第十二話 ジュリアスの真相*
私は、暫く医務室で過ごした後、女子寮に戻ることにした。女子寮に戻ろうと魔法灯の点いた廊下を歩いていたが、窓の外に惹かれるように足を止めた。窓の外は闇夜が支配しており、風が鳴っている。その夜風の音が、不気味に聞こえた。何か魔物が唸っているような――。
それに、何故か胸の中がすっきりしない。何かが胸の中でつかえているような不快感がある。
「ジュリアス君……! ああ、何でこんなに不安なの!?」
その不安な胸を抱えて闇夜に唸る風の音を聞いていたが、不安が消える様子はない。
何か、私はとんでもないものを間違えているような気がする。
それは何だろう……?
私は立ち止まって、天井の魔法灯のプレートを見上げて煩悶した。
気が付くと、私は踵を返して廊下を引き返していた。廊下には魔法灯が付いていたが、ファルコン組には明かりが灯っていなかった。
これが、世にいう胸騒ぎというモノかもしれない。
「ウィンザーさんは、グレン君が味方だって言ってたけど……」
なら、どうして。
あの時、ジュリアスは私に内緒でグレンと話をしていたのだろう。
そうだ。
ジュリアスはあの時から様子が変だった。
私に何か変わったことはないか、しつこいぐらいに訊いてきた。
ありがたいことに、ファルコン組の教室のドアは開いていた。
きっとこれは急を要することだ。
私は、教室に駆け込んで、ジュリアスがグレンと話していた教室の中ほどに佇む。両手を翳す。呼吸を落ち着けて、目を開く。
可視すると残留思念が映像のように巻き戻っていく。二、三日、前の事だ。そこまで、遡るには相当の体力を使う。
「はああああッ!」
目を酷使して、私は可視し続けた。すると、やっと私がジュリアスとグレンの会話に割り込んだところまで巻き戻ることができた。
あと、もう少し前だ! そう! ここだ!
私が残留思念を再生すると、映像が動き始めた。
ジュリアスは、誰も居なくなった教室を確かめてから、グレンに向き直った。
『アレクシス様から妖魔の情報は、グレン君に訊くように言われているんだけど?』
妖魔の情報……? なんでそんなことを今更――。蟻地獄のデュランはとっくの昔に倒したはずだ。私は眉をひそめて動向を見守った。
グレンが、データキューブを取り出した。
『ご名答、妖魔の居場所の情報は俺が売ってるよ。それで、誰の情報を買う?』
ジュリアスの目が憎しみに染まる。いつも私と話すジュリアスじゃない。
ジュリアスは低音で、憎しみを声に連ねる。
『キャロルを殺した男はまだいたはずだ。キャロルが殺されたとき、傍にいたのは蟻地獄のデュランだけじゃなかった』
「っ!?」
私はこの時になって、ジュリアスが復讐心とまだ戦っていることを知った。
彼は、まだ暗い過去の深淵の縁に捕らわれており、そこから妖魔たちを睨みつけているのだ。
ジュリアスは決意を込めて話す。
『だから、僕はマジックショップで武器やアイテムを買い込んで、復讐するための準備を重ねていたんだ』
「ッッッ!?」
真相の衝撃が強すぎて私はその場によろけた。あの、大量に買い込んだ荷物はこのために――?
私は、ただジュリアスが慰めるために遊びに誘ってくれたとばかり思っていたのに。
ジュリアスは違っていた。ただ、キャロルの復讐の為に。
ジュリアスが心を痛めている間、私はただ商店街の楽しい雰囲気に酔っていた。
頭痛がして頭の血管が脈を打つ。だが、私は可視し続けた。
『……それは、顔か名前が分かるか?』
『記憶があいまいで……』
『なら、無理だな。調べようがない』
『そうか……出直してくる』
本来ならジュリアスとグレンの話はここで終わる。はずだった。
『ああ、そうそう』
グレンの取って付けたような声にジュリアスは何気なく振り返った。
『シェイファー、お前鳥居と仲が良いよな?』
『ああ、仲が良いけど? それが?』
グレンは『実は、明日は彼女の誕生日なんだよ~』と伝えるのと同じような明るい口調で言った。
『実は、鳥居が妖魔に狙われているんだよ~』
グレンは、まるで他人事。
殴られたような衝撃と、時間が止まるような感覚が、一緒に襲ってきた。
一瞬、グレンが何を言ったのか分からなかった。