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十七枚目 「人生、最初にして最後のモテ期」

「……さて、もう離れたらどうだ、貴様ら。見ているこっちが恥ずかしい」

 遠くから言ってくるのは、眉間にしわを寄せているマキラであった。

「そうです! このままではナティス様が嫉妬で焼け焦げてしまいますっ!!」

「そそそそそっそ、そぉーんなこと、ありませェーんん!!」

「この動揺を見てください!! ナティス様だって、本気でキドウ様のことを好いていらっしゃるのですっ!!」

「それ、そそそそそれは、わたくしかららら直々にぃ、いいい言いますかららららら」

 ……確かにこのままではナティスがおかしくなりそうだな。

 俺は苦笑いしながら、オルフェリアから体を離し、立ち上がった。

 そこから現れたオルフェリアの顔は、これはまた真っ赤になっている。

「おおおお、オルフェぇリアさん、わたたた、わたくしだってて、キキキドウ様のことを、ものものものすごく愛していいいいますから!! ぬぬ、抜け駆けなんて、ししししししし、しないでくださいいいいね」

「う、うむ」

 オルフェリアは心ここにあらずと言う感じの空返事をした。


 あれ……? だけど、なんだろう。

 この世界に来てからというもの、良いことなんて無かったはずなのに。

 もしかして俺……人生、最初にして最後のモテ期真っ最中?

「なあ、クトゥリ。俺、モテモテなのかな、今」

「そのようですね」

「……ジか」

「はい?」


「マジかぁあああぁぁあぁああぁぁぁぁぁあああぁああぁあッッ!!」


 俺はその喜びを噛みしめんばかりに、大声で叫んでやった。

 だって、だって!!

 大学時代はずっと女子だけでなく、男子にも「きんもーい」とか言われ続けたし、バレンタインやクリスマスなんて、インターネットで知り合った知らない奴らと「リア充を呪い殺すオフ会」なるものに参加してたぐらいだ。

