第九話 本当の黒幕……?2
バージルの消えた虚空を睨んでいた。すると、グレンが私の目の前で手を振った。私はハッと我に返る。
「鳥居さん……すごい怖い顔しているけど、大丈夫?」
「違うの! これは間違いなの!」
「別に照れなくても……」
「照れてない!」
グレンは面白そうにクスクスと笑っている。どうやら、彼には変な子と思われているようだ。
「もう! 私がグレン君を呼び出したのは、訊きたいことがあって!」
「えっ? 訊きたいこと? 俺に彼女がいるかどうか?」
「ちっがーう!」
私は声を荒げて両手の指をやきもきさせる。バージルのせいで、ハナシの歯車がかみ合わない!
「グレン君は、その……アレクシス様に頼まれて、ジュリアス君と私を追憶のフィンの罠にかけたの?」
「えっ!? 追憶のフィンの罠!?」
グレンのにやけていた顔が、追憶のフィンの名を聞いて引き締まる。
私が呼びだした理由も、ようやくグレンに伝わったようだ。
私は頷いた。
「そうだよ! 私は澄恋君やシャード先生に助けてもらって追憶のフィンを倒せたけど……」
「なんだ、良かった!」
「良くない! ジュリアス君は、グレン君が追憶のフィンに引き合わせたせいで、殺されるところだったんだよ!」
「ご、ごめん……! 俺、仕方なかったんだ! アレクシス様のご命令には逆らえないだろ!」
アレクシス王子の命令か。
追憶のフィンもそう言っていた。だとすると、これは真実だったのか。
私の心臓の鼓動が重くなる。
「やっぱり、アレクシス様のご命令なの……?」
乾いた私の声に、グレンは力強く頷いた。
「そういうことだよ。アレクシス様が、毒を盛られたことは鳥居さんも知っているだろ?」
「う、うん」
「異世界から来た人間が犯人だってアトリー軍警特別第二官が言ったんだ。それで、異世界に関係する鳥居さんやその仲間を殺すようにって、アレクシス様が……」
アトリー軍警特別第二官まで!? もしかして、アトリーの外れた推理のせいで、私は窮地に陥っているんじゃないのか。
後ろから足音がした。ドアが開く。
「えっ!?」
振り返ってギョッとした。アレクシス王子が彼らしからぬ険しい形相で背後に立っていたからだ。
「あ、アレクシス様!」
グレンは青ざめていた。私に真実を話したことで、アレクシス王子の怒りを買ったのだ。
グレンは後ずさりしている。
「グレン君、逃げよう!」
グレンに駆け寄ろうとする私をアレクシス王子が手を引っ張って止めた。私は涙目でアレクシス王子を振り返った。
「アレクシス様! 私の周りの人を傷つけないでよ! 私を攻撃すればいいでしょ!」
アレクシス王子は疲れたように嘆息した。
「香姫さん……また、良いように騙されましたね……?」
「えっ?」
騙された? アレクシス王子に? それとも……?
アレクシス王子は消沈した様子で私を見て続けた。
「そんなに……そんなに、私は信用ないでしょうか?」
「はい」
即答した私とアレクシス王子の間に冷たい風が吹いた。
アレクシス王子は笑顔を作った。
「……良く聞こえませんでした」
「私のアレクシス様の信用はゼロです」
キッパリハッキリ、真実を思ったまま伝えると、アレクシス王子の米神が引きつった。
「可視言霊!」
「ダメ!」
アレクシス王子の怒りの矛先は、グレンに向かった。私は持っていたデータキューブをとっさに投げた。アレクシス王子の魔法はグレンに当たらずに私のデータキューブに直撃した。私のデータキューブから煙が立ち上っている。
私は焦ってアレクシス王子の前に出た。
「だから! グレン君を攻撃しないでよ!」
「香姫さん。澄恋君から訊いたのですが」
「えっ? 澄恋君から?」
澄恋の名前が出てきたので驚いた。大人しくなった私にアレクシス王子は頷いた。
「追憶のフィンが言ったことは全部でたらめです。そして、私は追憶のフィンをそう言う風に言わせて操っていた犯人を捜していました。そうしたら」
「もしかして! グレン君が?」
「ええ。グレンが犯人だったようですね。しかし、グレンは信用が置ける人物です。簡単に私を裏切ったりしない。そして、私を裏切ることは死ぬことを意味します」
え゛……? グレンがアレクシス王子を裏切ることは死ぬことと同じ……?
その言葉に私の背筋はうすら寒くなった。しかし、今重要なことはそこではない。
グレンは信用が置ける人物なのに、どうして裏切ったのか。しかも、裏切ることは死に直結することだというのに。
「じゃあ、なんで……?」
私が問い返すと、アレクシス王子が微笑んだ。
「それを調べるのが、香姫さんの役目でしょう?」
「あ、そっか!」
私は手をポンと叩いた。私だけができること。それは可視することだ。
さっそく私はグレンを可視した。
私はアレクシス王子の指示を受けて、グレンを可視した。
「うっ……!」
しかし、うっかりグレンのハダカを可視してしまい、私は慌てて眉間をつまんで目を制御しなおしたのだった。