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不可思議少女は今日も可視する  作者: 幻想桃瑠
◆第二部♚第二章◆【鳥居香姫は不可思議なアレクシスの窮地に忙殺される】
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第二話 アヤシイ雲行き*

 私は、ファルコン組の教室までの廊下を歩いていた。ファルコン組の教室が見えてくると、そこに魔法灯の明かりが点いていることに気づいた。

 誰か居る。私は駆け足で近付いた。


 ファルコン組の廊下に面した窓もドアも閉め切られている。色の違う声が二種類漏れている。しかし、内容までは聞き取れない。


 私はドアノブを掴んで回すと、勢いよくドアを押して開けた。


「ジュリアス君!」


 急に話が止んで、打たれたように二人は振り向いた。

 深刻な話でもしていたのだろうか。私が割り込むことで、急に空気が張りつめた。

 一人は、ジュリアス・シェイファーだ。やはり、ジュリアスはここにいた。

 もう一人は、なんと、ジェイク・グレンだった。意外な組み合わせに、私は目を見張った。

 ジェイク・グレンのことは、ただのクラスメイトだと認識している。彼の事はそんなに詳しくもないが、嫌な印象しか残っていない。私が勝手にライバルだと思っているファウラーと内緒話していたようだし、私とぶつかって転ばせても謝ることすらしなかった。何故か、アヤシイのだ。


「香姫さん……!」


 ジュリアスのセリフが何故か乾いている。私は不審に思い、教室の中に足を踏み入れた。そして彼らに近寄っていく。


「二人して何の話ししてたの?」


 ジュリアスは笑みを作った。それが仮初のものであることは、すぐに気づいた。妖魔である蟻地獄のデュランを欺いたジュリアスだ。演技力だけはあるに違いない。私はますますアヤシイと疑った。


「いや……。実は、商店街の知り合いの人が怪我をしたらしくてね……」

「えっ、そうなの?」


 ジュリアスが即答したため、私がジュリアスとグレンのハダカを可視することだけは避けられた。なんだ。私の気のせいだったのだろうか。


「じゃあ、グレン君。場所を変えて話そうか?」


 ジュリアスはよそよそしく、普段通りを装って教室から出て行こうとしている。私はジュリアスにくっついて、教室の入口の方まで歩いて行った。


「私も聴いても良い?」

「ダメだよ。香姫さんには関係のないハナシだからね?」

「ええ~っ!」


 ジュリアスは廊下に出てドアを閉めてしまった。二人の足音が遠のいて行く。


「アヤシイ……!」


 でも、私は可視使いなのだから、話していた所に置かれている机を可視すれば、良いだけの事だ。そうすれば、ジュリアスとグレンが何を話していたのかもすぐに分かる。


 だが、カタンと音がして、私の注意はドアの後ろに注がれた。まだ教室に誰かがいる。

 それは、私のライバルのデメトリア・ファウラーだった。私はヒヤリとした。どうして、彼女までいるのだろう。もしかして、隠れて盗み聞きしていたのだろうか? それとも、偶然そこに居合わせた? それとも――。


「あら、香姫さん? あの方に友達取られちゃったの?」


 開口一番に何を言うのかと思えば。私は気色ばんだが、すぐに平然を装った。


「そ、そんなことないよ! ジュリアス君は私と仲良いよ! 友達だから!」


 そんな私の見せかけの素振りなど、ファウラーには火を見るより明らかだったらしい。私の動揺を楽しんでいるように私の周りを歩く。ファウラーの髪の香りがふわっと漂った。甘ったるいお菓子のような香りだ。普通の友達なら良い匂いと思うのかもしれない。けれども、私は苦手意識があるので、むせかえるようで気分が悪い。

 私の動向をすっかり無視したファウラーは、私の肩に手を乗せてささやいた。


「私、聞いちゃったの!」

「な、何を……?」

「私の気のせいかもしれないけど。香姫さんの悪口を言っていたような……?」

「……っ!? 嘘よ! でたらめ言わないでよ!」

「だから、私の気のせいかもしれないけどって言ったでしょ?」


 私が可視使いなのは、ファウラーに知られていない。だから、ファウラーが去った後、こっそりと可視しようと心に決めていた。そのためには、ファウラーを帰宅するように促して――。

 しかし。私の他愛のない企みなど簡単に打ち破ることができる。ファウラーはそういう余裕ぶったところがあった。

 けれども、ファウラーが何かする前に、騒がしい足音が駆けて来て、ファルコン組の教室の前で止まった。ドアが勢いよく開く。


「香姫様!」

「し、ウィンザーさん!?」


 私は、ジュリアスが戻ってきたのかと勘違いしていた。それは、アレクシス王子の護衛人のウィンザーだった。

 鍛えた筋肉質な体が、スーツの上からでも感じられる。息ひとつ切らしていないのは流石だ。しかし、何の用で――。


「香姫様! アレクシス様が!」


 私はギョッとした。

 ウィンザーの視界からファウラーは見えていないのか。

 何をいきなり言い出すのだろう。ベラベラと私の秘密まで垂れ流しそうな彼の口に恐怖した。

 ファウラーに秘密を知られたら命取りだ。何をされるのか分かったものじゃない。


(しーっ! しーっ!)