 そんな俺に、こんな日が来ようとは思っていなかったわけで。

 俺は嬉しさのあまり、男泣きしてしまう。

「生きてて……よかったぜ」

「キドウ様はどんな人生歩んでこられたのでしょうか」

「うん……語るまい」

「わかりました。まあ、別に聞きたくありませんが」

「最後の補足はいらねェだろうがッ!!」

 クトゥリの態度は相変わらずで、逆にホッとする。

 そんな俺とクトゥリの掛け合いは、オルフェリアとナティスの笑いを誘った。

 その笑顔を見た俺とクトゥリ、そしてマキラも釣られて笑顔になる。




 そうしてから、なんだかんだで今日は遅くなったからこの城の客人用の寝室で寝ることになった。

 夕飯の用意もしてくれるという話にもなったが、今日の出来事が濃厚すぎて早くベッドにダイブしたいと言うことを正直に伝え、クトゥリに客人用の寝室へと案内してもらう。


 ナティスの部屋と比べて小さいベッドだが、俺にとっては充分な大きさである。

 嬉しくなって俺は布団にダイブした。

 ふかふかで、良く寝付けそうだ。


 なんだか今日はいろいろあったな、と振り返る。

 オルフェリアの手料理(?)を食べたせいで腹を壊したり、マキラと再会して、戦闘になったり。

 ノーパンメイドのクトゥリに助けられたり、オルフェリアから衝撃な真実を告げられたり。

 ……なんだかんだで、濃厚な一日だった気がするな。


 疲れも溜まっていたのだろう。横になっていると、急にどっと眠気が襲ってくる。クトゥリが寝間着を持ってきてくれたが、それを着ようという気にもなれない。

 俺はそのまま目を閉じ、久しぶりのちゃんとした睡眠を取るのだった。



   ***



「――ウ様」

 声が聞こえる。

「――ドウ様」

 なんだよ、今日は休みだろ。

 母ちゃんはすぐ俺を起こすな。それで「掃除しろ、勉強しろ、外に遊びにいけ」とか言い出すんだ。


「キドウ様」

「あー、うるさいな! 母ちゃん今日は休みだって言っただろ! 今日は一日中ゲームするんだからほっといてくれよ!!」

 俺は布団の中に潜り込み、不機嫌にそう言う。

「……キドウ様、クトゥリはあなた様を産んだ覚えがありませんが」

 聞こえてきたのは、若い女の声だった。

 母ちゃん、こんな声してたっけか。

 まだ夢見心地であった俺は、眠たい目を擦りながら恐る恐るその人物を見た。

 そこには、秋葉原のメイド喫茶で働いていそうなメイドさんが居るのだ。

 あれ、これってえっちいデリバリーサービスかな。頼んだっけ、そんなの。

 でも、よくよく彼女の顔を見ていると、どこかで見た覚えのある人物だということに気が付いた。

「……あれ、夢の中の人だ」

「なにを寝ぼけていらっしゃるのですか。寝言は寝てからおっしゃってくださいませ」

 俺は辺りを見回す。

 自作した自慢のパソコンも、俺の大好きな『むちきゅん☆はんたー』というエロゲーの特典である、非売品フィギュアも見当たらない。

 目に入ってくるのは、俺に慣れ親しみの無い高価な壷や置物ばかりであった。

「……ほえ」

「朝は苦手なのでしょうか、キドウ様」

 俺は状況の整理のため、彼女の顔を見ながら考えた。

 …………、ん、あ、そうだッ! 思い出したぞ!

「おー、ノーパン痴女ちっぱいメイドのクトゥリさんだ。おはよー」

 俺が親しみを込めてそう呼ぶと、彼女はいきなり俺の額にクナイをぶっさす。

「……いでえええええええええ!」

「どうですか、キドウ様。最高の朝のお目覚めになりましたでしょう?」

「んなことねえよおおおおおお!!」

 俺はすぐに額に刺さったクナイを抜き取ると、飛び上がりクトゥリを睨んだ。

 とうのクトゥリは、冷たい目線を俺に向けるばかり。

「でも、目が覚めましたでしょう」

「ああ! おかげさまでなぁッ!!」

 俺の額からぴゅーっと血が出てる。

 ……いつか、血液が足りなくなりそうだな。

「それよりも、朝食の用意ができておりますので、キドウ様をお呼びに来たのですが。要りませんでしたでしょうか?」

 それを聞いた瞬間、俺の腹の虫がくくく、と鳴く。

 その腹の虫のの鳴き声を聞いたクトゥリは、意地悪そうに笑った。

「その様子では、要らなさそうですね」

「今腹の音聞こえてたよね?! わざとかな? わざとでしょう?!」

 するとクトゥリは口元に手を添えて、笑いを堪えている。

 ……絶対にわざとだな。

「…………では、要らないとナティス様にお伝えしてきます」

 そう言うと、クトゥリはそのまま扉の方へと歩いていく。

「ちょおお!! なんでそう言う話になるのぉッ! 要らないなんて一言もいってないからッ!」

「…………ぷふ」

 ……思いっきり吹き出してる。

 このメイドめぇえぇえええ!

「では外でお待ちしております。せめてそのご立派なものだけ落ち着かせてから出てきてくださいますよう、お願い致します」

 ふいに振り向いたクトゥリの笑顔に、たまらずドキッとしてしまう。

 この鬼畜ドSメイドもこんな女の子らしい笑顔を見せるんだ。

 そんなことを思っていると、扉はぴしゃりと閉まった。

 ……そういえば、なんか言ってたな、あのメイド。

 えっと、「せめてそのご立派なものだけ落ち着かせてから出てきてください」…………、だったか。

 その意味を理解しかねていると、ふと目に入った俺の股間がジャスティスしていることに気が付く。

「あああ――」

 俺の顔が熱くなり、恥ずかしさのあまり大声で叫んでいた。


「朝立ちしてるじゃねえかああああッッ!!」


 元気よくジャスティスしたムスコを必死で押さえつけ、俺はまた布団の中へと潜り込んだ。




 それから、ジャスティスした俺のムスコを宥め、そのまま寝室を後にする。

 扉を開けすぐ、目の前にはクトゥリが居た。

 普通に元気になったら見られても恥ずかしくないんだけどな。

 朝立ちだけはどうも駄目だ。

 母ちゃんに見られたことが尾を引いているらしい。

「……大丈夫のようですね。では行きましょう」

「お、おうッ」

 そのジト目でまじまじと股間を見つめないで……。

 感じちゃうからッッ!


