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不可思議少女は今日も可視する  作者: 幻想桃瑠
◆第二部♚第二章◆【鳥居香姫は不可思議なアレクシスの窮地に忙殺される】
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第十四話 第二部二章完結 蘇生



「ば、バージル君……?」


 恐る恐る彼に近寄った。すると、すぐに異変に気づいた。

 バージルの服が汚れている。魔法灯の光では色あせて見える。

 だが、魔法灯の加減で色が分かり、私は眩暈を覚えた。

 バージルの服を汚しているもの――それは、鮮血だ。


「血……!? バージル君、怪我を!?」


 私は、バージルの手に触れようとしたが、彼に止められてしまった。


『大丈夫だ。俺様の血じゃない』

「えっ!? もしかしてその血ってジュリアス君の!?」


 嫌な予感を否定してほしかったが、バージルは頷いた。


『ああ、ジュリアスの血だ。でも、安心しろ。医務室に運んだから大丈夫だ。クレア先生が仲間の治癒人を呼んで治療している――っておい!』


 私は、バージルの話を最後まで聞かず、医務室に向かって走り出していた。

 外はもう真っ暗になっている。シンと静まっていて、私の忙しない足音だけが反響して響いている。


「えっ!?」


 その音が急に二重になった。誰かが私を追い掛けているのだ。恐怖して私の足はさらに加速する。だが、私を追い掛けるその足音も速くなった。

 食堂の近くの廊下を通ったとき、私は腕を引っ張られた。


「っ!?」


 私は身構えたが、それがすぐに取り越し苦労であることに気づいた。


「香姫? 急いでどこ行くんだよ」

「す、澄恋君……!」


 心臓がバクバクと鳴っている。敵かと思ったのだ。妖魔の賞金首が、私を狙いに来たのだと。

 何も知らない澄恋は、そんな私を見て微笑んでいる。


「休暇が取れたから、やっと香姫と一緒にマジックショップに行けるよ。その事を知らせに――」


 普段なら嬉しい知らせだった。けれども、私の心は既に医務室に向かっている。


「ゴメン! 私は予定があるから!」


 しきりに医務室の方を見ていると、澄恋が訝しんだ。


「予定って……もしかして、ジュリアスと……?」


 私は電撃を打たれたように硬直した。

 すると、澄恋は半眼になって、一気に不機嫌になった。


「何、その反応……。いつの間にそんなにジュリアスと仲良くなったわけ?」


 それでも私は、医務室の方を気にしていた。澄恋は私の態度が気に入らなかったようだ。


「あっそう。他の人と行こうかな~」


 次にカチンと来たのは私の方だった。私は、澄恋が掴んでいる私の手を、思い切り振り払った。


「行けば!」


 予告なしの私の大声に、近くで聞いていた澄恋は仰け反った。私は怒気に染まった顔を突き付けるようにして再び怒鳴る。


「頭なでなでしてたファウラーさんと行けばいいでしょ!」


 すると、澄恋は吃驚したように目を瞬いた。


「えっ? 香姫見て――」

「澄恋君なんて知らないッッッ!」


 渾身の限り大声で澄恋を間近で怒鳴ると、彼は耳を押さえていた。

 気が済んだ私は、医務室に向かって走り出した。


「アイツ……」


 澄恋はそんな私を見ていたが、追いかけてくることはなかった。今言い争っても無駄だと悟ったのかもしれない。


 医務室の前まで走って来ると、部屋には明かりがついていた。ドアは閉め切られていて、廊下は静かなものだ。

 私は呼吸を整える。そして、ドアを恐る恐る開ける。


「失礼します」


 医務室の中に足を踏み入れるが、今日はいつもよりも消毒液臭い気がした。

 丁度その時、ベッドのカーテンを開けて人がぞろぞろと出てきたので、私の心臓はキュッとすくみ上った。その最後尾にクレア先生を見つけた。クレア先生はベッドの間仕切りのカーテンを閉めている。


「じゃあね、クレア」

「またね」

「うん、ありがとね」


 治癒人たちはクレア先生の知り合いなのだろう。穏やかに挨拶して手を振っている。

 そして、治癒人らしき人たちは瞬間移動の魔法で帰って行った。緑の風がサアッと巻き起こって、カーテンを揺らしていた。

 そして、部屋の中にはクレア先生と私だけになった。


「ああ、鳥居……」


 クレア先生が、やっと私に気づいた。手術で使うようなぴっちりとした手袋を脱いでいた。


「クレア先生、ジュリアス君は……!」


 クレア先生は白衣を椅子の背にかけた。かろうじて括っていた髪の毛を解いて、頭を振っている。


「ああ、シェイファーは大丈夫よ」

「本当ですか!」

「嘘ついてどうするのよ」

「良かった~!」


 クレア先生は一息入れるように、椅子に座った。魔法びんからお茶をマグカップに注いでいる。


「かなり、危ない状態だったけどね。でも、誰かが瞬間移動の魔法で彼を連れて来たらしくて」

「バージル君です。私が頼んで、バージル君に連れて来てもらったんです!」

「そうだったの……!」

「ジュリアス君は、大丈夫だったんですよね?」


 一旦は安堵したものの、心配で私はそわそわしている。そんな私に気づいて、クレア先生は笑みを浮かべている。


「ええ。命に別状はないわ」

「ジュリアス君のお見舞いしても良いですか!」

「ええ」


 クレア先生の許可が下りると、繋がれた紐から解放された犬のように、ベッドに直行した。

 間仕切りのカーテンの前で躊躇するが、決心してそろりとそれを開ける。シャッという音がして、水色のカーテンは簡単に開いた。


 私はゆっくりと、頭の方に歩いて行く。

 すると、ジュリアスがベッドの上で仰向けになって目を閉じていた。一回り痩せたようなジュリアスに心が苛んだ。


 手を口に翳してみる。手に湿った吐息がかかった。呼吸はちゃんとしているようだ。

 私は胸をなでおろした。


「えっ……?」


 しかし、すぐに血の匂いを感じて、辺りを見回した。着替えを入れるかごに、血のついているシーツと服が入れられてある。目線を下に戻せば、ゴミ箱に血の付いた脱脂綿やガーゼが捨てられてあった。


「っ……!」


 ただのかすり傷ではないことは、鈍い私でもすぐに理解した。


「う……」

「っ!?」


 ジュリアスが身じろぎしたので、私は吃驚した。


「あれ……? 香姫さん……?」

「ジュリアス君!」


 暢気そうな間の外れたような声の調子だった。

 いつもの朝のように、ジュリアスは目を覚ました。


「どうしたの、そんな顔をして……?」


 ジュリアスは弱弱しいながらも笑っている。

 ジュリアスは布団の下から手を伸ばして、私の手を握った。少し冷たいジュリアスの手は確かに生きている。

 感極まって、私の目から涙がポロポロと零れ落ちた。


「もう会えないかと思った! 手遅れになってしまうって思っ……!」

「香姫さんが助けてくれたんでしょ? だから大丈夫だよ?」

「違うの……! ゴメンね、ジュリアス君! 気づけなくて、ゴメンね!」


 私は、その場に突っ立って、大泣きした。

 ジュリアスは、温かな眼差しで私を見て、慈しむように微笑んでいた。


☆…┓┏━┓☆…┓┏━┓☆…┓┏━┓☆…┓┏━┓

┃第┃┃二┃┃部┃┃二┃┃章┃┃完┃┃結┃┃!┃

┗━┛┗…★┗━┛┗…★┗━┛┗…★┗━┛┗…★


◆◇◆――……第二部三章に続く……!――◆◇◆

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