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不可思議少女は今日も可視する  作者: 幻想桃瑠
◆第二部♚第三章◆【鳥居香姫は不可思議なグレンの言動に惑わされる】
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第二話 アレクシス襲来*

 アレクシス王子は、慈愛に満ちた表情で私に微笑みかけた。民衆が彼の笑みに陶酔しそうだが、正体が分かっている私には極悪人の上っ面にしか見えない。

 尻餅をついた格好で睨んでいる私に、アレクシス王子が近寄ってきた。


「どうしたのですか、香姫さん」


 私は尻餅をついた格好で、後ずさりする。


「アレクシス様……! 何しに来たんですか!」


 アレクシス王子は、「おや?」という風に瞬きした。そして、膝を折って紳士的に手を差し伸べてくる。


「何しにって、ご挨拶ですね。私はただ、ジュリアス君が大怪我をしたと聞いて――」

「トドメを刺しに来たのね!?」


 私は、彼が差し伸べてきた手を勢いよく払い除けた。


「え……?」

「そうはさせないんだから!」


 私は自分の力で起き上がる。

 アレクシス王子は不思議そうにそれをじっと目で追っていた。


「香姫さん、あの」


 ついて行けないアレクシス王子を、私は仇のような目で睨んだ。

 そして、ビシッと指をさす。


「あんたなんか、見せかけ倒しの腹黒王子のくせにっっっ!」

「……」


 アレクシス王子の口元は笑っているが、目が半眼になっていた。

 私とアレクシス王子が距離を縮めずに対峙していると、ベッドの方から間仕切りのカーテンが開く音がした。


「香姫さん!?」


 私はハッとして奥のベッドの方を振り返る。満身創痍のジュリアスが、ベッドから起き上がろうとしていた。


「ジュリアス君、出てきちゃダメ!」


 私は手を横にふって、ジュリアスを制止する。

 だが、アレクシス王子を見つけた途端、ジュリアスの表情が険しくなった。私にアレクシス王子の魔の手が迫っていると、ジュリアスは焦燥したのかもしれない。

 彼は険しい表情のまま叫んだ。


「香姫さんから離れろ! この美しいだけのゴ〇ブリ王子が!」


 毒を吐いたジュリアスの声が医務室の中にこだました。

 アレクシス王子の目がうつろになった。


「フフフ……可視言霊」


 緑の光を浴びたジュリアスは「ぐふっ」と言って、ベッドの上に倒れてしまった。


「ああっ、ジュリアス君! ジュリアス君に何したのよ!」


 私は何もできなくて涙目だ。アレクシス王子の笑みが悦に染まる。


「痺れてもらいました。見せかけ倒しの腹黒王子? 美しいだけのゴ〇ブリ王子? フフフ……とても面白いです。八つ裂きにして差し上げましょうか?」

「可視編成!」


 戦慄した私は、とっさにアレクシスへ呪文を唱えていた。呪文を唱える時にイメージすると、それが形になって現れるのがこの魔法の特徴だ。私は、怖い魔獣をイメージした。ずっと前にアントニア・ボール先生が捕まえてきたアウルベアを。


「可愛いですね、私へのプレゼントですか?」


 だが、その魔法はヘンテコなぬいぐるみを繰り出し、あっさりとアレクシス王子の手中に納まった。

 私は、その場に膝をついて、ガクリとうなだれた。


「ううっ……こんな時もちゃんと魔法が使えないだなんてっ!」


 自分への怒りを拳で床にぶつける私に、アレクシス王子が私を覗き込んだ。手に、ヘンテコなぬいぐるみを持って。


「香姫さん」

「っ!」


 私は逃げようとしたが、アレクシス王子のもう片方の手によって捕えられてしまう。


「何か、誤解しているようですが、私はジュリアス君が怪我をしたと聞いたので、お見舞いを兼ねて様子を見に来ただけですよ?」

「えっ……? ジュリアス君を葬りに来たわけじゃないの……?」

「はい、そうです。ただのお見舞いです」


 私は安堵するやら、どっと力が抜けるやらだ。アレクシス王子の機嫌はすっかり良くなっている。どうやら、私が攻撃として出したぬいぐるみが功を奏したらしい。すっかり、私からのプレゼントだと思っている。


「その様子から察するに、何か事件があったようですね」


 素直に話していいのだろうか。

 私が躊躇していると、クレア先生が横から口を出した。


「ちゃんと話した方が良いわ。アレクシス様は協力してくださるはずだから」

「は、はい」


 クレア先生が言うのだから間違いないはずだ。


「実は、グレン君が私が狙われていると言って、ジュリアス君に嘘の情報を教えたらしくて……だから、ジュリアス君は大怪我をして。グレン君はアレクシス様の息のかかった臣下であるから、アレクシス様が黒幕だと……」


 アレクシス王子は、嘆息した。


「私が黒幕なはずがないでしょう」

「すみません……」


 でも、普段疑われるようなことをする方がおかしい。


「それにしても、グレンが……? 変ですね。グレンは信用できる臣下です。それは間違いないはず……」


 アレクシス王子が珍しく笑みを消して唸っている。


「じゃあどうしてですか? グレン君が裏切ったんですか?」

「可視言霊」


 アレクシス王子はデータキューブを開いて、何やら操作をしている。


「不可視言霊」


 そして、さっさとデータキューブを閉じてしまった。

 一体……?


「データキューブで何したんですか?」

「グレンを呼びました」


 アレクシス王子はしれっとして、あっさりとのたまった。

 あまりにそのセリフが淡泊だったものだから、呑みこむのに時間がかかった。


 えっと、グレンを呼んだ?


「え、ええっ!? グレン君を呼んだ!?」


 敵かもしれないのに、何で呼ぶんだ!

 文句を言う前に、緑の風が巻き起こった。これは瞬間移動の魔法だ。


「お呼びでしょうか。アレクシス様」


 私の目の前に現れたのは、ウィンザーに連れられて来たグレンの姿だった。


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