 クトゥリが歩き出すと、俺はその後ろをひょこひょこと付いていった。

 大きな通路をずんずんと進んでいくと、何人か使用人……だかメイドさんだかとすれ違う。

 その度に、「おはようございます」と挨拶されるものだから、俺はひっきりなしに挨拶していた。

 挨拶だけで何回しただろう。

 そんなことを考えながら、大きな階段を上っていくと次は右に回った。

 …………、もう迷子決定。ここがどこだかわからん。

 俺はキョロキョロしながら挙動不審にしていると、クトゥリが歩みをピタリと止めた。

 なんだと思って、クトゥリが見ている方を向くと、そこには立派な装飾が施された扉がある。

 そして彼女は扉を二回ノックしてから口を開いた。

「キドウ様をお連れしました」

「どうぞ、入ってください」

 その声を確認すると、クトゥリは「失礼します」と言いながら扉をそっと開ける。

 すると、その部屋には大きくて長いテーブルがあった。

 一番見晴らしの良いお誕生日席……といえば分かりやすいだろうか。そこに、ナティスがちょこんと座っていた。

「キドウ様、おはようございますっ」

 けしからん乳を上下に動かし、朝から誘ってくるナティス。

 ……本日二回目のジャスティス決定。

「キドウ、おはようなのじゃ。よく寝れたかの?」

 ナティスの近くの席に座っていたのはオルフェリアであった。

 オルフェリアは俺と目が合うなり、微笑んでくれる。

 少しドキッとしてしまった俺は、つい視線をそらし、頭を掻きながら挨拶した。

「お、おう。おはよう。よく寝れたぜ?」

「そうか、ならよかったのじゃ」

「クトゥリ、キドウ様を席まで案内してあげて」

「かしこまりました」

 クトゥリは軽く会釈をすると、オルフェリアと反対側の席へと案内される。

 丁度、オルフェリアと真正面になる席だった。

「こちらへどうぞ」

 クトゥリは椅子を軽く引き、座りやすく配慮してくれる。

 なんか、貴族になったみたいだな……。落ち着かない。

 そんなことを思いながら椅子の前に立つと、クトゥリはそっと椅子を手前に出してくれ、俺は自然な流れでその椅子に座った。

「では、お食事の仕度をいたしますので、少々お待ちくださいませ」

 クトゥリは一礼すると、すたすたと歩いていく。

 てか、大きい部屋だな……。

 俺が最初に案内された客間より、二倍近く広い。

 テーブルや椅子はアンティーク っぽいし、テーブルに敷いてある布なんてキメが細かく、手触りがとても良い。

 たぶん、これをシルクっていうんだろう。

 この環境に落ち着くことができない俺は、とにかく辺りを見回していた。

 すると、俺の目におかしな光景が飛び込んできた。

「どうしましたか? キドウ様」

「あ……いや、マキラ……がいるのに席が遠いなぁって」

 そう。

 俺達はナティスの近くに腰を落ち着かせているというのに、ナティス大好きな百合のマキラだけ、反対側の隅で寂しそうにしているのだ。

「マキラには罰を与えております。気にしないでくださいませ」

「ええッ?! 罰って、マキラなんかしたのか?」

「忘れたかの? マキラ・ゾマはわらわ達を殺そうと襲ってきたではないか」

「いや、忘れてないけど……」

 俺はその話を聞きながら、マキラの方を見る。

 彼女はそれはそれは寂しそうに水をすすっているのだ。

 もう、その姿はご主人様に怒られた大型犬にしか見えない。

「でも、どんな罰なんだよ……」

「わたくしが『良し』と言うまでは、キドウ様やわたくし、オルフェリアさんに近付かない。という罰です」

「それが罰、か。可愛い罰なんだろうけど、マキラ、相当堪えているようなんだが」

 何気なくいった一言がマキラの耳に届いたのか、俺の方を向いて瞳を輝かせて見つめてきた。

 その瞳は何年か前に流行った小型犬『チワワ』にも似ている。マキラの潤んだ瞳は、俺に「どうにかしてください」と言わんばかりの視線を送りつけてくる。

