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不可思議少女は今日も可視する  作者: 幻想桃瑠
◆第二部♚第三章◆【鳥居香姫は不可思議なグレンの言動に惑わされる】
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第三話 グレンの言い分*

「グレン君……!」


 敵かもしれない人物が目の前にいる。私の心拍数は早くなり、冷や汗が頬を伝う。

 しかし、グレンはマイペースだった。アレクシス王子の前に連れられてきても飄々としている。


「あれ? 鳥居さん?」


 グレンには私がここに居合わせていることが不可解だったらしい。言葉を無くしている私をそのままにアレクシス王子が訊いた。


「全部聞きました。香姫さんが妖魔に狙われていると、グレン君がジュリアス君に言ったそうですね」


 私も頷いて、アレクシス王子の後に続ける。


「ジュリアス君が大怪我をしたのは、貴方のせいなの?」

「えっ? ええっ!? 大怪我!?」


 グレンは素直に驚いていた。グレンはようやく自分の仕出かしたことに恐怖したようだ。顔が微かに強張った。


「シェイファーは助かったんですか?」

「助かったけど……!」

「ああ、良かった。寝覚めが悪くなるところだったよ」


 すると、グレンは笑みを浮かべた。

 カッと頭に血が上る。


「何なの、その言い方! もし、ジュリアス君の発見が遅かったら、死んでいたかもしれないんだよ!」


 グレンの言動がいちいち癇に障る。何故そこで笑みを浮かべられる? グレンの言動が原因なのに、どういう神経しているんだ?

 私の剣幕に驚いて、グレンは一歩後ずさりした。


「で、でも、情報に間違いはないはずなんだけど……」

「えっ……?」


 今度は私が青ざめる番だった。

 情報に間違いがないということは、私が妖魔に狙われていることになる。


「グレン、どうして香姫さんが狙われているんですか?」

「それは……。理由はよく分からないんですが。俺の情報網に引っ掛かったので……」


 私は、顎に手をやって黙考した。どういうことなのだろう。可視した限りだと、妖魔は私の事なんか知らないと言っていた。

 グレンの情報網に引っ掛かった? 誤報なのだろうか? それがもし真実だとしたら、どこからか私の事が漏れているのだろうか?


 私はうっかり疑問を持ってグレンを見てしまった。そのため、グレンのハダカを可視してしまった。


 ああ、何で私の目は!


 思わず横を向くと、アレクシス王子のハダカが見える……。


 ああ、もう!


正面を向くと、ウィンザーの筋肉隆々のハダカが見えた。大胸筋がピクピク動いている。


 ううっ……。


 私は目を瞑って、眉間を指でつまんで目を制御した。

 百面相をしている私を、アレクシス王子が不思議そうに見ていた。私と目が合うと、アレクシス王子は目をそらした。


「分かりました。もう、戻っても構いませんよ」

「失礼します」


 アレクシス王子がグレンに声をかける。グレンは安堵した様子で、一礼した。


「ウィンザー、グレンを送ってください」

「かしこまりました。可視編成!」


 ウィンザーは、瞬間移動の魔法を使って、その場から姿を消した。

 グレンが帰って私はホッと息を吐いた。まさか、アレクシス王子がグレンを呼ぶとは思わなかった。アレクシス王子は肝が据わっているのだろうか。


「それにしても、よくジュリアス君を発見できましたね」

「アレクシス様、危機一髪のところをバージル君が連れて来てくれたらしいです」


 アレクシス王子の問いにはクレア先生が答えた。私も笑顔で頷く。


「そうなんです! バージル君が手助けしてくれたんです!」


 バージルが居なかったら、きっとジュリアスは助からなかった。感謝してもしきれない。

 アレクシス王子は嬉しそうに微笑んだ。


「バージルが? そうですか」


 アレクシス王子は辺りを見回した。私も可視してみるが、バージルはこの部屋にはいない様子だった。


「この部屋にはいないようですけど……あの、バージル君は元気そうでした」

「そうですか。バージルも元気そうで安心しました。香姫さん。このまま、バージルから目を離さないでください」

「目を離すなと言われても……バージル君は、いつ出てくるのか分からないから……」

「今のままで構いません。どうやら、バージルは香姫さんが気に入ったみたいですから」

「は、はぁ……」


 バージルが私の事を気に入った?

 それで私を助けてくれるのだろうか?

 何となく、幽霊に好かれたような複雑な気分だ。私が元居た世界にいた時は、幽霊が怖くて逃げ惑っていたというのに。

 私が曖昧に浮かべていた笑みは、ふと思い浮かべた少年の顔で掻き消えた。


 そうだ。元居た世界にいた時は、幽霊に怯えて、澄恋に守ってもらっていた――。

 そうだ。澄恋だ。今頃、澄恋はどうしているだろう。誤解したまま帰ってしまった。

 アレクシス王子がデータキューブでメッセージを送っていたが、私は魔法を使いこなせないから送ることができない。それに、澄恋のアドレスも知らない。

 このまま、澄恋が私と疎遠になってファウラーと仲良くなってしまったら――。

 泣きそうになりながら、私は頭を振った。


 また、緑の風が吹いた。瞬間移動の魔法だ。顔を上げると、ウィンザーが帰ってきていた。

 ウィンザーはアレクシス王子の前で跪いた。


「アレクシス様、グレンを送ってきました」

「ありがとう、ウィンザー。では、そろそろ私は戻ります」


 私はハッと我に返った。


「アレクシス様! 私は狙われているんですよね! どうしたら……!」

「ふむ。そうですね……」


 アレクシス王子は考える風を装った。


「では、私が毎日添い寝を」

「イヤです!」


 即答すると、アレクシス王子が品よく笑った。


「冗談ですよ」


 私はアレクシス王子に遊ばれてばかりだ。げんなりしていると、彼が続けた。


「しばらくの間医務室で寝泊まりしてはどうですか? 先生方の目のよく届く範囲で」

「アレクシス様、かしこまりました」


 クレア先生がお辞儀している。先生たちに守ってもらえるなら安心だ。私は元気を取り戻した。


「アレクシス様、ありがとうございます」

「こちらこそですね」


 私が魔法で失敗したぬいぐるみのような残骸を、アレクシス王子は手に持って微笑んでいる。そんな気は全くなかったのだけど。アレクシス王子の機嫌がよくなって助かった。


 私は愛想笑いを浮かべて、アレクシス王子が瞬間移動の魔法で帰って行くのを見守っていた。

 そして、私はあることに気が付いた。


「あ、ジュリアス君!」

「……」


 私がベッドの方に駆けよると、切なそうな目で見つめられてしまった。


「うっ……」


 ジュリアスは、アレクシス王子に魔法をかけられて痺れたままだった。


「ごめん、忘れていたわけじゃないの」


 笑顔を繕いながらも、完全に忘れていたことは内緒だ。

 すぐにクレア先生が治癒して事なきを得たのだった。


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