第十三話 ジュリアスの真相2
私は、グレンが何を言ったのか、心の中で反芻してみた。
私が、妖魔に狙われている……!?
「えっ、何それ!」
私は思わず声に出していた。残留思念の彼らが反応を返すことはない。
ただ、私の心臓が早い鼓動を打っている。
私はどこかでミスをしたのだろうか。妖魔に狙われてしまうような、凡ミスを。それとも、私が可視使いなことがどこからか漏れている……? 一体どこで……?
一人で考えても埒が明かない。かといって、残留思念のグレンに訊くわけにもいかない。
顔を上げると、瞠目しているのは私だけはなかった。残留思念の中のジュリアスも驚愕していた。ジュリアスの見開いた瞳が動揺でゆれている。
そこに残留思念の私が、間の悪い頃合いで教室のドアを開けた。
『ジュリアス君!』
『香姫さん……!』
『二人して何の話ししてたの?』
『いや……。実は、商店街の知り合いの人が怪我をしたらしくてね……』
『えっ、そうなの?』
この時、私はもっと疑うべきだったのだ。商店街の知り合いが怪我をしただなんて、ジュリアスの取って付けた嘘だったのだ。
『じゃあ、グレン君。場所を変えて話そうか?』
ジュリアスは、何も知らない私を巻き込まないようにしたのだ。ジュリアスは一人で解決する気なのだ。
『私も聴いても良い?』
『ダメだよ。香姫さんには関係のないハナシだからね?』
『ええ~っ!』
ジュリアスの優しい笑顔に私の心が苛まれる。
「ジュリアス君……!」
そして、私は可視したままドアを開けて、残留思念のジュリアスとグレンの後を追う。
ジュリアスとグレンは、少し離れた廊下で喋っていた。
辺りに人影はなく、彼らだけだ。残留思念の夕日が彼らを照らしていた。
グレンは辺りを窺って、続きを話し始めた。
『鳥居香姫を狙っているのは、『三億ルビーの賞金首・追憶のフィン』だ。それで、どうする?』
三億ルビーということは、蟻地獄のデュランと同じだ。相当強い。
『勿論、香姫さんの代わりに僕が始末する! それが現れそうな場所を教えてくれないか!』
『ブリリアント町のアレー川付近に午後一時ごろに出没しているとの情報がある』
『分かった、ありがとう。五の月三日に行ってみようと思う』
ジュリアスとグレンはそこで別れた。
「五の月、三日、午後一時――って、今日!?」
呆然自失な感覚に襲われる。
確かに今日の日付だった。とっくの昔に時間は過ぎている。
なのに、ジュリアスはまだ帰ってこない――。
それが何を示しているのか、考えたくもなかった。
私は馬鹿な自分を呪って嗚咽を上げて崩れ落ちた。
混乱で可視した世界が回る。
私はそれを止めるように、床を両手の拳で叩いた。
可視した世界は、私の落ちた涙と一緒に弾けて消えた。
「私は、なんて鈍いの!? この時、一緒について行けばよかったのよ! そして、ジュリアス君の話を聞いて、一緒に解決すればよかったのよ! そうだ、マクファーソン先生に協力してもらって――」
『何かあったのか?』
ふわりと私の前に人影が舞い降りた。私はその声に疑問を持っていたので、可視してそれを見つけることも容易かった。
「っ!? バージル君!」
バージルが、私を見て仕方なさそうに笑っていた。
「バージル君! そうだ! バージル君、助けてほしいの!」
私は、可視したことを一通り説明した。バージルは驚いていたが、力強く頷いた。
『俺様に任せておけ! ひとっ走り行ってきてやるよ! だから待ってろ!』
「うん……!」
緑の風が舞って、バージルは瞬間移動した。バージルのお蔭で不安が軽くなったが、それも長く続かなかった。
バージルが去ってから、十分が経過した。
「バージル君、遅いな……」
私は落ち着きなく、廊下を歩き回っていた。切れかかった魔法灯の音と、夜風が唸る音がしている。それが余計に、私の不安を掻き立てるようだった。
まさか、バージルに何かあったのだろうか。でも、ここからだと私は可視することもできない。そうだ、クレア先生に相談すれば何か。
駆け出そうとした私の前に、緑の風が舞う。バージルが瞬間移動の魔法で帰ってきたのだ。
吹き荒れる緑の風が止んだ。
「バージル君! どうだっ――」
駆け寄ろうとして、私は思わず足を止めた。
「っ!?」
可視している私の目に映ったもの。
それは、顔面蒼白のバージルの姿だった。




