第十九話 ファウラーの弱点
決闘は、昼休みに行われた。グラウンドでは、見物客の生徒たちでごった返している。さすがに、この大勢の生徒たちの前で負けると、主導権がどちらに移っても不動なんじゃないか。
ついに、リリーシャ&アリヴィナVSイザベラ&ファウラーの決闘の火ぶたが切って落とされた。
勝負の審判にはマクファーソン先生が駆り出された。マクファーソン先生は研究の途中だったらしいが、リリーシャの変な熱意とファウラーの癇癪に耐えきれず教室から出てきた。なので、マクファーソン先生は普段よりもムスッとしている。
マクファーソン先生が「うぉっほん!」と咳ばらいをした。
「今からリリーシャ&アリヴィナVSデメトリア&イザベラの決闘を行う!」
マクファーソン先生が張り上げた声に一同は盛り上がるだけ盛り上がった。
「始まったね?」
「う、うん」
私はジュリアスと一緒に見物していた。地面に座って二人して応援している。
賑やかな声が聞こえてきて、私は右隣を振り向いた。
「絶対にリリーシャが勝つと思うけどなぁ」
「な! アリヴィナたちの勝利に間違いないってーの」
「リリーシャ、がんばれ~!」
「アリヴィナ、ほどほどにしとけよ~!」
ガーサイドとクェンティンも少し離れたところで一緒に応援している。ガーサイドとクェンティンはリリーシャとアリヴィナと同じで、実は馬が合うのかもしれなかった。
マクファーソン先生が手をサッとあげて「始め!」と合図した。
『可視編成!』
呪文が一斉に唱えられた。アリヴィナとリリーシャは光と炎の魔法。ファウラーとイザベラは水と闇の魔法。それらがぶつかり合って押し合いしている。アリヴィナとリリーシャが力を込めて手を振ると、塊となった魔法はファウラーとイザベラに命中した。
「やった!」
「リリーシャさんとアリヴィナさんの敵じゃないみたいだね!」
私はジュリアスと手を叩き合って喜び合う。
これで、決着がつくのかと安堵したが、土煙が去った後、イザベラとファウラーは無傷で立っていた。
「何ですって!?」
「無傷!?」
アリヴィナとリリーシャは驚いて身構えている。
「この程度なの? これなら、私たちの勝ちね!」
「そうみたいですわね! 私たちの方が強いですわ!」
それを転機に、ファウラーとイザベラの反撃が始まった。
魔法で、畳みかけるようにリリーシャとアリヴィナを追いつめているのだ。
「嘘でしょ……!?」
私は青ざめながらそれを傍観していた。心臓が嫌な音で鼓動を打つ。このまま、リリーシャとアリヴィナが負けたら、ファルコン組の平和はどうなってしまうのだろう!
私は居ても立っても居られず、立ち上がった。
「どうしたの? 香姫さん?」
ジュリアスが不振がっている。
「私……私。ちょっと行ってくる!」
その言葉をジュリアスのもとに残して、私はあてもなく走り出した。
ここでただ見ていたら、リリーシャとアリヴィナは確実に負けてしまう。
私にできること。それは可視することだ。ファウラーとイザベラの弱点を可視したら、突破口が見つかるかもしれない。
私は教室に向かおうとした。けれど、リリーシャとアリヴィナの悲鳴が風に乗ってここまで届いた。ぎくりとして立ち止まる。このまま、教室に向かったら間に合わないかもしれない。
「どうすればいいの?」
こんな所で躊躇して右往左往していても、リリーシャたちが負けてしまうだけだ。
「とにかく、教室に向かわないと!」
決断して走り出した私の前に、ふわりと風が舞った。
『よう!』
「えっ!? ば、バージル君!?」
聞き覚えがある声に私は足を止めた。可視して辺りを見回すと、バージルが立っていた。可視しなければ見えないところを考えると、まだ呪いは解けてないらしい。
『お困りのようだな?』
バージルはニヤニヤしながらこちらを見ている。こないだは、私の事を怖がって逃げていたのに、どういう心境の変化だろうか。バージルの事を無言で見ていたら、脳裏にひらめくものがあった。
「そ、そうだ! バージル君、瞬間移動できるよね! 私をファルコン組の教室に連れて行ってくれないかな?」
『どうして?』
問い返されて、私は言葉に詰まった。私が可視使いなことをバージルに知られたらまずいのではないか。
「……ファウラーさんの弱点を探りたいの」
だから、私は曖昧に言うにとどめた。けれども、バージルの興味を引くには十分だったらしい。彼の目が面白そうに輝いた。
『面白そうだ! 俺様も協力するぜ!』
バージルは私の手を取った。
『可視編成!』
バージルは魔法を唱えると、私を引き連れて教室まで瞬間移動した。
「ファウラーさんの机は……っと」
私はファウラーさんの机の上に置かれている白いレースのハンカチを見つけた。これなら、いつも身に付けているので、弱点が分かるかもしれない。
私はそれを手に取って、可視した。けれども――。
「えっ!? 可視できない!?」
私は愕然となった。