第二話 妹か恋人か*
授業が終わり、私はまっすぐに女子寮の自分の部屋に戻ってきていた。ローブのポケットをあさると、ファウラーからもらった飴玉が出てきた。そして、ひらりと紙切れがベッドの上に舞い落ちた。
飴玉を勉強机の上に置いて、紙切れを持ってベッドに座る。開くと、景山澄恋が私を迎えに来る時間が書いてあった。
『何、ニヤニヤしてるんだ?』
バージルの声が聞こえてきて、私は自然に可視して辺りを見回していた。目の前に半透明のバージルが浮かんでいることを確認してにっこりする。
「バージル君、やっぱり、これってデートの約束かなぁ?」
私は期待していた。澄恋がもしかしたら自分と同じ気持ちかもしれないことを。
バージルは私の問いを聞いて、何故か偉そうに仰け反った。
『ああ、俺様は知っているぞ! 景山澄恋からそれを貰って戸惑っていたことをな!』
私が修羅場なのを面白そうに見物していたのか。分かっていたことだけど、良い性格している。
バージルは偉そうに唸った。
『フツーなら、好きならあそこで嫉妬するに違いないが、景山澄恋は怒らなかったな』
何故か、バージルの意見はまともだった。バージルの口からそんな正論が出てくるとは意外だ。しかし、私は意気をくじかれたように元気が無くなった。
澄恋が誘ったのはデートじゃない?
だとしたら、ファウラーが言ったことが本当なのか?
私をフるために、わざわざ呼び出したのだろうか。
ううん!そんなはずない!
私は心の中でキッパリと否定した。
「で、でも、じゃあなんで、私の事を誘ったんだろ?」
『うーむ、俺様には分からないところだな。嫉妬されたりということはないのか?』
以前、魔法学校の食堂で澄恋と食事したことを思い出した。その時も訊いたことがあるが、はぐらかされてしまったような――。まさか。
「私、リリーシャさんと身体を交換したことがあるんだけど……」
『ふむふむ……それで?』
「リリーシャさんの身体と私の魂が同化していたときの方が、澄恋君はよく怒ってた」
その答えは、言葉にしたくなかった。けれども、バージルは無神経にそれを答えに変えた。
『なるほど! 分かったぞ! 澄恋は、リリーシャの事が好きなんだ!』
澄恋はリリーシャの事が好き……? 嘘だ!
「じゃあ、私の事は? 私の事を守ってくれるのは?」
『多分、妹のように思っているんじゃないのか? そうだ! 妹だ! 俺様の名推理に間違いはない!』
バージルはそう言ってから、私の様子に気づいてギョッとしていた。
私が泣いていたからに他ならない。
『い、いや……。間違いだ! うん、気を落とさないようにな! じゃあな!』
都合が悪くなったのか、バージルは言うだけ言って、上の部屋に天井をすり抜けて帰って行った。私は怒りで震えた。
「バージル君の馬鹿!」
私は枕を天井にぶつけた。羽が舞って、枕はボスンと床に落ちてきた。私は八つ当たりした枕が可哀想になって腕に抱えた。そして、そのままベッドに横たわる。
「妹か……そうよ。私はまだ十六歳だから、あと五年……あと、五年で綺麗になって、澄恋の意識を妹から恋人に昇格させてやる! 五年計画だ!」
涙をぬぐう。
「澄恋君の恋人……! フッフッフ……!」
そして、私はアヤシイ笑いを浮かべた。
打倒、ファウラー! 打倒、リリーシャ! な、夜だった。