 私はファウラーに見えないように人差し指を口の前に立てて、ウィンザーにジェスチャーを送った。


「アレクシス様ってあのアレクシス様? まさかアレクシス様と香姫さんってお知り合いなの……?」

「そんなわけないでしょ!」


 ファウラーが喋ったことで、ウィンザーは我に返った。そして、私を違う角度から見た。そしてやっと、斜め横にファウラーの姿を発見したらしかった。

 ウィンザーはすぐに、体裁を整えた。


「ええ。アレクシス様は、私の会社のボスなんですよ。誤解してもらっては困りますね」

「ボス? 確かに同じ名前の人って珍しくないものね」


 ファウラーを騙せたのだろうか。その事に、ウィンザーは安堵したらしい。


「香姫様、ちょっと!」

「えっ? えっ?」


 取り繕ったまま、ウィンザーは私を教室の外に引っ張って行った。

 廊下に出てドアを閉める。

 そのまま、私を引っ張って駆け出そうとしたが、私はウィンザーの歩幅について行けなかった。

 ウィンザーはもどかしそうに頭を掻きむしり、決心したように私に向き直った。


「香姫様! 失礼します!」

「ええっ!? ウィンザーさん!」


 いきなりのお姫様抱っこに私は吃驚した。大慌てして暴れても良いが、ウィンザーは切羽詰まっているように見受けられた。暴れる間に、ウィンザーは駆け出した。一人二人の生徒が、私を抱えてせわしなく走る彼を見て不審がっている。


 一体、ウィンザーに何が起きているというのか。

 疑問を持ったため私は自然に可視していた。そのため、ウィンザーのハダカを間近で可視してしまった。

 ウィンザーの鍛えられた黒光りした筋肉に、眩暈がした。

 大胸筋がピクピク動いている。ピクピクと。


「ううっ……」


 私は、見ないようにまぶたを閉じて、自分の目を制御しなおした。

 私の不自然な一連の動作にウィンザーは気付いていない。彼は、前を見据えたままひたすら走る。


「ウィンザーさん、一体どうされたんですか?」


 私が尋ねると、ウィンザーはひと気のない場所で私を降ろす。いつの間にか、医務室の近くまで来ていた。この付近は、教室と離れているので特にひと気がないのだ。

 彼は、辺りを見回した。放課後ということで、特にひと気はなくポツンとしている。

 そして、彼は頷き呪文を唱えた。


「可視編成!」


 風が激しく吹き荒れる。

 気が付いたときには、私は宮殿の中にいた。どうやら先ほどの呪文は、瞬間移動の呪文だったらしい。

 シャンデリアの光が金銀の内装に反射して煌めいている。その輝きに反して、宮殿の雰囲気はいつもより暗い。何やら慌ただしくもある。なにか、宮殿で起きているのか。

 どこにいるのか確かめた後、隣を見て私はさらに深刻になった。

 ウィンザーは焦っている。こんな彼の姿は見たことがない。私が何も言えずにウィンザーを見上げていると、彼はそれに気づいた。


「実は、アレクシス様がお倒れになったのです! 実は毒を盛られていたのかもしれなくて!」

「ええっ!?」


 あの毒を盛っても死ななそうな、あのアレクシス王子が倒れた!?

 私は失礼極まりない事を心の中で叫んだ。心の中に仕舞ったのは、ウィンザーにとがめられそうという理由もあるが、この魔界のような宮殿でそんなことを言ったら、処刑されてもおかしくないと警戒していたからだ。特にここでは良い思い出はない。前回来たときには、アレクシス王子に良いように使われた後、牢屋に入れられて『可視してはいけないもの』を見てぶっ倒れてしまったのだ。


 今回の事で確信した。宮殿には魔物がんでいる。アレクシス王子はその魔物にやられてしまったのだ。人の姿をした恐ろしい魔物が素知らぬふりをして過ごしている。ここは魔の巣窟なのだ。


「うわっ!?」


 私が何か言う前に、また風が轟々と吹き荒れた。誰かが瞬間移動の魔法を使ったことはすぐに感じ取った。複数の制服を着た軍警官が姿を現したからだ。彼らは普通の軍警官とは違う服装をしていた。

 しかし、その中から進み出てきた少年は私と同い年ぐらいの背格好だった。けれども、勲章を沢山つけていて、一際偉そうな感じがする。

 警棒のように彫刻で細工された棒をウィンザーに突き付けて、少年は言った。


「ウィンザー・リスターだな! アレクシス様への毒物混入の罪で連行させてもらう!」

「ええっ!?」


 私はめまぐるしい展開について行けずにいる。

 ウィンザーは彼を睨んだまま歯噛みしていた。

 あどけなさが残る少年が、大の大人のウィンザーに警棒を突き付けている姿は、一種異様な光景だった。


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