎回のように楽しみにしていた。
しかし、今日。その授業を受けている最中に、後ろを振り返って言い知れぬ嫌な予感に恐怖した。占い学の授業では、今日のインスピレーションに従ってと言って、好きな席に座れるのだが、リリーシャとファウラーは仲良く二人で座っていたのだ。それでも恐怖するのに、クリスタル先生が、彼女たちを見て一瞬息を呑んだのを私は見逃さなかった。賑やかに先生を忘れ去っている生徒たちの中。クリスタル先生は人知れず息を切らし、苦しそうにして、占い学の準備室に駆け込んでいった。
「ジュリアス君、さっきの見た!?」
私は、恐怖してジュリアスを振り返ったが、当のジュリアスはレヴィー・ブレイクと今日の運勢の事で盛り上がっていた。やっと、ジュリアスが私に気づいた。
「えっ、何? 香姫さん?」
「あのね、クリスタル先生が準備室に――」
私が振り向くと、いつの間に準備室から出てきたのか、クリスタル先生が整然として椅子に座っていた。息を切らしている様子も取り乱している様子もなく、綺麗な居住まいだ。
「あ、あれ……?」
「香姫さん、クリスタル先生がどうかしたの?」
「う、ううん。なんでもない……」
私は、得体のしれないクリスタル先生を恐々と見つめた。クリスタル先生は私を見て驚いていたが、すぐにそれが笑みに変わる。一体なんなの? クリスタル先生といい、ファウラーといい。そして、普通に授業が始まった。
「今日は数日間の運勢を見てみるわ。配った水晶を見て?」
私は大きなビー玉ほどの水晶を覗き込んだ。逆さまの私が水晶に映っている。
クリスタル先生が手を叩いた。生徒たちの視線が先生の方に集まる。
「水晶占いをやりましょう! やり方はすごく簡単! 綺麗に見えれば、吉。形や色がはっきり見えなかったら、凶。じゃあ、やって見て!」
生徒たちは面白そうにおしゃべりしながら水晶占いをしている。気楽にやれるのが占い学の授業の良いところだ。クリスタル先生もそれを楽しんでいるし、雰囲気を壊すようなことはしない。
「香姫さん、面白そうだね」
「うん!」
水晶占いか。水晶を可視してみたら、何か面白いことが見えるかも!
私はこっそりと可視してみた。
けれども、準備室に水晶が入れ物に戻されてからは、残留思念には暗闇しか残っていない。
「香姫さん、何か見えた?」
ジュリアスは、私が可視していたことに目ざとく気づいて、こっそりと聞いてきた。
私は、つまらなくて嘆息した。
「ううん。何も見えないよ」
「えっ、マジで!?」
「っ!?」
私は、ガーサイドの大声に驚いた。ガーサイドとアリヴィナがこちらに注目していたのだ。
「クリスタル先生、鳥居が大凶です! 全然見えないって!」
何も見えないってことは大凶になるんだけど、私は真面目にやってなかったから、大凶なのかも怪しいところだ。
「せんせー! ファウラーさんと、ローランドさんも凶です!」
メリル・カヴァドールが声を上げて、クリスタル先生に報告している。
えっ!? ファウラーと、リリーシャも凶!?
私はギョッとして、後ろの方に座っている彼女たちを見つめた。
リリーシャとファウラーはらしくなく、青ざめていた。
「占いは注意することで、凶から吉に転じることができるわ。だから、大丈夫よ!」
クリスタル先生は、神秘的な微笑みで絶望のどん底にいる彼女たちを救いだした。
しかし、ファウラーとリリーシャは懐疑的な目でクリスタル先生を見つめていた。
授業が終わり、ファウラーとリリーシャが喋っているのを私は聞いてしまった。
「占いってあてにならないのね! ちょっと期待していたんだけど、占いに絶対はないのね! 絶対がないならどうでも良いことだわ!」
「そうかもしれないわね、行きましょう! 私、リリーシャに良い話があるのよ!」
ファウラーとリリーシャは楽しそうに喋りながら教室から出て行った。その後ろをクェンティンが追い駆けて行く。クェンティンは大変そうだ。私は少しクェンティンの事が心配になった。
「ジュリアス君、教室に戻ろ――!?」
しかし、振り返って驚いた。
「うん。香姫さん、戻ろうか。どうしたの?」
ジュリアスは居たのだけど、その後ろでクリスタル先生が突っ立ってファウラーたちを神秘的なまなざしで見つめていたのだ。
もしかして、リリーシャたちの暴言を聞いていたんじゃ……!?
先生に同情していると、クリスタル先生はクスリと微笑んだ。
「あ、あの……! 占いは私大好きなんです! だから、リリーシャさんたちが言ったことは気になさらないで――」
「鳥居さん、お話があるの。少し良いかしら?」
「え? は、はぁ……」




