第十八話 因縁の対決
真っ暗な闇の中で、私はシャッターを内側から叩いた。怒りがふつふつとこみあげてきて、気が付いたら怒鳴っていた。
「なんでこんなことするのよ!」
私ががなり立てると、それが面白かったのかファウラーは笑った。
「ムカついたのよ。アリヴィナ・ロイドに復讐できると思ったのにあんたが邪魔するから」
ファウラーは吐き捨てるように言った。
「こんなことしたら、ファウラーさんがまず疑われるわよ!」
「安心して、明日の朝には出してあげるわ」
その時、倉庫の中からがさがさと音がして、キィキィという鳴き声が聞こえた。心臓が止まるほど私は驚いて飛び上がった。
「っ!?」
「そうそう、その倉庫には、アントニア・ボール先生が捕まえてきた魔物が居たわね。せいぜい仲良くすることね!」
アントニア・ボール先生は魔法生物学の先生だ。いつも魔物を生け捕りにしてきて、檻に入れて見せてくれるのだ。捕まえてきた魔物がまだ倉庫に保管されていたのか。
「そんな! 出してよ、ファウラーさん!」
ファウラーの足音が遠ざかってしまった。ファウラーを信用してしまった自分を愚かだと思った。キィキィと魔物の鳴き声が聞こえてきて、私は泣きそうになった。こんな所で一日中いたら変になってしまいそうだ。私は両耳を両手で覆った。
独りでしくしくと泣いていると、シャッターが開いて光が差し込んできた。
そこには、心配そうなジュリアスとアリヴィナが居た。
「香姫さん、大丈夫?」
「ジュリアス君……! アリヴィナさん……!」
「何かあるんじゃないかって、アリヴィナさんが言っていたから。後をつけてきたんだ」
「ありがとう、ジュリアス君」
「まったく、危なっかしいね。香姫さんは」
「えっ?」
ジュリアスが仕方のない子供を見るような目で見てその場にしゃがんだ。心配をかけてしまったのだろうか。
「ご、ゴメン。なるべく迷惑かけないようにしたいと思ってるんだけど……」
「良いよ。香姫さんになら迷惑をかけられても」
「どういう意味?」
ジュリアスは困ったように笑うと、立ち上がって私の手を引いた。
「立ち上がれますか? お姫様?」
「お、お姫様? 前々から思ってたんだけど、ジュリアス君ってキザだよね」
私が笑って立ち上がると、ジュリアスはクスクスと笑っていた。
「香姫、悪かったわね。私のせいであんたが……」
アリヴィナは、ジュリアスの後ろで申し訳なさそうにしている。
「アリヴィナさんが無事ならいいの!」
その言葉に、アリヴィナの瞳が揺れた。
「あんたは異国人だけど良い奴だった。これからは友達だから!」
「う、うん!」
アリヴィナと握手して、私たちは友情を喜び合った。
心の底から嬉しさがこみあげてきた。アリヴィナが友達だと認めてくれた。異国人の私の事を友達だと。
「とにかく、デメトリアだ。あいつと決着付けてくるよ!」
「ちょっと待って、アリヴィナさん!」
「アリヴィナ!」
アリヴィナを止めようとしたとき、後ろからリリーシャが出てきた。
「な、なんだよ、リリーシャ!」
「面白いことするんでしょ? 私もまぜなさい!」
私は、内心うわーとうめいた。リリーシャが絡むと止めるに止められない。
リリーシャについてきたクェンティンも肩をすくめている。
「香姫、リリーシャとアリヴィナに任せておけば大丈夫なんじゃないかな」
「う、う~ん……」
クェンティンはデメトリアの事を全然問題視していなかった。問題児で優等生のリリーシャとアリヴィナを目の前にすると、それも無理のない話だ。
私はリリーシャとアリヴィナが教室に戻っていくのを追いかけた。
「デメトリア! 香姫にしたことを謝れよ!」
アリヴィナが、デメトリア・ファウラーの机を叩いて怒鳴った。ファウラーは鼻で笑い捨てた。
「はぁ? 何のこと?」
余裕綽々で笑っているファウラーの横で、友達のイザベラがアリヴィナを睨んだ。
「貴方の方こそ、デメトリアさんに謝ったほうが良くてよ」
「そうよ。濡れ衣なんだから」
アリヴィナとファウラー、リリーシャとイザベラは、にらみ合って火花を散らしている。
「良いわ、決着をつけよう!」
言いだしたのはアリヴィナの方だった。
「決着? 面白いじゃない。私に勝てたら、全て謝ってあげる。でも、貴方たちが負けたら、分かってるわよね?」
「負けたら土下座でもしてもらおうかしら」
ファウラーとイザベラがクスクスと笑っている。
「その言葉、そっくりそのまま返すわ!」
再び散る火花が怖すぎる。
リリーシャ&アリヴィナVSイザベラ&ファウラーの対決にクラスメイト達はお祭り騒ぎになった。
けれど、私は何故か嫌な胸騒ぎを覚えるのだった。