 ……どうしたものか。

 別に俺が説得すればナティスはマキラを許してくれるだろう。なんせ、ナティスは俺にほの字なのだから。

 俺はむむむ……と考えていると、マキラは今にも泣きそうな表情で俺を見つめてくる。

 ……うう、視線が痛い。

 俺は頭を悩ませていると、ふと脳裏に良い考えが(よぎ)る。

 そうだ! ここでマキラに恩を売れば、命を狙われることもない。もしかしたら、「わ、私は百合だが、き、貴様だけなら……許してやってもいいぞ」とか()じらいながらパンツのその下を見せてくれるかも知れない……。

 うん、俺の股間が三回目のジャスティス!

 俺は下心を悟られないよう、細心の注意を払いながらナティスに声をかけた。

「……なあ、ナティス。もうマキラの罰はいいんじゃないか? こっちで顔を合わせながら食べた方が、より美味しいと思うんだけど」

「駄目です! マキラの勝手な行動で、キドウ様とオルフェリアさんを危険な目に合わせてしまいました。わたくしが出来ることはこれしかありませんっ!」

「だけどさ、ほら。マキラだって反省してるよ。忠誠を誓った人の側に居れないのは、マキラにとってとても苦痛だと思うんだよ」

「ですが……、マキラは」

 ナティスはそこまで言うと困った表情をしている。

 うーん、ほの字といっても一筋縄ではいかないようだ。

 すると、さして話に入ってこなかったはずのオルフェリアが口を開いた。

「わらわは気にしていないのじゃ。現にキドウもわらわもピンピンしておる。誰かが死んだわけでも、傷付いたというのも幸いなかったのじゃから、気にすることはないと思うがの」

 オルフェリアは俺を見ながらフォローしてくれる。

 ……さすが、俺の嫁候補!!

「うーん、どうしましょう」

 ナティスは顎に手を添えて、可愛らしく首を捻る。

 うーん、まだ足りないようだな。

 俺も頭を悩ませていると、マキラがいる方から声が聞こえてきた。

「ナティス様。差し出がましいのは重々承知ですが、クトゥリからもお願いいたします」

 クトゥリはそう言うと深々とお辞儀をする。

 ……って、クトゥリ。朝食取りに行ったんじゃないのか?

「クトゥリ……」

 遠目からでもマキラが今にも泣きそうなのがよくわかった。

「こんなお方でも、近衛騎士団・団長でございます。今のままでは使い物にならなくて仕方がありません」

「…………おい」

「キドウ様と対等に渡り合えるような変態ですが、こんな変態とはいえ、ナティス様の盾。使えなければ意味がありません!」

「言わせておけば、言いたい放題言って……。この…………侍女風情があっ!!」

 今まで悲しそうな表情をしていたマキラの顔が、鬼のように豹変する。

 そして腰にぶら下げていた剣を抜き取ると、クトゥリに向かって降り下ろす。

 クトゥリもそうなることを予想していたのか、素早い動きで武器を魔法陣から取り出すと、その攻撃を受け止めた。

「やはり、マキラ様はそうでなくてはつまらないです」

 クトゥリはそう言うと、にっこりと微笑む。

 それを見たマキラは不快感を露にしたままクトゥリを睨む。

「なにっ」

「マキラ様がマキラ様らしくなければ、クトゥリ達も調子が狂う、ということです。……ですから、ナティス様」

 それを聞くと、クトゥリは先に武器を下ろす。

 マキラもクトゥリが何を言いたいのかわかったのか、無言で剣を鞘に収めた。

「…………、わかりました。今回は皆さんの顔に免じて、マキラを許しましょう」

 ナティスは根負けしたのか、溜め息を吐き、そう話してから微笑んだ。

 それを聞いたマキラの表情は、みるみる輝いていく。

「あ、ありがたき幸せ!!」

 そんな幸せそうなマキラに、俺は目で「ちゃんと恩を返せよ」と訴える。

 マキラもさすがにそれを承知なのか、手を合わせて礼を言いたそうだった。

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