第八話 バージルの大作戦!
妖魔に狙われている間、私は夜は医務室で泊まっていた。しかし、もうその心配はなくなったので、女子寮に帰ってきていた。シャード先生とクレア先生には、アレクシス王子が犯人ということを黙っていた。喋ったところで、余計に心配をかけてしまうだけだし、この国を支配している王族に狙われているのだから、結局のところどうあがいてもどうにもならない。
アレクシス王子が瞬間移動の魔法で、女子寮の私の部屋に現れることを危惧していた。もし、現れたら対決してやるつもりでいた。
けれども、アレクシス王子は現れなかった。この日の夜、私は不安が募り良く眠れなかったのだった。
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「ふう……」
眠い目をこすりながら朝の支度をした後、私はベッドに座って考え込んだ。アレクシス王子が何も言ってこないとなると、クラスメイトのグレンに尋ねるしかない。
「アレクシス様が黒なら、グレン君も黒だよね……。グレン君だけを呼び出したいけど、データキューブで通信なんてできないし……どうしよう……」
私は勘付いて、辺りを疑問を持ったまま可視した。バージルがもし居たら、私の代わりに呼び出してもらおうと思っていたけど……。
「バージル君は……いないか……」
部屋にはバージルの影はなかった。それもそうだ。そんなに都合よく――。
『呼んだ?』
「ッッッ!?」
天井からにゅっとバージルが顔を出した。まるで、水面に顔を付けている様に天井に部分的に身体が浮かんでいる。
「ば、ばばばばば、バージル君!?」
全く心臓に悪い。しかし、呼んだら出てくるなんて、なんて便利な……!
バージルは天井から降りてきた。ベッドの上に着地するとふんぞり返った。
『実は、女子寮に入るのは抵抗があったんだけど、都合の良いことに俺様は見えないからな! この上の空き部屋を使わせてもらってるぜ!』
「何を堂々と……」
私は白い目を向けた。ふんぞり返って、変態宣言なのか。しかも、わざわざ私の部屋の真上を使うとは……。
『それより、何か俺様に用があるんじゃないのか?』
「あっ、そうだった!」
ポンと手を打つ。今は、バージルが変態だとか変質者だと言っていられないんだった。それに、バージルがここに居てくれるからこそ、協力してもらえるんだから。贅沢なことは言っていられないのだ。
私は、自分に言い聞かせるように頷いた。
『で、何だ?』
「このデータキューブで、グレン君を呼び出せないかな? 私、データキューブに記入するのがやっとなの! だから、通信までは出来なくて……」
『なんだ、そんなことか! いいぞ! 俺様に任せておけ!』
バージルは私の手からデータキューブを受け取ると、それに記入し始めた。
そして私は、バージルに協力してもらい、グレンを屋上に呼び出したのだ。
屋上では、風が唸っていた。校舎内でひと気のないところと言えば、ここくらいしかない。
独りで屋上で待っていると、階段を上がってくる足音が聞こえてきた。私はドアの少し離れたところで待ち構える。
「やあ、鳥居さん」
グレンは、待ち構えていた私に軽く驚きを表した。
「グレン君……あのね!」
私が意を決して、アレクシス王子の事を尋ねようとした。すると、グレンは右手を軽く上げて、私を制止した。
「みなまで言わなくても分かってるよ」
「えっ? ホント?」
バージルが私が訊きたかったことを全部伝えてくれたんだろうか。私は、緊張でごくりと喉を鳴らした。
私は昨日のやり取りを思い出していた。データキューブをバージルに渡した私は、説明してグレンに送ってほしいと言った。すると、バージルは神妙に頷き、胸をドンと叩いて自信満々だった。
『俺様に任せておけ! 香姫が言いたいことは全部手に取るようにわかっているぞ!』
「ホント?」
バージルはデータキューブに真剣に向き合い、文字を入力してグレンに送り届けた。
『これで、完璧だ! 俺様の完璧な文章にグレンも降参することだろう!』
「ありがとう! バージル君!」
これが、私とバージルの一連のやり取りだった。
バージルが伝えてくれたんだ。すっと気が楽になる。しかし、私はバージルにアレクシス王子が黒だとは伝えたっけ。
「あれ?」
私が、不思議に思ってグレンを見つめると、彼はクスクスと笑い始めた。
「えっ?」
なんだろう。緊張感が解けて行くような、このフレンドリーな空気は。
「グレン君、何で笑うの?」
「ゴメンゴメン。だって、昨日の君のメッセージ」
グレンは思い出したのか、クスクスと笑い始めた。
「な、なんか、変だった……?」
バージルは一体何を書いたのだろう。私は不安になった。もし、『私も悪の組織に入る』なんて書いていたら――。
「いや、君の情熱的な文章を読んだら、俺も断ることができなくなったよ」
「えっ? 情熱的……? 断ることができない……? 一体何のこと……?」
嫌な予感がした。
「まさか、君が書いたのに忘れたのか?」
「……ちょっと、データキューブ見せてくれないかな? 早く、早く!」
グレンを急かすと、彼は怪訝そうな顔をしながら、データキューブをポケットから取り出した。そして、開いてメッセージを確認する。
「ほら、君のメッセージ……」
そして、グレンは私にデータキューブを見せてくれた。
「えー、何々?『親愛なるジェイク・グレン様 私は貴方の事が大好きです。貴方の事を考えると他の女にとられないか不安で夜も眠れません。明日の朝、屋上に来ていい返事を聞かせてください。愛してます。貴方を想う可愛い鳥居香姫より』……って、ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!」
私が絶叫していると、グレンは楽しそうに笑っていた。
何が『俺様に任せておけ!』だ!
バージルうううううううううううううううううううううううううううう!
私は涙目で辺りを可視した。目の前にバージルを見つけて、キッと睨む。
『あれ? なんか違ったのか?』
バージルは暢気に頭を掻いている。
私は頷いた。グレンがいるので、表立って批判できない。
『まあ、なんだ……俺様にもそう言うこともある! じゃあなっ!』
睨まれたバージルは空笑いすると、都合が悪くなったのか、瞬間移動の魔法を使っていなくなってしまった。
きぃいいいいいいいいい! バージルの××××! ×××××! ×××ッッッ!
私は、心の中で思いっきりバージルを罵ったのだった。