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不可思議少女は今日も可視する  作者: 幻想桃瑠
◆第二部♚第三章◆【鳥居香姫は不可思議なグレンの言動に惑わされる】
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第十話 グレンと魔物*

 私は、物しか可視できない。人をうっかり可視してしまうと、ハダカを見てしまうという残念な結果になる。


「どうしました?」

「アレクシス様、私は物でないと……その……力を発揮できません……」


 こちらをグレンがじっと見つめているので、ちゃんとした説明ができない。私が可視使いだということをグレンに知られたら命取りになってしまう。


「グレンの持ち物は持っていないのですか?」

「はい……」


 グレンの持ち物を持っていないと、私は可視できないのだ。うな垂れる私の横で、何かが動いた。私は何気なく振り返る。


「えっ!?」


 私の隣に立っていたのは、グレンだった。グレンは、ダラリと頭を垂らしている。私は、唖然としたままアレクシスを仰ぎ見た。


 グレンの周りを風がふわりと吹き上げた。グレンの髪と制服のローブがふわふわとなびいている。

 グレンはゆっくりと頭を擡げた。目を開くと、ガラス玉のような青が光っていた。


「アレクシス…………する……」

「っ!?」


 機械音のようなグレンの声が聞こえたので、私はギョッとした。まるで、グレンがグレンじゃないみたいだ。


「な、なんて言ったの? グレン君……?」


 私は、嫌な予感を感じながら尋ね返していた。グレンは目を見開くと、今度こそはっきりと言った。


「アレクシスを抹殺する……!」

「な、なんで!? グレン君はアレクシス様のことを信頼しているんじゃ……!」


 グレンの口が呪文を紡ぎだす。しかし、これは可視編成とも可視言霊とも違う。


「これは、古代魔法!?」


 私は驚いていた。発音が物凄く難しい古代魔法を、グレンは易々と唱えている。グレンの口が機械のように高速で呪文を紡ぎだす。

 グレンは空に高く舞い上がった。グレンが手を掲げると、空を縦に切れ込みが入った。そして、その切れ込みの中からゼリー状の物体が落ちてくる。


「あれは?」

「魔物のスライムです! 可視言霊!」


 アレクシス王子は呪文を唱えて、スライムを一掃した。けれども、上空からスライムがどんどん落ちてくる。まるで、スライムの滝のように。


「香姫さん、私から離れないでください! 可視言霊!」


 アレクシス王子は私を後ろに回して、自身は炎の魔法でスライムを一掃する。けれども、アレクシス王子の魔法は、焼け石に水だ。すぐに、スライムで辺りが埋まる。そして、屋上の柵を越えて、スライムは校庭に落ちて広がろうとしている。


「アレクシス様! 可視編成!」


 護衛人のウィンザーたちが駆け付けた。彼らは魔法を使うが、毒にも薬にもなっていない。


「アレクシス様、一体何が起きたのですか!? 可視編成!」

「グレンが裏切ったのです! 可視言霊!」

「グレンが!? 可視編成!」


 スライムが消えたところにまた液体が落ちてくる。まるで、落ち物のゲームみたいだ。

 しかし、これではキリがない。


「アレクシス様、グレン君を止める方法はないんですか!」


 アレクシス王子は、私に手のひらを見せた。綺麗な手のひらだ。白くて長い指が付いている。だが、それだけだ。私が怪訝そうな視線を返すと、アレクシス王子は頷いた。


「グレンの心臓は私の手中にあります。それを止めれば――」


 グレンの心臓を止める!? そんなことをしたら死んでしまうじゃないか。

 私は、アレクシス王子が心底怖くなった。


「ダメ! グレン君を殺したらダメ!」


 私が、アレクシス王子の手を握ると、彼は美しい微笑みを見せた。


「それは最終手段です。安心してください」

「良かった……」


 アレクシス王子にも慈悲の心はあるようだ。私はホッとして、アレクシス王子の手を離した。


「でも、どうもグレンの様子がおかしいですね。何かに操られているような……」


 アレクシス王子は上空にいるグレンへと不機嫌そうな顔を向ける。


「グレンは操られているのですか? 可視編成!」

「ええ。私の知っている限りではグレンは古代魔法なんて使えませんからね……」


 アレクシス王子はそう言って、私を見つめた。


「な、何ですか……?」


 アレクシス王子は笑みを浮かべている。こんな時に笑える余裕なんてないと思うのに。

 そこはかとなく、嫌な予感がするような……。


「香姫さん、グレンをもう一度見てくれませんか?」

「ええっ!? 私は、物じゃなければその……できないと……」


 私は、アレクシス王子のお願いに困惑した。人を可視するとハダカが見えてしまうことは、澄恋しか知らない。変態みたいな能力をわざわざ公言する人はいないだろう。

 なので、私の能力の事をアレクシス王子は知らない。


「見れないわけじゃないんですよね?」

「えっ? いや、その……」


 私のあいまいな態度は、アレクシス王子の問いを肯定したと捉えたようだ。護衛人たちが魔法で必死に戦っているというのに、その横でアレクシス王子は天使のような笑みを私に向けている。


「香姫さんがグレンを見てくれないと、みんな殺されてしまうかもしれませんね」


 ええっ。天使みたいな笑みを浮かべて言うこと……!?

 余裕綽々のアレクシス王子に飽きれてしまう。でも、敵がスライムならわからなくもない。


「スライムでしょ? スライムなんて無害なんじゃ……」

「スライムの体液でおぼれ死にたいですか?」


 ウィンザーを始めとする護衛人たちは、窮地に陥っている。このままだと冗談じゃなく本当におぼれ死んでしまうかも――。


「しゅ、瞬間移動の魔法でここから脱出できませんか!?」

「グレンをこのままにしておく気ですか?」

「そ、それは……!」


 そうだった。私たちがここから逃げたら、今度は魔法学校のみんなが窮地に陥ってしまうかも。


「ううっ……分かりました……」


 そして、私はしぶしぶグレンを可視することになった。でも、グレンのハダカを見ても、解決にはならないと思うけど……。私は嘆息して気を取り直すと、グレンを可視した。


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